2012年4月27日金曜日

自然エネルギーの買い取り価格について(2)(青島矢一)

2012年4月27日

地熱発電の電力の買い取り価格は、1.5万kw未満が42円/kwh、1.5万kw以上が27.3円/kwhとなっていました。少し驚きました。


太陽光の場合とは異なって、地熱発電は、国内産業が長期的に競争力を持ちうる可能性があるので、短期的な国民負担で、普及を促進することに一定の正当性があると思っています。


しかし、普及を促進する上で、42円/kwhの買い取りが本当に必要なのかは、疑問です。日本で一番大きな八丁原の発電所で11万kwですから、1.5万kwというとそこそこの規模です。僕が九州で見てきたホテルの発電所などは、1000-2000kwくらいですから、温泉発電などは全て、42円/kwhの買い取り対象となります。


42円/kwhという高い買い取り価格は、地熱発電の普及が進まない理由のかなりの部分が経済性にあるということでないと正当性をもたないと思います。しかしこれまでにも書きましたように、有価証券報告書ベースの計算では、八丁原発電所の発電単価は7円/kwh程度でしたし、アイスランドではおそらく2-3円/kwhくらいです。


小規模のホテルの発電所でも20円/kwhくらいの買い取りであれば、採算が合うといっていました。しかも管理体制などはかなり「竹槍」的でしたから、もっと効率的に運営することが可能だという印象をもちました。


地熱が進まない理由は、むしろ、環境との調和の問題や、地元の人たちの反対にあると思います。特に民間が運営する小規模の地熱発電所の場合には、むしろ、大儲けできるような買い取り価格は、地元の人たちとのコンフリクトの種になると思います。


いくら買い取り価格が高くても、何億、何十億という投資ができる人は限られているわけです。しかし、地熱という資源は、おそらく共有物であるという意識があるのでしょうから、特定の人だけに大儲けするというのは、コミュニティの中ではなかなか受け入れられないのではないかと思います。


買い取り価格を高くするよりは、地元の人たちがみな恩恵を受けられるような仕組みを考えることが先だと思います。そちらが整えば、買い取り価格がもっと低くても、普及するだろうと個人的には思っています。


このあたりについては僕もまだまだ調査が足りないのですが、普及を妨げている要因を、もっと現場に根ざして理解することが、政策決定には必要だと思います。


今回の買い取り価格決定をみていると、政策立案プロセスを根本から見直す必要があるのではないかと思えてきます。

(青島矢一)



自然エネルギーの買い取り価格決定について(1)(青島矢一)

2012年4月26日

自然エネルギーの買い取り価格が決定しました。太陽光発電に関しては予想されていた通り、発電事業向けが42円/kwhの全量買い取り、家庭用はこれまで通り、42円/kwhの余剰買い取りとなりました。


http://www.asahi.com/business/update/0425/TKY201204250290.html



予想していたとはいえ、新聞記事を見たときには、本当に将来が不安になりました。怒りさえこみ上げてきました。なぜ42円が正当化されるのか、全く理解できません。発電事業者は高い買取価格を要望するにきまっています。それがそのまま採用されるというのは不思議でなりません。


朝日新聞によると「再生可能エネルギーを推進するのがこの制度の趣旨だ」というのが調達価格算定委員会委員長の植田先生の説明だそうです。お金が無尽蔵にあれば、エネルギー問題も環境問題も簡単に解決できます。お金が希少だから、経済性とのバランスで苦労するわけです。適切なバランスをとるために、現状の技術水準、企業競争、需給バランス、為替など様々な要因を考慮して、政策を考えなければいけないわけです。


42円/kwhの買い取りに僕が賛成できない理由は簡単です。この買い取り政策が、国民の費用負担が大きすぎる割に、日本の産業競争力の向上に全く寄与しないと思われるからです。投入したお金が戻ってくるシナリオがどうしても描けません。


