2014年6月19日木曜日

小型地熱・温泉発電の可能性(12):小浜温泉バイナリー発電実証事業結果

2014年6月18日

環境省の支援により長崎の小浜温泉で行われていた温泉地熱発電の実証実験結果の報告書がでました。訪問したときには、実証実験中ということで稼働状況の詳細は教えていただけませんでしたが、あまりうまく稼働していない感じではありました。報告書をみる限り、やはりうまく稼働しなかったようです。スケールの問題が大きかったようです。




若い人たちが地元の人たちや大学の人たちと一緒になって進めていたプロジェクトだけに残念です。


小浜温泉の実証実験では、72kW の神戸製鋼製マイクロバイナリーを3基導入していました。設計上の出力はそれぞれ46kWということでした。


報告書によりますと、3基合計での稼働率(年間どれだけ機械が動いていたか)は44.1%です。半分以上の時間は止まっていたことになります。稼働率の最も高い月は10月で65.1%ですが、最も低い1月は26%に過ぎません。


設備利用率(設計上の出力で100%稼働したときの発電電力量に対する実際の発電電力量の割合)はさらに低く、3基合計で26.2%です。発電電力量は298,503kWhです。ただこの発電電力量は所内電力を含んだ値であり、所内のポンプや冷却塔などの補機動力分を差し引くと(購入分を含む)、供給できた電力量は、その半分以下の103,792kWhにすぎません。


これではたとえ40円/kWhで売電できたとしても(今回は、環境省の実証実験なので売電はせず、近くの施設に送電している)、年間415万円程度にしかなりません。初期投資は49,700万円、年間ランニングコストは1,340万円ということですので、ランニングコストさえ回収できないことになります。


最大の問題は、熱水輸送管や熱交換器にスケールが付着して、発電用温水供給が不足したことと、スケール除去のために発電を停止しなければならなかったことです。付着したスケールの写真が何枚も掲載されていますが、配管の直径の8-9割もスケールで詰まっているものもあり、スケール問題の深刻さを示しています。


確かに前回訪問したときも熱交換器のスケール除去のために止まっている発電機がありました。また動いている発電機の出力も10-20W 程度と、非常に低かったことを覚えています。スケール対策で長年苦労してきた現地の温泉事業者の人たちは、「最初からわかっていたのに」とはやくから問題に気づいていたようですから、長年の経験を設計や施工にもっと生かす必要があると思いました。


報告書では、実証試験後の展開として、事業性の検討が行われています。3つのケースが検討されており、その中で、現状の3基をそのまま動かし、130thの湯量を確保し、設備利用率58.2%、稼働率95%というケースが最も収益性がよいとして示されています。40円/kWhでの15年間の売電期間で内部収益率(IRR)が5.99%と試算されています。設備はほぼ止めないということですから、徹底的なスケール対策をするということなのだと思います。


しかし、この試算は、実証設備を買い取り、修理をして使用することを前提としています。試算によると、買取金額は11,000万円、3基で3,000万円、設備改修費は5,000万円となっています。配管工事や電気工事は必要ありませんので、初期投資はこの8,000万円だけとなります。したがって、この試算は他の地域には全く適用できません。もし実証試験での初期投資額である49,700万円もかかってしまったら、たとえ100%稼働でも、全く成り立ちません。


もちろん実証設備の場合には、様々な追加費用がかかっているので(実証設備はお金かかりすぎだと思いますが)、実際に必要な初期投資額はもっと少なくなるでしょうが、それでも発電設備本体だけでも9,000万円近くかかりますから、おそらく2億円はくだらないと思います。となると、はやり経済的には難しいと思われます。


試算の中身を見ますと、源泉の清掃(450万円)、冷却水(200万円)、薬剤(100万円)だけで、合計750万円もかかっています。ここからも、結局、スケール問題がでにくく、冷却水が豊富にあることが決定的に重要な条件であることがわかります。



2014年6月3日火曜日

小型地熱・温泉発電の可能性(11):五湯苑から大分ベンチャーキャピタルへ

2014年5月24日

五湯苑地熱発電所外観


小国町のまつやさんのバイナリー発電所と中央電力が進めているフラッシュ発電の装置を見学した後、別府に戻って、「日帰り温泉五湯苑」に設置されている神戸製鋼のバイナリー発電装置を見学にいきました。車でずいぶんと山奥まで入ったところにあり、わかりにくく、迷ってしまいました。


http://www.kobelco.co.jp/releases/2014/1189327_13888.html


ここは、西日本地熱発電という地元企業が事業主体となっています。http://www.nch-pg.co.jp/jisseki.html
地元の施工業者さんたちが出資して温泉地熱事業を行うために2013年に設立した企業のようです。泉源を借りて、発電事業をするという事業モデルです。発電所をつくるにはそれなりの投資が必要であり、そのリスクゆえに、泉源を所有者していても簡単には手を出せません。



