以下の記事は、昨年(2012年)の2月に書いたもので、これまでは公開を控えていたものです。その時点では九重観光ホテルの地熱発電所はタービンの故障で停止しており、FITを控えて、投資を検討している段階でした。
今回(2013年6月)、あらためて九重観光ホテルの地熱発電所を訪問し、現状についてお聞きしたときに、小池社長から前回の分も公開しても構わない了承を得ました。今回の訪問については次回記述しますが、その前提として、まずはこちらの記事をアップします。
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2012年2月23日
ターボブレードでのインタビューを終えて、九重町(ここのえちょう)にある九重(くじゅう)観光ホテルへと移動しました。
九重観光ホテルはホテル敷地内に地熱発電所をもつことで有名なホテルです。ホテル到着後すぐに、小池社長に地熱発電所開発の経緯など話を聞きました。
非常に丁寧にいろいろとお話してくださいました。感謝です。
はじめに、残念ながら昨年9月から発電所が止まっていることを聞きました。どうやらタービンのブレードが壊れたようで、現在は設備の更新を計画しているとのことでした。
九重観光ホテルの地熱発電所は、先代社長の時代に計画され、それを小池社長が引き継ぎました。1995年に掘った井戸からのエネルギーが大きかったので、それを有効活用する形で計画がスタートしました。大分では既に杉の井ホテルに民間の地熱発電所があったことも計画を後押ししたということです。
95年に掘った蒸気井は500キロワットで認可され、その後、1997年に2本目の蒸気井が掘られました。2本目が加わることによって合計2000キロワットの出力が得られることになりました。
しかし、九重観光ホテルは、国立公園特別区第2種に立地しているため、自然公園法の規制対象となっており、飽くまでも自家用の発電所であることが認可を受ける上での前提となっていました。
ホテルで必要となる分が500キロワット分くらいであるとすると、2000キロワットの出力は大きすぎるということで、1000キロワット以内に出力を落とす形で建設が進められることになりました。結果として、ここの地熱発電所の出力は、990キロワットとなっています。もったいないのですが、エネルギーを捨てているわけです。
休止中のタービン川重製 |
タービンの仕様 |
発電所の設備を担当した人の当初の提案では、初期投資額5億円、余剰電力を13円/kwhで売ることになっていました。10年くらいで投資回収できる計算だったそうです。
しかし予定していた九州電力との売電契約がなかなか実現しませんでした。反対している温泉業者があったことも1つの理由でした。
温泉業者が反対する理由として良くいわれるのは、お湯が出なくなることに対する心配です。しかしそれだけではなかったようです。近隣の人々は地熱発電による収益をかなり気にしていたといいます。確かに、温泉の権利は各ホテルがもっているので、発電所のために蒸気井を掘るのは自由です。でも、同じ温泉場を共有する人たちが、投資余力のある九重観光ホテルだけが地熱発電を行って利益を得ることを好ましく思わないということも、理解できないではありません。
近隣の温泉業者を周り、許可を得ることを、九州電力から求められた小池社長は、紙と印鑑をもって近隣を歩きまわりました。結果として、一軒を除いて明確な反対はでませんでしたが、当初計画していた金額での売電はかないませんでした。
実際に発電施設が動き始めたのは2000年、売電できるようになったのは2003年のことです。売電価格も当初計画していた13円にはほど遠く、火力発電のコストと同じ価格ということになりました。おそらく4円とか5円ではないかと推察されます。最近になって、九電からIPPに売却先を変更したとのことでした。その方が少しでも高く売れるからです。
冷却塔 |
日立製発電機 |
5億円という莫大な投資を決めたにも関わらず、初期段階はほとんど見返りのない状態が続いたことになります。九重観光ホテルにはそれに耐えるだけの体力はありませんでしたので、最終的にはメーカーと交渉をして、銀行からの借り入れと政府からの補助金3800万円を加えた2億円で施設を買い取ることになりました。
このように、様々な障害ゆえに計画通りすすまなかった九重観光ホテルの地熱発電所ですが、うまく進めば、経済的に十分成り立つ可能性があります。小池社長によれば、経済性を確保するには、事前調査と井戸の掘削にお金をかけないことだといいます。
九重観光ホテルでは、事前調査はせずに、井戸を掘っています。それだけ良い場所に立地しているということです。2本ある井戸の内、一本は350m、もう一本は405mの深さですから、1000m以上の深さの井戸をもつ大規模地熱発電所に比べれば、ずっと浅い井戸です。
1つ井戸を掘るのに必要なコストは3000万円程度だそうです。3000万円で1MWの井戸が掘れるのですから、非常に安いと思います。以前アイスランドで調べたときには、1MWあたり100万ドルくらいといっていました。
当初の5億円という投資でも、もし実際に可能であった2MWの出力をだせれば、90%の稼働、20年の寿命として、初期投資だけを考慮したときの平均の発電単価は2円/kwh以下です(発電効率を90%として、年間1600万kwh*20年=3.2億kwhなので、2円/kwh以下となる)。もちろん、これに年々必要となる様々な間接費がかかってきますので、そう簡単にはいきません。
九重観光ホテルでは、地熱発電のために3人の人を雇用しています。この人件費で年間800万円程度かかるといいます。それに定期的な検査、オーバーホールなどの費用がかかってきます。具体的にいくらくらいかかるのかわかりませんが、おそらく、オーバーホールするとなると数千万はかかるでしょうし、定期的なメンテナンスも大手メーカーに頼むわけですから、かなりの費用がかかるのではないかと思います。
ただ、この運営にかかる部分、地熱発電所のマネジメントには工夫の余地があるように思いました。マネジメント次第では、非常に高い経済性が見こめるように思いました。
実際には、九重観光ホテルの地熱発電所は、2000年に稼働してから、13年目に故障してしまいましたし、なかなか売電できなかったり、売電できても売電価格も低かったりしたため(地熱のフラッシュはRPSの対象になっていなかったので、電力会社としても買い取るインセンティブが乏しい)、経済的には厳しい状況が続いたようです。ただ、今回のお話をお聞きしていて、民間による地熱発電所自体の潜在性は高いと感じました。
今回のお話を通じて、地熱発電が普及しないメカニズムの一端を垣間見たような気がしました。つまり、潜在的な経済性が高いことを公にできないから普及しない。潜在的な経済性が高いことを公にしないから経済性の追求が進まない。だから投資対象としても魅力的に見えないし、それゆえ案件が増えないから、メーカー側も本気にならない。
こんな感じでしょうか。ちょっと日本特有な部分がありますね。