むしろ短期的に市場が潤う分、それに乗じて投資をおこなってしまう日本企業が後で被るダメージが大きくなります。別で論文を書いたように、エコポイント政策に合わせて投資拡大した日本企業の薄型テレビ事業と同じことが起きるのが目に見えています。


日本の経営者は、利益と株価に対して以前より敏感になっていますから、短期的にでも有望な市場機会が見えると、ある種、盲目的にその事業につぎ込んでしまうようなことがないかと危惧します(もちろん日本の経営者がそれほど無能だとは思いませんが)。。


環境/エネルギー政策は、それが日本の産業発展に寄与し、そこで日本企業が国際競争力をもち、長期的に付加価値を生み出すようになってはじめて報われます。現状の太陽光発電に関してはどうしてもそのシナリオを描くことができません。高い買取価格は決して日本企業の国際競争力を高めることには貢献しません。


そもそも42円/kwhという買い取り価格は国際的な価格からあまりにも乖離しています。現状世界で最も大きな市場であるドイツでは太陽光発電の発電単価は20円/kwhくらいです。


以前ブログで書きましたように、中国では12元/wから15元/wでしたから、現実的な発電単価は12円/kwhから16円/kwhくらいだと思います(電力中研の朝野さんに、金利やメンテナンスコストを含めると、だいたいワット単価の8割くらいで計算するのは現実的だと教えてもらいました)。


中国での買い取り価格は1元/kwh(13円/kwh)です。先日のミニシンポジウムでインドの先生の講演を聞きましたが、その時きいたインドでの発電単価も僕が中国で聞いた価格とほぼ同じでした。インドの先生は、それがGlobal Priceといっていました。


つまり42円/kwhという価格は、現状の太陽光発電の技術水準からして、明らかに高すぎます。国際価格からかけ離れています。高い買取価格が正当化されるのは(1)技術が未成熟であり技術進歩を促すために普及の加速化が必要な場合や(2)普及によって大きな規模の経済性が見込める場合だと思います。



現状の、結晶シリコン型太陽電池に関しては、どちらもあてはまりません。既に技術は汎用化しており、結晶シリコン型を前提とする限り、大きな性能進歩が望めません。原材料費が7割以上を占める太陽電池は量産効果もあまり見込めません。



近年価格が下がってきたのは、シリコン材料の値段が急落したこと、インバーターなどの電機系の量産効果、設置の効率化といったあたりが理由だと思います。シリコン材料の部分も既にかなり利益が絞られており、今後大幅に価格が下がるとは思えません。確かに材料の無駄をなくす技術によってコストが低下することはあると思いますが、それは量産効果とは直接関係ありません。


結晶シリコン型を前提とするかぎり、既に市場では勝負がついてしまっていると思います。材料を外部に依存している日本企業には勝ち目はありません。42円/kwhは、事実上、日本の太陽電池企業に対する短期的な保護政策になっていると思いますが、その結果としての長期的なダメージが本当に心配されます。


もちろん国内の発電事業者は潤うと思いますし、設置業者なども恩恵を受けると思います。しかしそれはみな国民の負担によるものです。ドイツでは2011年に再生可能エネルギーの買い取りに136億ユーロ(1兆4000億円)費やされました。その内、半分が太陽光の買い取りです。世帯当たり太陽光の買い取りに5ユーロ以上の負担をしています(電中研の朝野さんの資料)。


42円/kwhという当初の買い取り価格は固定されたまま20年間続くわけですから、負担は当面、年々増大していきます。2011年のドイツでの設置出力量は7500万kw程度です。買い取り価格は家庭用で30円/kwhくらい、1MW以上の発電所では23円/kwhくらいでしたから、42円/kwhであれば、日本ではかなり急速に普及が進むとは思います。


しかしそれだけ負担の大きくなります。仮に1000万kwも設置されれば、その年の分だけで、4000億円を超える買い取りとなります。それが20年続くだけでなく、(買取価格は低下するものの)年々追加されていくわけです。


