2012年4月27日金曜日

自然エネルギーの買い取り価格決定について(1)(青島矢一)

2012年4月26日

自然エネルギーの買い取り価格が決定しました。太陽光発電に関しては予想されていた通り、発電事業向けが42円/kwhの全量買い取り、家庭用はこれまで通り、42円/kwhの余剰買い取りとなりました。


http://www.asahi.com/business/update/0425/TKY201204250290.html



予想していたとはいえ、新聞記事を見たときには、本当に将来が不安になりました。怒りさえこみ上げてきました。なぜ42円が正当化されるのか、全く理解できません。発電事業者は高い買取価格を要望するにきまっています。それがそのまま採用されるというのは不思議でなりません。


朝日新聞によると「再生可能エネルギーを推進するのがこの制度の趣旨だ」というのが調達価格算定委員会委員長の植田先生の説明だそうです。お金が無尽蔵にあれば、エネルギー問題も環境問題も簡単に解決できます。お金が希少だから、経済性とのバランスで苦労するわけです。適切なバランスをとるために、現状の技術水準、企業競争、需給バランス、為替など様々な要因を考慮して、政策を考えなければいけないわけです。


42円/kwhの買い取りに僕が賛成できない理由は簡単です。この買い取り政策が、国民の費用負担が大きすぎる割に、日本の産業競争力の向上に全く寄与しないと思われるからです。投入したお金が戻ってくるシナリオがどうしても描けません。


むしろ短期的に市場が潤う分、それに乗じて投資をおこなってしまう日本企業が後で被るダメージが大きくなります。別で論文を書いたように、エコポイント政策に合わせて投資拡大した日本企業の薄型テレビ事業と同じことが起きるのが目に見えています。


日本の経営者は、利益と株価に対して以前より敏感になっていますから、短期的にでも有望な市場機会が見えると、ある種、盲目的にその事業につぎ込んでしまうようなことがないかと危惧します(もちろん日本の経営者がそれほど無能だとは思いませんが)。。


環境/エネルギー政策は、それが日本の産業発展に寄与し、そこで日本企業が国際競争力をもち、長期的に付加価値を生み出すようになってはじめて報われます。現状の太陽光発電に関してはどうしてもそのシナリオを描くことができません。高い買取価格は決して日本企業の国際競争力を高めることには貢献しません。


そもそも42円/kwhという買い取り価格は国際的な価格からあまりにも乖離しています。現状世界で最も大きな市場であるドイツでは太陽光発電の発電単価は20円/kwhくらいです。


以前ブログで書きましたように、中国では12元/wから15元/wでしたから、現実的な発電単価は12円/kwhから16円/kwhくらいだと思います(電力中研の朝野さんに、金利やメンテナンスコストを含めると、だいたいワット単価の8割くらいで計算するのは現実的だと教えてもらいました)。


中国での買い取り価格は1元/kwh(13円/kwh)です。先日のミニシンポジウムでインドの先生の講演を聞きましたが、その時きいたインドでの発電単価も僕が中国で聞いた価格とほぼ同じでした。インドの先生は、それがGlobal Priceといっていました。


つまり42円/kwhという価格は、現状の太陽光発電の技術水準からして、明らかに高すぎます。国際価格からかけ離れています。高い買取価格が正当化されるのは(1)技術が未成熟であり技術進歩を促すために普及の加速化が必要な場合や(2)普及によって大きな規模の経済性が見込める場合だと思います。



現状の、結晶シリコン型太陽電池に関しては、どちらもあてはまりません。既に技術は汎用化しており、結晶シリコン型を前提とする限り、大きな性能進歩が望めません。原材料費が7割以上を占める太陽電池は量産効果もあまり見込めません。



近年価格が下がってきたのは、シリコン材料の値段が急落したこと、インバーターなどの電機系の量産効果、設置の効率化といったあたりが理由だと思います。シリコン材料の部分も既にかなり利益が絞られており、今後大幅に価格が下がるとは思えません。確かに材料の無駄をなくす技術によってコストが低下することはあると思いますが、それは量産効果とは直接関係ありません。


結晶シリコン型を前提とするかぎり、既に市場では勝負がついてしまっていると思います。材料を外部に依存している日本企業には勝ち目はありません。42円/kwhは、事実上、日本の太陽電池企業に対する短期的な保護政策になっていると思いますが、その結果としての長期的なダメージが本当に心配されます。


もちろん国内の発電事業者は潤うと思いますし、設置業者なども恩恵を受けると思います。しかしそれはみな国民の負担によるものです。ドイツでは2011年に再生可能エネルギーの買い取りに136億ユーロ(1兆4000億円)費やされました。その内、半分が太陽光の買い取りです。世帯当たり太陽光の買い取りに5ユーロ以上の負担をしています(電中研の朝野さんの資料)。


42円/kwhという当初の買い取り価格は固定されたまま20年間続くわけですから、負担は当面、年々増大していきます。2011年のドイツでの設置出力量は7500万kw程度です。買い取り価格は家庭用で30円/kwhくらい、1MW以上の発電所では23円/kwhくらいでしたから、42円/kwhであれば、日本ではかなり急速に普及が進むとは思います。


しかしそれだけ負担の大きくなります。仮に1000万kwも設置されれば、その年の分だけで、4000億円を超える買い取りとなります。それが20年続くだけでなく、(買取価格は低下するものの)年々追加されていくわけです。


太陽電池のセルやモジュールは中国製が圧倒的に安いですから、ドイツと同じように参入障壁を築かないかぎり、中国製が大量に入ってくるでしょう。ドイツのQセルズが破綻したように、買い取り価格が低下するに従って、日本の太陽電池企業が一気に苦しくなるはずです。太陽電池に関しては、日本企業は製造装置や材料でもあまり強くありませんから、海外からの輸入が日本の産業に寄与する分は大きくありません。


僕は決して太陽光発電に反対しているわけではありません。12円/kwh から16円/kwhでいけるのであれば、むしろ、積極的に導入すべきだと思います(このあたりの判断の根拠に関してはまた別に書きます)。しかし42円/kwhという買取価格は、明らかに、現状の技術水準や国際価格を無視していますし、国内産業の保護による長期的な発展が期待できない以上、正当性をもつものではありません。


何度もいいますが、お金が無尽蔵にあれば、環境問題もエネルギー問題も問題とはならないのです。


地熱発電の買い取り価格が42円/kwhというのも驚きましたが、それに関する考えは、続きの(2)であらためて書きたいと思います。

(青島矢一)