「シンガポールの水資源探訪」第2回では、
シンガポールの水資源の概況について、紹介して行きます。
前回にもお伝えした通り、シンガポールは赤道直下にある小さな国です。
約710平方キロメートル(東京23区=710k㎡、琵琶湖=670k㎡)ほどの土地に、
およそ500万人が暮らしています。
熱帯雨林気候に分類される同国には雨季と乾季があり、
雨期には毎日のように激しい雨が降ります。
年間平均降水量はおよそ2000㎜で、世界平均1000㎜のおよそ倍以上、
日本平均のおよそ1700㎜よりも多い水準にあります。
通常、これだけの降雨量があれば、水資源に困るということは考えにくいことです。
しかしながら、シンガポールは国土が狭い上に高低差が小さいく、
河川や湖の保水能力が日本と比べて格段に低いため、十分な保水能力がありません。
「シンガポール政府は、常に渇水に抗い続けてきた」旨のメッセージが、
下水浄化計画「Newater計画」の啓蒙施設、Newater Visitore Centreのパネルにあります。
シンガポールの人口は近年急速に増加しており(400万人@2000年頃、500万人@現在)、
渇水に対する危機感はますます高まっています。
政府は、節水の習慣を国民に根付かせる啓蒙運動を推し進めるとともに、
水資源の効果的利用や新たな水資源開発に力を注いでいます。
現在の水資源
現在、シンガポールは4つの水資源を組み合わせて、国内需要をまかなっています。
(1)貯水区(河川、湖) およそ20%
需要のおよそ20%を占めるのが、雨水(貯水区からの取水)です。
シンガポールは国土の半分以上を貯水区に指定していますが、
実際に雨水がためられるのはその中のごく一部です。
河川や湖(=貯水池)と、周辺の山や森を含む一体が貯水区に指定されています。
シンガポールの中央に位置する、Upper Seletar貯水池。
写真はWikimedia Commonsから。
Upper Seletar貯水池のほとりの自然。
一部には動物が放し飼いにされ、動物園として公開されている。ナイトサファリが有名。
(2)マレーシアからの輸入 およそ40%
現在、最大の供給源が、マレーシアからの水の輸入です。
写真のように、マレーシアとシンガポールの間にあるジョホール海峡にパイプを引き、
大量の水を輸入しています。
パイプのうち2本は輸入で、1本はシンガポール国内で浄化した水の再輸出です。
相互に依存しあうことで供給の安定を意図した相互売買契約ですが、
マレーシアは近年水の値上げを要求しており、先行きは不透明であるようです。
画像をクリックして拡大すると、3本のパイプラインが走っているのが見える。
画像はWikimedia Commonsから。
(3)Newater計画 20%以上
シンガポール政府が近年、力を入れている水資源開発が、
下水を高度に浄化して産業用水として再利用する、Newater計画です。
こちらについては、次回の記事で詳しく説明します。
(4)海水淡水化 数%
最後の水資源が、海水の淡水化です。
これは現時点ではコストが高いため、需要のごく一部を担うに限られています。
水資源管理
シンガポールでは、貯水区・上下水道の管理、さらには水資源の開発などを、
PUB(Public Utilities Board、公益事業庁)が一元的に総括しています。
シンガポールは人口500万人ですから、
1000万人+多くの事業者を支える東京都水道局の方が規模では勝ります。
しかしながら、国家機関であるPUBは様々な権限や資源を保有しており、
非常に積極的に水事業に取り組んでいます。
(例えばNEDOとの共同事業も行われております。)
その取り組みには、自国の渇水状況の改善するという目的だけでなく、
将来的に自国で試験・改善した水管理システムの事業化を見据えている可能性があります。
同国の水管理システムの中核を担うHyflux社は、近年は積極的に海外進出を果たし、
三井物産と協働で中国で、伊藤忠・日立と協働でインドで、水事業に取り組んでいます。
将来の事業化を見据えるという意味で、
下水を再利用するNewater計画には高い戦略的価値があります。
水資源の種類に関わらず下水は必ず生じますし、
例えば汚染された河川からの取水等にも転用可能であるというポテンシャルがあります。
次回は、このNewater計画について、詳しく説明していきます。
参考URL
Wikipedia:シンガポール
外務省HP
国土交通省HP
(積田淳史)