太陽電池のセルやモジュールは中国製が圧倒的に安いですから、ドイツと同じように参入障壁を築かないかぎり、中国製が大量に入ってくるでしょう。ドイツのQセルズが破綻したように、買い取り価格が低下するに従って、日本の太陽電池企業が一気に苦しくなるはずです。太陽電池に関しては、日本企業は製造装置や材料でもあまり強くありませんから、海外からの輸入が日本の産業に寄与する分は大きくありません。


僕は決して太陽光発電に反対しているわけではありません。12円/kwh から16円/kwhでいけるのであれば、むしろ、積極的に導入すべきだと思います(このあたりの判断の根拠に関してはまた別に書きます)。しかし42円/kwhという買取価格は、明らかに、現状の技術水準や国際価格を無視していますし、国内産業の保護による長期的な発展が期待できない以上、正当性をもつものではありません。


何度もいいますが、お金が無尽蔵にあれば、環境問題もエネルギー問題も問題とはならないのです。


地熱発電の買い取り価格が42円/kwhというのも驚きましたが、それに関する考えは、続きの(2)であらためて書きたいと思います。

(青島矢一)













2012年4月20日金曜日

東大のコンソーシアムでの講演(青島矢一)

2012年4月19日

東大の藤本先生と新宅先生に、ものづくり経営研究センターのコンソーシアムに呼ばれて、話をしてきました。環境やエネルギー問題への対策を考えるときに、産業競争力という観点を失わないようにしなければいけないことを主張する内容で、これまでと変わりはありません。


資料の中に日本のエレクトロニクス企業の2012年3月期業績(予想)のデータがあるのですが、その部分が発表の度に下方修正されていくのは悲しいことです。ソニー、パナソニック、シャープを合わせた純損失が1兆7000億近いというのは大変なことです。


日本の一般会計の法人税収入は8兆円弱、消費税収入が10兆円ほどですから、日本の大手企業がかつてのようにきちんと利益をだせれば、様々な問題の一部が解決します。


ちなみに、僕は、法人税減税はあまり効果がないと思っています。かつて2002年から2007年の好景気(といわれた)時期の製造業の付加価値の分析をしたことがありますが、この時期、確かに利益率は増大しましたが、付加価値率は激減しています。つまり、経営者は、利益を捻出するために、人件費や設備投資を削減していたと思われます(付加価値率低下のもう1つの理由はアウトソーシングの拡大)。


こうした経営者のかつての行動から推察するに、法人税減税で増えた付加価値分は、おそらく利益を捻出する側に回されて、人材や設備への長期投資にはまわらないのではないかと思われます。さらに、一律の法人税減税は、国際競争に晒されていない国内企業にも恩恵を与えることになり、公平性に欠けると思います。


日本に企業を残したいということであれば、国内投資に対する投資減税など、直接的な効果を狙った政策の方がいいと思います。


話がそれてしまいましたが、環境・エネルギー政策を考える上で、産業競争力という視点が欠けているという問題意識は、東大の藤本先生と共有しています。藤本先生も、現在、本を書いているということでした。

藤本先生は、「1日で1章書けると思ったけど、1週間もかかってしまった」といってました。この方、恐ろしい生産性です。センター長であり、2つの学会の学会長もやりながら、会う度に新しい論文をくれます。


コンソーシアムには様々な企業の人が参加していました。話の後、何人かの人が名刺交換にこられて話をしました。興味をもってくださったようです。


地熱発電に関することでは、三菱重工の方と少し話をしました。地熱発電がなかなか拡大しないのには企業側の事情もあるようです。大手企業からすれば、地熱発電は売上規模が小さすぎます。火力発電用の大規模なガスタービンや蒸気タービンの方が圧倒的に一回の売上規模が大きいので、どうしてもそちらに企業の資源は配分されます。