小国のまつやさんの場合には、この問題を、保守会社とSPCをつくり、リース会社から設備を借り受けるモデルで解決していました。西日本地熱発電は、泉源所有者と発電事業者を分離することによって、この問題を解決しているといえます。コスモテックさんに泉源を貸している瀬戸内自然エナジーさんの例も同じです。



僕も最初に別府にいったとき、温泉発電を広げるには、このやり方が良いと思いました。ただ、温泉発電自体の経済性が上がらないと、どんな事業モデルであっても長続きしません。



五湯苑のバイナリー発電所は完全に囲われており(有刺鉄線とセンサーもあり近づけません)、全く中には入れませんでしたので、稼働状況はわかりません。HPによりと最大出力は91.6kWということです。

神戸製鋼製バイナリー発電装置


五湯苑を後にして、温泉発電への出資を行っている大分ベンチャーキャピタルを訪問しました。大分ベンチャーキャピタルは、1997年に設立された大分銀行のグループ企業です。地域発展のためにさまざまなファンドを立ち上げており、そのうちの1つが「おおいた自然エネルギーファンド」です。これは、温泉熱発電などの再生可能エネルギーの活用や導入を通じて、地域の活性化を図ろうという意図をもって設立されたもので、大分銀行の他、地元の金融機関に加えて、大分県や(環境省の外郭団体である)グリーンファイナンス推進機構も出資者として名を連ねています。公的機関が入っていることから推察されるように、FITによる売電利益を地元に還元しようというスキームになっています。


自前の温泉源を保有している人のみが投資の対象で、泉源を借用して事業を行う人は対象外となっています。したがって対象者は、温泉旅館や配湯業者となります。


投資フローは、第一ステップから第四ステップまであります。第一ステップでは、有望な投資先を探索し、見込みがありそうであれば、第二ステップの簡易調査(簡易な熱源調査)に進みます。この段階では持ち込み案件も多いそうです。問い合わせも40件くらいあったとのことでした。現在、第二ステップにあるのは、2324件です。簡易調査は1件あたり数十万円かかりますが、それはすべて大分VCが負担します。


ここで有望であると判断されると第三ステップの詳細調査に進みます。詳細調査は地熱調査専門会社に依頼し、1件あたり200500万円かかります。これはすべてファンドが負担しています。調査データは公開して他の案件にも役立てるということでした。


そして詳細調査で事業性が確認されると、第四ステップへと進み、実際の投資が実行されます。設備・施行費用はすべてファンドからの資金でまかなうことになっており、上限は2億円、平均的には1億円程度を想定しています。現状では、第四ステップまで進んだ案件が4件、第三ステップにある案件が3件です。


発電事業を計画する温泉保有者には、かならずSPCを設立してもらい、ファンドはそのSPCに出資もしくは貸し付けを行うようになっています。本業から分離して、旅館業や配湯事業に影響を与えないようにするためです。温泉保有者は、SPCに出資するとともに泉源を貸与し、その見返りとして泉源の賃借料を得ます。売電収入はSPCに入り、そこからファンドに対する返済、保守費用、会計処理費用などが支払われます。返済は78年が想定されています。

大分ベンチャーキャピタルHPより


こうして書きますと、発電事業者(温泉旅館とか配湯業者)に対する手厚い支援を提供するスキームになっていることがわかります。事業者はほとんどリスクを負うことなく、保有している資源を活用することができ、いくらかのお金が手元に残ることになります。このファンド自体は、貪欲に利益を追求する主体ではなさそうです。大分県や環境省が絡んでいることからして、地域活性化という目的が大きいのだと思います。大分銀行もこれで儲けるというよりは、地元が発展することが、長期的に自社にとっても利益になると考えているのではないかと思います。

こうした考えは大変よいと思いますし、是非とも地域の活性化につながってほしいと思います。


ただ、一方で、温泉地熱の経済性確保が厳しい状況を観察してきた立場からすると、もっと貪欲に経済性を追求するような企業家が登場してこないと、いつまでたってもFIT頼みの補助から脱却できないのではないかという、不安はぬぐえません。(青島矢一)