2012年4月1日日曜日

日本のPV産業について考えの変化(青島矢一)

4月1日

中国のPV産業の調査に出かけて、日本の太陽電池の普及・産業政策に関して考え方が変わりました。考えの前提、考える論理ステップは基本的に同じなのですが、結論が変わりました。


これまで、エコポイントの分析をもとに、技術が汎用化した産業領域では、グリーン技術・製品の国内普及が、国内産業の競争力につながらいことを指摘してきました。当たり前のことなのですが、「環境」「エネルギー」というマジックワードのもとでは、この当たり前のことさえ、軽視されるように思います。


太陽電池も、主流の結晶シリコン型太陽電池の製造技術は汎用化していますので、日本が全量固定価格買い取り制度をスタートし、高い買取価格を設定すれば、海外から安いパネルが大量に導入され、おそらく日本の太陽電池企業は、短期的には多少潤っても、長期的には大きなダメージを受けると思われます。特に円高状態がそれを助長するでしょう。


ということから、これまでは、拙速に全量固定価格買い取りを始めるのは良くないのではと思っていました。この結論部分が、中国を訪問して、変わりました。中国の太陽電池のサプライチェーンが中国国内でかなり完成しつつあり、思ったよりも安くなっていたからです。しかも、結晶シリコン型を前提とすると、今後は、それほど大幅な効率改善とコスト削減が進まないと思われるからです。


中国の訪問記で書きましたように、中国での太陽電池のコストは、設置等全て含めて、12元(150円)/wから15元(20円)/wくらいです。150円/wとしますと、15万円/kwです。稼働率を12%としますと、1kwのパネルで年間に、8760*1*0.12 =1051kwhがつくられます。劣化の影響を無視して、耐用年数を20年としますと、21024kwhとなります。15万円の投資を単純にこの値でわりますと、7.13円/kwhとなります。もちろん実際には、パネルは年々劣化しますし、電機系などのメンテナンスコストもかかるとは思います。それでも、現在家庭用の電気の値段が22円/kwhであることを考えれば、既に十分に実用段階にあります。日本の様々な試算が、40数円/kwhとなっているのは、金利を含んでいるとしても、日本企業のコストの現状を前提とした、かなり悲観的な試算だと思います。


中国の大手企業はシリコン材料まで垂直統合するようになっていますし、そうでなくでも、中国の集積地で、安くシリコンインゴットやウェハを購入できます。カバーグラスやバックシート、封止材も、国内で調達できます。こうしたことから日本企業とはかなりのコスト差があると思われます。材料コストが多くを占める太陽電池は、日本企業には不利な領域です。


こうしたことから僕の結論は次のように変わりました。


結晶シリコン型が主流である現段階では、国内企業を短期的に保護することを考えるより、中国企業がなんとか利益がでる程度(例えば20円/kwhとか)に事業向けの買い取り価格を設定して、中国を含む海外企業に完全に市場をオープンにし(現状では国内で検査しなければいけないといった障壁がある)、熾烈な競争を通じて、安い太陽光システムを日本に普及させてしまう。つまり、まずは、エネルギー問題とGHG削減問題に焦点をあてて、解決を進める。


一方、日本の太陽電池産業の振興という点では、家庭用に焦点をあてた技術開発を促進するとともに、次世代技術開発に補助金などのインセンティブをあてるのがいいと思います。家庭用については、消費者は単純に発電効率だけでなく、意匠性や取りまわしなど様々な要因が購入決定に関わってくるので、家やビルが密集している日本市場向けに工夫をすれば、似たような事情をもつ国に展開できるでしょうし、何よりも、次世代技術では先行して、技術をきちんと囲い込む戦略を、今から、慎重に考えることが大事だと思います。


一番おそれるのは、高い買取価格を設定して、目先の事業機会に反応して、日本企業が汎用技術でできる製品の生産に多くの投資をしてしまうことです。テレビ産業の二の舞だけは避けなければいけないと思います。


(青島矢一)