地熱発電の場合には、収益はむしろメンテナンスから生み出されます。腐食などの問題から定期的なブレードの交換が必要になるからです。以前訪ねた別府の杉の井ホテルの小さな発電設備でも、4年に1回、4000万円くらいの補修費用がかかるといっていました。


地熱発電の場合には、燃料費が実質ゼロですから、初期投資の設備費用が鍵となります。それに対して火力発電の場合には、圧倒的に燃料費が高いので、多少設備が高くなっても燃費が向上すれば、相殺されてしまいます。だから技術開発を続けて、性能の高いものをつくって、高く売るという事業モデルが成り立ちます。地熱はそうはいきません。


こうしたことからどうしても地熱発電には力が入りにくいのだと思います。おそらく地熱発電事業は大手企業から分離して、別会社にした方がよいと思われます。様々な地熱発電をリモートで監視することも含めてソリューション提供できれば、十分収益性の高い事業になると思います。

(青島矢一)



2012年4月17日火曜日

シンガポールの水資源探訪2 (積田淳史)

シンガポールの水資源概況
「シンガポールの水資源探訪」第2回では、
シンガポールの水資源の概況について、紹介して行きます。

2012年4月14日土曜日

中国CPVT訪問(2)(青島矢一)

3月22日

CPVTは現在、(1)(粗悪品を出さないための)PV製品の監督と検査、(2)製品輸出のためのPV製品の認証とテスト、(3)国内のPV製品標準の確立、という3つの仕事をしています。




(1)については、例えば、2009年、江蘇省政府からの依頼で、48社のPV企業の参加のもと、大規模の製品サンプリングテストや質問票調査をしました。プレゼンでは具体的なデータをみせてもらいましたが、各社のモジュール性能(変換効率)にはかなりばらつきがありました(30-40%くらい異なる)。それでも上位企業の性能は日本企業の性能と遜色ないかむしろ上回っていました(正確に比較ではないのですが)。


(2) については、CPVTは海外への輸出を希望する中国のPV企業に対して、「ワンストップサービス」を提供しています。海外の認証機関との連携のもと、主たる市場である欧州や米国への輸出に関しては、CPVTでのテストして認証されれば、輸出可能となっています。例外が日本と韓国だそうです。


中国国内では金太陽プロジェクトというインセンティブプログラムがありますが(1kwhあたり1元での電力買い取りか、設備能力1wあたり7元の補助金を出す制度)、それに応募するには、CQC(China Quality Certification Center)かCGC(China General Certification Centre)の認証を得る必要があります。CPVTは中国国内で唯一両方の双方の認証機関と連携しています。


またこうした認証以外にも、検査設備を持たない中小のPV製品、部材企業に対して、有償で検査サービスも提供しています。


CPVTによると無錫にはおそらく200社くらいのPV関連企業が存在しているとのこと。モジュール企業が20-30社。ウェハ製造企業が5社(江蘇省の中心でといっていたかもしれない)。バックシート、インバーター、封止ペーストなどを供給する多くの企業が存在するそうです。PV産業の集積地になっています。


現在、欧州など主要市場での需要減によって中国のPV企業は厳しい状況に置かれていますが、CPVTの仕事量はむしろ増大しているといいます。これは、1つには、テストする部材の領域が広がったこと、もう1つは競争が激しくなったことによって多くの企業が品質検査をきちんと行うようなったからだそうです。


今回話を聞いていて少し気になったことは、国際的な協力・連携関係を何度のアピールしていましたが、欧州と米国ばかりで、日本が一度も出てこなかったことです。


産総研は世界でもっともすぐれた技術をもっているので、是非共同研究したいといっていました。また日本で売るにはJET(電気安全環境研究所)の認証が必要になり、現状では日本に持ち込んで検査を依頼しなければいけないので、できれば他国と同じように、お互いに連携して、日本向けも中国国内で認証検査できるようにしたいといっていました。


