昨年起こった東日本大震災は、原子力発電およびエネルギーの安定供給に対する信頼性に疑念を抱かせることになりました。震災後に生じた福島第一原発の事故への対応や計画停電の実施などの経験を通じて、他国と比較して信頼性が高いとは言われながらも、現在の日本のエネルギーシステムの問題点も顕在化したように思います。
この問題を組織論的な観点から考ると、「集権的システムのジレンマ」とも呼べるようなことではないかと私自身考えています。エネルギーのような大規模システムの場合、安定性とそれによる高い信頼性を維持するためにシステム全体を集権的にコントロールする必要があります。システム内の各サブユニットに厳格なルールを設定し、それらを遵守するよう教育を施し、厳格に遵守しているかチェックすることが求められるわけです。すなわち、官僚制組織的なシステムを構築する必要があるのです。日本のエネルギーシステムもそのような考え方で構築されてきていると思います。
しかしながら、このような集権的なシステムには少なくとも2つのジレンマが存在すると考えられます。1つ目のジレンマは、システムの規模が大きくなればなるほど、そのシステムを安定的かつ高い信頼性を確保しながら運営するためにますます集権的なコントロールが必要になるわけですが、しかしながら現実には、システムの規模が大きくなるほど集権的なシステムを維持することが難しくなるというジレンマです。このジレンマは、今回の投稿とはあまり関係がない(無関係ではないですが)ので詳しい説明は省略しますが、ポイントは、規模が大きくなると、垂直的にも水平的にもサブユニットが増大し、また、システムに属する成員も組織内を移動したり人員の入れ替えなどが起こることになるため、システム全体としての統合が維持しづらくなるという点にあります。
2つ目のジレンマは、今回の大震災のように不測の事態が生じた場合に、集権的かつ大規模なシステムであるほどその対応が遅くなってしまうために、それによる被害が増大してしまうということです。対応が遅くなるのには少なくとも2つの理由が考えられます。第1に、このような場合には現場レベルの成員が即座に対応しなければならないわけですが、権限関係がルールとして厳格に決められているような集権的なシステムにおいてとりわけこのような不測の事態が生じた場合には、そのような柔軟な対応ができないからです。第2に、たとえ柔軟な対応が許されていたとしても、そのような能力が現場に備わっていない可能性が高いためです。官僚制組織の逆機能としてもよく言われることですが、ルールで規定されていないことには柔軟に対応できないばかりか、とりわけ原子力発電のようなリスクの高いシステムの場合、そもそも大惨事につながる失敗は許されないわけですから、トライ&エラーのような経験による学習が難しいということもあります。
今回の大震災後に生じたことは、2つ目のジレンマが顕在化したケースとして考えることができるでしょう。このような経験から、日本における将来のエネルギーシステムをどうすべきか真剣に考えるべき時が来ているようにも思いますが、その1つの方向性として「スマートグリッド」が考えられるでしょう。これまでのシステムとは異なる自律分散型のシステムは、とりわけ集権的なシステムから生じる2つ目のジレンマとの関連から、リスク分散型のシステムとして有効性が高いと考えられます。ただし、このスマートグリッドが実現するためには数多くの乗り越えなければならない問題があることも事実です。自律分散型のシステムがいいとは単純には言えない側面もあるはずです。このような問題意識をもちつつ、今後、magiccの1つの研究テーマとして、日本におけるスマートグリッドの進捗状況やそこで生じている問題点、将来的な可能性などについて具体的なケースを分析しながら検討していきたいと考えています。
(齋藤靖)