2014年5月24日
五湯苑地熱発電所外観 |
小国町のまつやさんのバイナリー発電所と中央電力が進めているフラッシュ発電の装置を見学した後、別府に戻って、「日帰り温泉五湯苑」に設置されている神戸製鋼のバイナリー発電装置を見学にいきました。車でずいぶんと山奥まで入ったところにあり、わかりにくく、迷ってしまいました。
http://www.kobelco.co.jp/releases/2014/1189327_13888.html
ここは、西日本地熱発電という地元企業が事業主体となっています。http://www.nch-pg.co.jp/jisseki.html
地元の施工業者さんたちが出資して温泉地熱事業を行うために2013年に設立した企業のようです。泉源を借りて、発電事業をするという事業モデルです。発電所をつくるにはそれなりの投資が必要であり、そのリスクゆえに、泉源を所有者していても簡単には手を出せません。
小国のまつやさんの場合には、この問題を、保守会社とSPCをつくり、リース会社から設備を借り受けるモデルで解決していました。西日本地熱発電は、泉源所有者と発電事業者を分離することによって、この問題を解決しているといえます。コスモテックさんに泉源を貸している瀬戸内自然エナジーさんの例も同じです。
僕も最初に別府にいったとき、温泉発電を広げるには、このやり方が良いと思いました。ただ、温泉発電自体の経済性が上がらないと、どんな事業モデルであっても長続きしません。
五湯苑のバイナリー発電所は完全に囲われており(有刺鉄線とセンサーもあり近づけません)、全く中には入れませんでしたので、稼働状況はわかりません。HPによりと最大出力は91.6kWということです。
神戸製鋼製バイナリー発電装置 |
五湯苑を後にして、温泉発電への出資を行っている大分ベンチャーキャピタルを訪問しました。大分ベンチャーキャピタルは、1997年に設立された大分銀行のグループ企業です。地域発展のためにさまざまなファンドを立ち上げており、そのうちの1つが「おおいた自然エネルギーファンド」です。これは、温泉熱発電などの再生可能エネルギーの活用や導入を通じて、地域の活性化を図ろうという意図をもって設立されたもので、大分銀行の他、地元の金融機関に加えて、大分県や(環境省の外郭団体である)グリーンファイナンス推進機構も出資者として名を連ねています。公的機関が入っていることから推察されるように、FITによる売電利益を地元に還元しようというスキームになっています。
自前の温泉源を保有している人のみが投資の対象で、泉源を借用して事業を行う人は対象外となっています。したがって対象者は、温泉旅館や配湯業者となります。
投資フローは、第一ステップから第四ステップまであります。第一ステップでは、有望な投資先を探索し、見込みがありそうであれば、第二ステップの簡易調査(簡易な熱源調査)に進みます。この段階では持ち込み案件も多いそうです。問い合わせも40件くらいあったとのことでした。現在、第二ステップにあるのは、23−24件です。簡易調査は1件あたり数十万円かかりますが、それはすべて大分VCが負担します。
ここで有望であると判断されると第三ステップの詳細調査に進みます。詳細調査は地熱調査専門会社に依頼し、1件あたり200〜500万円かかります。これはすべてファンドが負担しています。調査データは公開して他の案件にも役立てるということでした。
そして詳細調査で事業性が確認されると、第四ステップへと進み、実際の投資が実行されます。設備・施行費用はすべてファンドからの資金でまかなうことになっており、上限は2億円、平均的には1億円程度を想定しています。現状では、第四ステップまで進んだ案件が4件、第三ステップにある案件が3件です。
発電事業を計画する温泉保有者には、かならずSPCを設立してもらい、ファンドはそのSPCに出資もしくは貸し付けを行うようになっています。本業から分離して、旅館業や配湯事業に影響を与えないようにするためです。温泉保有者は、SPCに出資するとともに泉源を貸与し、その見返りとして泉源の賃借料を得ます。売電収入はSPCに入り、そこからファンドに対する返済、保守費用、会計処理費用などが支払われます。返済は7−8年が想定されています。
大分ベンチャーキャピタルHPより |
こうして書きますと、発電事業者(温泉旅館とか配湯業者)に対する手厚い支援を提供するスキームになっていることがわかります。事業者はほとんどリスクを負うことなく、保有している資源を活用することができ、いくらかのお金が手元に残ることになります。このファンド自体は、貪欲に利益を追求する主体ではなさそうです。大分県や環境省が絡んでいることからして、地域活性化という目的が大きいのだと思います。大分銀行もこれで儲けるというよりは、地元が発展することが、長期的に自社にとっても利益になると考えているのではないかと思います。
こうした考えは大変よいと思いますし、是非とも地域の活性化につながってほしいと思います。
ただ、一方で、温泉地熱の経済性確保が厳しい状況を観察してきた立場からすると、もっと貪欲に経済性を追求するような企業家が登場してこないと、いつまでたってもFIT頼みの補助から脱却できないのではないかという、不安はぬぐえません。(青島矢一)