なんとなくここでもガラパゴス化の臭いがします。別の記事で書きましたように、僕は、太陽電池の保護政策は効力がないと思っていますので、中国企業に対する参入障壁があるのであれば、それは取り払った方がいいように思います。

(青島矢一)







中国CPVT訪問(1)(青島矢一)

3月22日

少し時間が空いてしまいましたが、中国の太陽電池の検査を行っている国家レベルの機関のCPVT(China Photovoltaic Products Test Center)の訪問記です。



CTO含めて3人の方が対応してくれました。中国語がわからない僕のために、英語のできる王さんが、英語でプレゼンしてくれました。王さんは以前アプライドマテリアルズに勤めていて、何度かカリフォルニアにもいったことがあるのだそうです。


左から王博士、Yun博士
英語でプレゼンしてくれた

以下で聞いたことをまとめますが、一番印象に残っていたことは、「日本と韓国以外は国内でテストして輸出できる」ということでした。欧州や米国とは認証に関する提携があり、国際的な規格に沿った試験をパスすれば、現地で再検査しなくても、輸出可能だけれども、日本と韓国だけは現地で現地に基準に沿った試験をしなければいけないのだそうです。



一種の参入障壁になっています。このあたりの経緯は少し調べてみたいと思います。



CPVTは無錫質検(Wuxi Test)傘下にあり、国家品質監督検査検疫総局に認められた中国で唯一の太陽電池試験・テストセンターです。無錫市のサンテックの近くにあります。


ここではセルやモジュールだけでなく太陽電池に関わるあらゆる部材のテストと認証を行っています。CNASとILAC/MRA(ILAC相互認証)の認定を受けており、IECやUL規格に沿ったテストを行うことできます。


ビルの中には、セル、モジュール、電池、コントローラー、インバーター、ガラス、バックシートなど様々な部品や材料をテストする試験室があります。残念ながら写真撮影は禁止でしたが、一通り見せてもらいました。


お昼休み中でほとんど人をみかけませんでしたが、ここには、2名の博士(説明してくれた王さんとCTOのYunさんだと思う)、15名の修士、15名の技術士がいます。IEC TC82のメンバーが3名います。従業員の87.9%が学卒以上です。


中国の国家標準化管理委員会は、2009年、国内のPVの標準開発の効率を引き上げることを目的として、PV産業標準化促進ワーキンググループを設立しました。CPVTはそのグループリーダーの1つとして国内のPV産業の水準向上に役割を果たしてきました。


CPVTは国内外の様々な大学や研究機関との連携をはかっているようです。国内では、PV関係の研究で有名な中山大学と特に深い関係を築いており、中山大学から人材を得ているようです。


海外では、米国のNREL(National Renewable Energy Laboratory)、ドイツのFraunhofer ISE(太陽エネルギーシステム研究所)、スペインの試験機関AT4 Wireless、スイスのSUPSI(The University of Applied Sciences and Arts of Southern Switzerland )、ベルギーにあるEuroTest、オーストリアのAITといった機関と連携しているという説明を受けました。


また、2010年3月には、CEC(California Energy Committee)によって、CPVTが、公式にPVモジュールの認証プロセスにリストされました。米国にPVを輸出するにはCECによって規定されたレポートを作成して認証を受ける必要があるのですが、CPVTが公式にリストに載ったことによって、CSAの認証とCPVTでのテスト結果を送ることによって、中国のPVモジュールもスムーズに補助金の対象となるという説明でした(このあたり今一歩理解できていないかも)。


また2010年4月には、IECEE Proficiency Test Programに参加することになり、海外の検査・認証機関とのやりとりが活発化したといっていました。

(青島矢一)






2012年4月5日木曜日

シンガポールの水資源探訪1 (積田淳史)


獅子の治める水の街、シンガポール
「シンガポール」と聞いて、皆さんは何を思い出しますか?

