前回の記事を受けて、今回は、6月にあらためて九重観光ホテルを訪問して小池社長にお聞きした内容をもとに記事を書きます。
昨年訪問した時点では、蒸気タービンが故障しており、発電所は動いていませんでした。既にタービンの交換を予定していましたが、FITの価格も適用対象もはっきりしていなかったので、投資や融資の詳細が決まっていませんでした。
FITでは既存設備による発電は買取の対象にならない可能性もあるということで、とりあえず、2012年の5月に、RPSの認定だけは取得しておいたとのことです。RPSの対象となり1kWhあたり10円以上で買い取ってもらえれば採算ベースにのる、という考えだったそうです。
九重観光ホテルでは、投資を抑えるために、タービン部分だけをリプレイスする予定でしたので、これがどのように買取の対象になるかが、重要な問題となりました。結局、タービン部分だけの新設では、新規の買取対象にはならないことがわかりました。出力を増加させれば、その増量分は新規の買取対象になるのですが、九重観光では、既存の泉源を活用しており、出力増大は当面考えていませんでした。
したがって既存枠での申請となりました。これですと、最初の運転開始から15年間が買取の対象となります。これを厳密に適用しますと、九重観光の場合は1997年に設備が稼働していますので、既に買取期間が残っていないことになってしまいます。しかし、前回書きましたように、電力会社との売電交渉がうまくいかず、2003年4月までは全く売電することができませんでした。そこで今回は経産省と話合い、この2003年4月を起点として、5年間がFITの買取対象期間となるということで認められ、2012年10月に設備認定を受けることができました
売電価格は42円/kWhです。5年間しか売電できませんが、これまでに比べれば、破格の買取価格ですので、採算ベースにのるという判断です。
前回書きましたように、旧来の設備の投資額は2億円(実際には5億円だったが、2億円で買い取ることになった)で、その借り入れが今年の8月まで残っています。この間、人件費だけでも1億円以上はかかっています。2003年から売電はできたものの、RPSの対象にもなっておらず火力発電相当ということでしたので、3.5〜4円/kWhで売電していました。これでは採算が合わないということで、その後、PPSのサミットエナジーに売り先を変更して、売電単価が上がったおかげで、なんとかブレークイーブンになったといいます。今回は5年間のみの買取ですが、これまでの苦労をある程度は取り戻せそうです。
投資は基本的にタービンのリプレイスだけです。990kWの三菱重工製の小型タービンです。これが2億6000万円。付帯設備を含めると3億2000万円の投資です。別府の杉乃井ホテルは富士重工製のタービンで5億円くらいといわれていましたから、こちらの方がずっと安いです。実際に、富士重工ではなく三菱重工製を選んだのは価格によります。富士重工はむしろバイナリー設備に力をいれているようで、バイナリー発電の提案があったそうです。ただ、九重観光の蒸気井の場合には、シングルフラッシュの方が出力が稼げること、バイナリーの場合には投資額が大きくなるので設備企業との共同事業となることなどから、タービン部分だけを安価な三菱製でリプレイスすることに決めたとのことです。
蒸気タービン |
三菱重工製990kW |
990kWの出力の内、300kWくらいは発電所の稼働そのものに使われてしまいます。発電所には真空ポンプや温水ポンプなど多数のポンプを動かすために多くの電力が必要になります。残りの700kW位の出力の内、ホテルで自家用に使われるのは150kWなので、550kWの出力分が、売電に回ることになります。90 %の稼働率を達成できれば、年間に(550kW*8760時間*0.9)=4,336,200kWhの電力量を発電しますので、42円/kWhの買取価格であれば、1億8212千万円となります。70%の稼働率でも1億4165千円の収入となります。
初期投資は3億2000万円ですが、これにランニングコストがかかります。発電所にはボイラータービン主任技術者を含めて3人の従業員が交代制で常駐していますので、この人件費が、年間800万円くらい。電気主任技術者は外部に委託しており、これが月額9万円ですので、年間で100万円強。合わせて900万円/年ほどとなります。
