霧島国際ホテル地熱発電所全体 |
前回までバイナリーの温泉発電が経済的に成り立つにはかなりの好条件が揃うことが必要となることを書いてきました。では、小型の温泉発電にはまったく芽がないのかといえば、必ずしもそうではありません。
瀬戸内自然エナジー以外にも、これまで調査してきた中で、小型のフラッシュ方式(地下からの蒸気で直接タービンを回す方法)を使って、経済的に発電を行っている例を見てきました。
1つは、霧島国際ホテル、もう1つは九重観光ホテルです。さらに、現在、小国町のわいた温泉郷で中央電力が開発をすすめている案件もよさそうです。わいた温泉における開発の例は、地熱開発の新しいスキームとして注目に値します。そのあたりは大変興味深いので、別途、次回以降に書きたいと思います。
今回はまずは霧島国際ホテルの事例から。
霧島国際ホテルは、1971年に建設された客室数123室の大規模なホテルです。現在、3本の温泉井戸を使って運営されています。深さはそれぞれ、250m、300m、400m、温度は142℃と高温で、蒸気95%の蒸気卓越型の井戸です(温泉として使うにはタンクの水に蒸気を吹き付けます)。
霧島国際ホテル |
最初から発電を行ったわけではありません。最初は当然、温泉としての利用です。続いて1974年から給湯・暖房用に温泉熱を利用し始めました。現在でもホテル内の給湯と暖房は100%温泉のエネルギーで賄っています。
さらに1983年からは温泉熱を冷房に利用し始めました。水化リチウムを使用した吸収式冷凍機です。それによって冷房用の使用電力は300kW から2kWに減りました。ホテルの冷房全てをこの吸収式冷凍機で賄うこともできるそうですが、夕食時に鍋に一気に火をつけるときなど、急激に冷房を強める必要があるので、そのために、通常のエアコンも併用しています。
給湯設備 |
吸収式冷凍機 |
地熱発電を始めたのは1984年の2月です。出力100kWの小型フラッシュタービンです。発電は、「大浴場→給湯/暖房→冷房」と使用された後の、残りのエネルギーを使って行われています。100kWでホテルの電力を全て賄えているわけではありません。ホテルで使用される電力は、夏場のピーク時で750kWあります。地熱は100kW分のベース電源として活用されており、足りない分は電力会社から買電しています。
霧島国際ホテルは売電をしておらず、全て自家消費しています。現在のFITによる高い買取価格の恩恵も一切受けていません。しかし、それでも十分に採算があっているといいます。そのからくりは、もともと温泉として利用していたエネルギーの残った部分を、給湯・暖房、冷房、発電と無駄なく利用しているためです。
発電も無理に発電量を増やしたりはしません。むしろ、温泉の温度を、発電設備の蒸気のバルブを開け閉めすることによって調整しています。飽くまでも温泉が先にありきで、温泉や冷暖房に支障のない範囲で発電をするという考え方です。
井戸と配管 |
温泉熱利用による経済効果は年間で3500万円から4000万円といいます。暖房用の重油の節約が2700万円、電気代では、多いときに1000万円程度の節約となります。これ以外にも、ボイラーを炊かなくなったことによって、ボイラー要員が3名不要になったという効果もあったそうです。
もちろん、温泉の整備代などのランニングコストはかかかりますが、それは温泉事業を営む限りは、発電の有無に拘わらず必要になることですので、発電による追加コストとはいえません。また、規制によって必要となっているボイラー・タービン主任技術者や電気主任技術者も、そもそもホテルの従業員の中にいますので、追加的な人件費がかかるわけではありません。
これは売電をしないことの理由の1つでもあります。売電事業を始めると、事業体としてホテル事業と切り離す必要がでてきますので、ボイラー・タービン主任技術者や電気主任技術者を含め、重複して人件費を支出しなければならなくなります。これは無駄です。現状の高い買取価格であれば、それでも採算があうのかもしれませんが、長期的な持続性を考えると、自家消費として活用する方が真っ当だと思います。
