International Mini-Conference on Sustainable Growth and Asian Energy Policyに出席しました。
最初の発表者は、東京大学の金子祥三先生です。
タイトルは、Japan’s Energy Policy after 3.11, 2011
震災後の政策変化
n 震災前は、CO2削減のために電力の3分の1を原子力でまかなう計画であった。しかし、震災後、これは現実的ではなくなり、原子力への依存度を減らす方向に大きく動いている。ただ、再生可能エネルギーへの依存度を急には高められない。
石炭火力発電の果たす役割
n 現在、日本の発電所で使用されるエネルギーの58%は、冷却などによりロスしている。この効率性を上げることは大切になる。ガスタービンとスチームタービンを組み合わせたコンバインドサイクル発電は、高効率性という点で大きな可能性を持つ。
n 現在、川崎のコンバインドサイクル発電では、53%の効率性を達成している。つまり、エネルギーのロスが少ない。トリプルのコンバインドサイクル発電では、65%の高効率性の達成が見込まれる。
n LNGはクリーンで良いのだが、タンカーで浦賀を通って東京に供給されている1日のLNGのリザーブは1週間分しかない。1週間、何らかの理由で供給がストップすると、LNGを使った発電は止まることになる。この点でも、石炭を使った火力発電の高効率性の果たす役割は大きい。
といった内容で、石炭火力発電の重要性がよく分かる発表で、大変勉強になりました。
この発表の中には、イノベーションという観点から様々な興味深いポイントがありました。
その中の1つが、既存技術と代替技術の間の競争とイノベーションです。
n ネイザン・ローゼンバーグも言うように、新しい代替技術は、新しい技術内での競争があるばかりではなく、既存技術との間でも厳しい競争に直面します。多くの場合、新しい技術が誕生したばかりの時には、既存技術の累積的なイノベーションによる効率性の向上に、なかなか勝てません。
n しかし、新しい技術の間だけでなく、既存技術との競争によって双方のイノベーションが促進されるわけです。
n 新しい技術へのトランジションをどのように行なっていくのかは、企業のマネジメントの観点だけでなく、国レベルの重要な政策課題でもあります。特に、アメリカと比べると、労働市場や資本市場の流動性がそれほど高くない日本では、技術の転換を組織の中で行なっていく必要性が高いのです。つまり、技術のトランジションのマネジメントがより重要だと言えます。
n また、既存技術にとっては、新しい代替技術が支配的になった時に、どのように補完関係を構築していくかが重要なポイントとなります。石炭火力発電の場合も、現在果たしている役割と将来的にそれが果たす役割では変わってくるでしょう。将来的にはリニューアブル・エナジー技術に対して、どのような補完関係を築くのかは大きなイシューとなるはずです。この点に関しても、戦略的なマネジメントが大切になってきます。
(清水洋)