これまでは、3年に1回開放点検をしていましたので、その費用が1回に1000万円。また、中和剤として投入する苛性ソーダが月額10万円。その他の修理費がおおよそ年間300万円とのことなので、合わせますと、年間600-700万円となります。
したがって、ランニングコストは合計で1500〜1600万円/年となります(他にも細かい費用はかかるでしょうが)。
5年間の売電がスムーズにいけば、初期投資3億2000万円、ランニングコスト7500〜8000万円(5年間)、それに借り入れ金利を支払っても、投資は回収できると思われます。タービン部分だけ入れ替えているので、多少稼働に不安が残るなどの不確実性はあるものの、十分に魅力的な投資案件にみえます(さらに、ホテルでの自家消費分も発電収入に上乗せできるはずですが、実際には、電力会社とバックアップ契約をしており、発電設備が止まったときの買電価格が極端に高いので、節約効果はほとんどないとのことでした)。
それで銀行もやっと融資に応じてくれました。最終的には政策金融公庫と地元の銀行が半分ずつ融資することになりました。前者の金利は、利益連動型で、利益が全くでなければ0.4%です。利益があがるにしたがって、金利も上がります。地元の銀行の金利は4.27%で5年間の融資です。
FITに認定されるまではなかなか銀行からの融資が下りませんでした。それで最初は民間のファンドにお願いしていたそうです。よく聞くように、銀行はかなり保守的です。今回の案件は5年以内に十分回収できるということなのでよいのでしょうが、通常、地熱エネルギーに開発となると回収には10〜15年くらいは見込まれますから、銀行のリスク選好からすると、とても融資は期待できないように思います。
以上、九重観光の地熱発電所は高い経済性を実現できているようですが、それにはいくつか特殊な条件がかかわっています。
まず今回はタービンを入れ替えただけであること。既存の泉源はそのまま活用しています。
温泉井戸(地熱井) |
そもそも、泉源のコストが安いです。九重観光では、深さ350mの井戸と深さ405mの井戸の2本の井戸を使っています。これらの井戸から出る蒸気は、温泉と発電の両方に使われます。通常の温泉井戸なので掘削費も安いですし(1本3000万円くらい)、その掘った井戸を温泉だけでなく、発電にも多重利用しているわけです。これは、霧島国際ホテルのケースと同じです。
それ以外にもコストを下げる工夫が見られます。1つは出力を1000kW 以下におさえることによって、電気事業法上の規制への対応を軽くしています。また、出力が3000kW を超えると特別高圧線に接続しなければなりませんので多大な費用がかかります。それ以下なら普通の高圧の送電線で済みます。
さらに九重観光ホテルは国立公園の第2種に立地しているので、規模が大きくなると環境規制対象となります。そもそも最初から990kW に抑えているのは、自家用発電として許可を得るためです。自家発電であれば環境規制への対応が軽くなります。
九重観光ホテルの例からは、地熱発電を経済的に実現するための条件が見えてきます。
(1)
フィールドの開発にお金をかけないこと(既存の温泉の掘削と同じレベルであれば安くできる)。
(2)
泉源を多重利用すること(温泉と発電)。
(3)
規制への対応コストを下げること(規制にかからない規模にとどめる)。
このように1MWくらいのフラッシュ発電を温泉と同じような泉源を利用して開発すれば、経済性が成り立つ可能性が出てきます。もちろん現在の42円/kWhという破格の買取価格があるから高い経済性を確保できるわけですが、買取期間が終わった後でも、十分に経済的に成り立つ設備として維持できるはずです。
例えば、上記の九重観光の例では、買取価格が1/3の14円/kwhになったとしても、年間6000万円くらいの収入に対して、ランニングコストは1500—1600万円ですから、初期投資回収後であれば、十分に成り立ちます。15年後に設備を入れ替える投資を考えるとぎりぎりのラインでしょうか。
こう考えますと、条件の良い場所があれば、1MWくらいの小規模地熱発電所をたくさんつくるというのは1つの有効な手段に思えます。温泉井戸を掘るのと大差ないということであれば地元の理解を得やすいでしょう。
次回は、こうした考えをもって地熱開発を行っている中央電力の例を紹介したいと思います。(青島矢一)
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