1984年に発電設備を最初に建設したときには、全て含めて5000万円の投資で済んだといいます。蒸気井は既にありましたので、上物への投資だけではあるのですが、それでも安いと思います。当時の電気代は23円/kwhであったといいますので、初期投資は4年弱で回収できています。
その後、1990年から1992根年の間はNEDOの委託による実証試験のために、100kW の設備は止めて、三菱製の200kWと富士電機製の300kWの設備を導入します(この時は井戸を4本使用。敷地内には15の源泉があり、6本の井戸から蒸気がでる。普段は3本使用)。この実証試験終了後は100kW の設備を再稼働させますが、富士電機のバイナリー設備の実証実験の話があった段階で、再び100kWの設備は止めています。このバイナリーの実証実験が終わったタイミングで、100kWのタービンをリニューアルして、現在にいたっています。
バイナリー実証試験 |
富士電機バイナリー設備 |
タービンのリニューアルには7000万円の費用がかかっています。ケーシングは交換せず再活用しています。もしケーシングまで交換していれば1億円は超えていたとのことです。また、汽水分離機や配管など地熱発電設備全体に投資するとなると1億4000万円から1億5000万円くらいになるそうです。
リニューアルした地熱タービン(100kW) |
現在の電気代は昼夜を平均すると16円/kWhくらいですので(100kW で稼働率70%として、16円/kWhであれば、およそ1000万円)、昔に比べると回収期間は長く、7年から8年くらいとなります。
ランニングコストの低さが採算性を高めています。既に述べましたように、発電はホテル事業に統合されており、ほぼ無人で稼働しますので、発電向けの追加的な人件費はほとんど必要ありません。タービンのメンテナンスは4年を超えないサイクルで行っており、1回に350万円ほどかかります。5百万円かかるとしても4年に1回であれば、年間125万円です。
霧島国際ホテルの発電所は背圧型で、発電後の蒸気をそのまま大気に放出しています。効率は悪いですが、その分、冷却塔の腐食や水質管理に費用がかかりません。
霧島国際ホテルの例からは、地熱をうまく多重利用できれば、FITに頼らずとも十分に経済性を確保できることがわかります。アイスランドにいったときにも同じことを感じました。アイスランドでは、地域暖房、給湯、道路の凍結対策、温水プール、ビニールハウス、スパリゾートなど、様々な用途に地熱エネルギーをしゃぶりつくすように使用し、その上で、大型の発電を行っています。
資源の多重利用が経済性の鍵です。
ただ、もちろんそのためには、もともと十分なエネルギーがあることが必須です。霧島国際ホテルでは、蒸気の温度が高く(142℃)、蒸気卓越型であり(蒸気95%)、蒸気の圧力が高く(3気圧)、水が豊富にあるといった条件が整っています。だからフラッシュ方式で十分発電できます。
多くの温泉場はここまで高温の蒸気はでないので、前回までに説明したようなバイナリー発電を行おうとしています。しかしバイナリー発電では所内電力が大きく(発電量の30%くらいはとられてしまう)、スケール対策も大変だということから、経済的に発電することは簡単ではありません。そもそも少ないエネルギーを無理に活用することに限界があるように見えます。
一方、大きなエネルギーを活用する大規模地熱発電所については、国立公園問題、温泉場からの反対があり、なかなか進んでいません。環境アセスメントや地元の合意形成に多大な時間とコストがかかり、掘削一つとってみても簡単にはできない状況です。
それに対して、1000kWや2000kWの中小型の発電所であれば(霧島国際ホテルはさらに小さい100kWですが)、環境アセスメントは必要ありませんし、井戸も温泉井戸と変わらないレベルなので、温泉業者からの反対もでにくいと思われます。たとえ新たに掘削しなければいけないとしても、温泉井戸の掘削と同じですから、コストも安く済みます。
現状もっとも有望そうなのは、中小規模のフラッシュ発電のように思えます。次回は、古くからフラッシュタービンで発電している九重観光ホテルの例を書きます。その次は、中小規模の地熱発電所を地元主導のスキームのもと進めている中央電力の話を紹介したいと思います。