多くの人がまっさきに連想するのは、「マーライオン」かもしれません。
マーライオンは、獅子の頭と魚の体を併せ持つ、シンガポールの象徴です。





2012年4月1日日曜日

集権的エネルギーシステムのジレンマとスマートグリッド(斉藤靖)

2012年4月1日

昨年起こった東日本大震災は、原子力発電およびエネルギーの安定供給に対する信頼性に疑念を抱かせることになりました。震災後に生じた福島第一原発の事故への対応や計画停電の実施などの経験を通じて、他国と比較して信頼性が高いとは言われながらも、現在の日本のエネルギーシステムの問題点も顕在化したように思います。

この問題を組織論的な観点から考ると、「集権的システムのジレンマ」とも呼べるようなことではないかと私自身考えています。エネルギーのような大規模システムの場合、安定性とそれによる高い信頼性を維持するためにシステム全体を集権的にコントロールする必要があります。システム内の各サブユニットに厳格なルールを設定し、それらを遵守するよう教育を施し、厳格に遵守しているかチェックすることが求められるわけです。すなわち、官僚制組織的なシステムを構築する必要があるのです。日本のエネルギーシステムもそのような考え方で構築されてきていると思います。

しかしながら、このような集権的なシステムには少なくとも2つのジレンマが存在すると考えられます。1つ目のジレンマは、システムの規模が大きくなればなるほど、そのシステムを安定的かつ高い信頼性を確保しながら運営するためにますます集権的なコントロールが必要になるわけですが、しかしながら現実には、システムの規模が大きくなるほど集権的なシステムを維持することが難しくなるというジレンマです。このジレンマは、今回の投稿とはあまり関係がない(無関係ではないですが)ので詳しい説明は省略しますが、ポイントは、規模が大きくなると、垂直的にも水平的にもサブユニットが増大し、また、システムに属する成員も組織内を移動したり人員の入れ替えなどが起こることになるため、システム全体としての統合が維持しづらくなるという点にあります。

2つ目のジレンマは、今回の大震災のように不測の事態が生じた場合に、集権的かつ大規模なシステムであるほどその対応が遅くなってしまうために、それによる被害が増大してしまうということです。対応が遅くなるのには少なくとも2つの理由が考えられます。第1に、このような場合には現場レベルの成員が即座に対応しなければならないわけですが、権限関係がルールとして厳格に決められているような集権的なシステムにおいてとりわけこのような不測の事態が生じた場合には、そのような柔軟な対応ができないからです。第2に、たとえ柔軟な対応が許されていたとしても、そのような能力が現場に備わっていない可能性が高いためです。官僚制組織の逆機能としてもよく言われることですが、ルールで規定されていないことには柔軟に対応できないばかりか、とりわけ原子力発電のようなリスクの高いシステムの場合、そもそも大惨事につながる失敗は許されないわけですから、トライ&エラーのような経験による学習が難しいということもあります。

今回の大震災後に生じたことは、2つ目のジレンマが顕在化したケースとして考えることができるでしょう。このような経験から、日本における将来のエネルギーシステムをどうすべきか真剣に考えるべき時が来ているようにも思いますが、その1つの方向性として「スマートグリッド」が考えられるでしょう。これまでのシステムとは異なる自律分散型のシステムは、とりわけ集権的なシステムから生じる2つ目のジレンマとの関連から、リスク分散型のシステムとして有効性が高いと考えられます。ただし、このスマートグリッドが実現するためには数多くの乗り越えなければならない問題があることも事実です。自律分散型のシステムがいいとは単純には言えない側面もあるはずです。このような問題意識をもちつつ、今後、magiccの1つの研究テーマとして、日本におけるスマートグリッドの進捗状況やそこで生じている問題点、将来的な可能性などについて具体的なケースを分析しながら検討していきたいと考えています。

(齋藤靖)

日本のPV産業について考えの変化(青島矢一)

