3月16日
以前、開発者の正田氏をお迎えして、東京で講演会を開きました。その時に、既に、日本の製造業の強さが凝縮していることを感じていましたが、今日は、その印象がさらに強固なものとなりました。
開発リーダーの正田部長とガスタービン初号機 |
高温で作動可能なタービンを実現するには、タービンの羽の冷却効率を上げることと、耐熱性を高める必要があります。ここに三菱重工のノウハウが詰まっています。そしてそのノウハウは簡単に真似できそうにありません。説明は受けてもよくわかりません。だから事業としてうまくまわっているわけです。戦略論の基本です。
鋳造で作られるタービンの羽の中には、空気が通る溝が形成されており、そこに空気を流して羽の表面からうまく吹き出させることによって冷却します。こういえば簡単なのですが、これをつくるのが難しい。羽の外側は、マッハ1のスピードでまわっており、しかも、1500℃を超える高温下で動作しています。鋳造品であること自体、信じられません。
耐熱性を高めるために表面には特殊なコーティングが施されます。そういえば簡単ですが、このコーティング材料とコーティング方法がノウハウの塊です。とてつもない高温の中でも、割れたりはがれたりしないようにコーティングすることは極めて難しいわけです。
燃焼器にも、燃料のガスと空気を均一に混合させる様々なノウハウがあります。全体で300tにもおよぶタービンを、ミリ単位の精度で組み立てる上でも、目に見えない様々なノウハウがあります。タービンの羽とケーシングとの隙間はミクロン単位に抑えられます。冷却空気をタービンに送り込むにも微妙な調整が必要になります。などなど、次から次へと様々なノウハウが出てくるのですが、どれをとっても、言葉ではわかったつもりでも、その本当の中身は素人には見えません。
こうした微妙なノウハウが積み上がって、三菱重工の強みが形成されています。「日本のものづくりここにあり」といった感じです。こうした事業をみていると日本の製造業の将来も明るく思えてきます。ただ、こうした事業が日本から減っているのが問題です。
今日の見学では、ノウハウの塊という以外にも、いろんな成功の秘訣が見えてきました。その1つは、研究所、開発、製造の協業です。よくいわれることですが、実際にうまくいってるという印象でした。研究所ではシミュレーションや試作機を使った実験を通じて、様々なデータと科学的知見が蓄積されており、それが、次世代の開発にフィーバックされています。現場のノウハウといっても、科学的裏付けがあります(おそらく全てではないでしょうが)。
また高砂にはT地点と呼ばれる実証発電設備があります。これは実証設備とはいっても、40万kw近い出力を持つコンバインドサイクルの実発電所です。実際にIPPとして関電に電気を供給しています。
ただ主たる目的は、飽くまでも、新機種の実証試験にあります。新機種を顧客に出荷するまでには、様々な試験が繰り返されるわけですが、性能要件が厳しくなるにつれて、精度の高い実証試験が求められてきています。そこで実際の発電所をもって実証をしているわけです。大変な投資額なのですが、実証精度を高める上でも、また顧客(この場合には関電)のニーズを把握する上でも重要な設備となっています。
研究、開発、製造、実発電レベルの実証設備を全て同じ敷地内にもっているのは、世界でも三菱重工だけです。性能を高めるにはここまでやるのかといった感じで「脱帽」です。
日本らしい成功事例です。久々に元気になりました。こうした産業領域は減っていると思いますが、まだいける領域もあると思います。
エネルギー供給という点からすれば、燃料費が相対的に安い天然ガス火力発電は、当面重要な役割を果たすことになると思います。コンバインドサイクルでエネルギー効率が60%くらいまでいくのであれば、CO2排出という点でも石炭火力の半分くらいになります。
原発の減少分を埋めるには当面、この日本の強みが凝縮したガスタービン技術を活かすことが必要だと思いました。日本経済の活性化とも両立します。もちろん、今後の天然ガスの値段によってその経済性は大きく変わってきますので、一方で再生可能エネルギーの可能性を模索する必要はあります。ただ、その場合にも、出力が不安定な再生可能エネルギーの山谷を補完するために、出力調整の素早いガスタービンの役割は当面大きくなると思います。
(青島矢一)