前記事では、福岡県の海水淡水化センターの設立背景と、そこで使用されている膜エレメントについて報告しました。今回は、海水淡水化施設の稼働状況と造水コストについて、今わかる範囲のことを報告したいと思います。
◆稼働状況
海水淡水化センターを見るときに気になるのは、稼働状況です。沖縄の海水淡水化施設では稼働率が10年間の平均で25%と、かなり低い水準にとどまってしまっていました。その主な理由は、ダムが整備されたことと高い造水コストにありました。
では、福岡はどうでしょうか。福岡地区水道企業団の『環境保全実行計画評価書』の報告をもとに、生産水量(m3)、使用電力(kWh)、一日あたり生産水量、電力生産性(1kWhあたりの生産水量)の推移を示したのが、下の表です。
福岡の場合、一日あたりの最大生産水量は50,000m3ですから、一日あたりの生産水量から計算される稼働率は70.9%(H20)、83.4%(H21)、78.0%(H22)となります。沖縄と比べると、高い稼働状況であることがわかります。守田(2011)に基づいて、もう少し長い時間軸で一日あたりの生産水量の変化を辿ると、40,000m3(H17)、30,000m3(H18)、40,000m3(H19)、36,000m3(H20)、37,000m3(H21)となります。ここで記されている平成20年度の数値(36,000m3)と上記表の値(35,582.6m3)の間にも、そこまで大きな乖離はありませんので、大方の傾向はこれで辿れると思います。やはり福岡の方が相対的に高い稼働率で推移してきています。
◆電気代の重さ
電気代はどうなっているのでしょうか。「まみずピア」における海水淡水化の電気代については、今のところ断片的な情報しか見つけられていません。海水淡水化センターを建設する当初の時点の試算として、太田(1999)は230円/m3と報告しています。稼働後、日本機械工業連合会が2010年に発刊した『平成21年度 アジア諸国における水需要の急拡大に伴う機械産業の事業機会探索調査報告書』によれば、2007年度における福岡の造水コストは、210円/m3(減価償却費など資本費を含む)となっているそうです。福岡地区水道企業団は基本料金157円/m3で水を売っているようですので、やはり海水淡水化の造水コストは売価を上回っているようです。
その主な原因は、電気代にあります。海水から淡水を造る際には非常に大きな圧力をかける必要があり、その分だけ電気代がかかってしまうのです。福岡の海水淡水化施設では、高圧RO膜に通す際に最大8.2MPaまで加圧する必要があります。
上記報告書によれば、福岡では造水コストの25%が電気代ということですから、その電気代は、ざっと52.5円/m3となります。再び沖縄を比較対象に引くと、2004年度における造水コストが120.66円/m3で、動力費がその45.3%を占めるということですから、沖縄の電気代は54.6円/m3と計算されます。あくまで推計ですが、両都市ともに50円台で似たような水準で落ち着いている点をみると、そう大きく外れた値でもなさそうです。
問題は、この電気代が変動費にあたるので、設備の稼働率勝負に持ち込めないところにあります。電気代が造水コストを重くし続けそうです。
よって、沖縄でもそうであったように、どうにかしてこの重いコスト負担を軽減し、採算性を向上させようとする取り組みが福岡でも見られます。沖縄では空調設備の節約や、施設の稼働を工夫することで、できるところから可能な限りコストを削減しようという努力をしていました。福岡では、省エネによるコスト削減に加え、海水から淡水を取り出した後に残る濃縮海水の販売や、膜エレメントの中古販売など、少しでも収益につながる可能性を模索しています。ちなみに、偶然かもしれませんが、濃縮海水の譲渡価格52.5円/m3は、上で推計した電気代と一致しています。
福岡の海水淡水化において救いなことは、福岡の水道料金が全国的に見て昔から割高である点かもしれません。沖縄の水道料金は102円/m3ですから、造水コストが120円まで落ちてもなお赤字でした。しかし、福岡地区水道企業団の水道基本料金は1988年から157円/m3となっていますから、福岡の造水コストが沖縄程度まで下がれば、単純計算ながら割に合うことになります。
ただもっと良く知りたいことも多いので、8月下旬に「まみずピア」を訪問して、海水淡水化センターの歴史や稼働状況、膜エレメントの交換状況、採算性向上に向けた取り組みなどについて、お話を伺う予定です。とても楽しみにしています。
(藤原雅俊)