4月1日

中国のPV産業の調査に出かけて、日本の太陽電池の普及・産業政策に関して考え方が変わりました。考えの前提、考える論理ステップは基本的に同じなのですが、結論が変わりました。


これまで、エコポイントの分析をもとに、技術が汎用化した産業領域では、グリーン技術・製品の国内普及が、国内産業の競争力につながらいことを指摘してきました。当たり前のことなのですが、「環境」「エネルギー」というマジックワードのもとでは、この当たり前のことさえ、軽視されるように思います。


太陽電池も、主流の結晶シリコン型太陽電池の製造技術は汎用化していますので、日本が全量固定価格買い取り制度をスタートし、高い買取価格を設定すれば、海外から安いパネルが大量に導入され、おそらく日本の太陽電池企業は、短期的には多少潤っても、長期的には大きなダメージを受けると思われます。特に円高状態がそれを助長するでしょう。


ということから、これまでは、拙速に全量固定価格買い取りを始めるのは良くないのではと思っていました。この結論部分が、中国を訪問して、変わりました。中国の太陽電池のサプライチェーンが中国国内でかなり完成しつつあり、思ったよりも安くなっていたからです。しかも、結晶シリコン型を前提とすると、今後は、それほど大幅な効率改善とコスト削減が進まないと思われるからです。


中国の訪問記で書きましたように、中国での太陽電池のコストは、設置等全て含めて、12元(150円)/wから15元(20円)/wくらいです。150円/wとしますと、15万円/kwです。稼働率を12%としますと、1kwのパネルで年間に、8760*1*0.12 =1051kwhがつくられます。劣化の影響を無視して、耐用年数を20年としますと、21024kwhとなります。15万円の投資を単純にこの値でわりますと、7.13円/kwhとなります。もちろん実際には、パネルは年々劣化しますし、電機系などのメンテナンスコストもかかるとは思います。それでも、現在家庭用の電気の値段が22円/kwhであることを考えれば、既に十分に実用段階にあります。日本の様々な試算が、40数円/kwhとなっているのは、金利を含んでいるとしても、日本企業のコストの現状を前提とした、かなり悲観的な試算だと思います。


中国の大手企業はシリコン材料まで垂直統合するようになっていますし、そうでなくでも、中国の集積地で、安くシリコンインゴットやウェハを購入できます。カバーグラスやバックシート、封止材も、国内で調達できます。こうしたことから日本企業とはかなりのコスト差があると思われます。材料コストが多くを占める太陽電池は、日本企業には不利な領域です。


こうしたことから僕の結論は次のように変わりました。


結晶シリコン型が主流である現段階では、国内企業を短期的に保護することを考えるより、中国企業がなんとか利益がでる程度(例えば20円/kwhとか)に事業向けの買い取り価格を設定して、中国を含む海外企業に完全に市場をオープンにし(現状では国内で検査しなければいけないといった障壁がある)、熾烈な競争を通じて、安い太陽光システムを日本に普及させてしまう。つまり、まずは、エネルギー問題とGHG削減問題に焦点をあてて、解決を進める。


一方、日本の太陽電池産業の振興という点では、家庭用に焦点をあてた技術開発を促進するとともに、次世代技術開発に補助金などのインセンティブをあてるのがいいと思います。家庭用については、消費者は単純に発電効率だけでなく、意匠性や取りまわしなど様々な要因が購入決定に関わってくるので、家やビルが密集している日本市場向けに工夫をすれば、似たような事情をもつ国に展開できるでしょうし、何よりも、次世代技術では先行して、技術をきちんと囲い込む戦略を、今から、慎重に考えることが大事だと思います。


一番おそれるのは、高い買取価格を設定して、目先の事業機会に反応して、日本企業が汎用技術でできる製品の生産に多くの投資をしてしまうことです。テレビ産業の二の舞だけは避けなければいけないと思います。


(青島矢一)