2012年2月9日
大河内賞ケース研究プロジェクトで、三菱重工のガスタービン技術に関する講演会がありました。
この極限技術の飽くなき追求。日本の製造業の強さが凝縮した事例です。
原子力発電所の運転再開は簡単にはいかないでしょうし、再生可能エネルギーといっても原子力発電を代替するにはほど遠い状況ですので、当面は火力発電に頼らざるを得ません。火力発電の中でも、相対的に、発電コストが安く、CO2 排出も少ないのが、天然ガス火力発電です。
天然ガス火力発電は、立ち上げもはやく、出力調整も比較的容易いので、今後増えていく再生可能エネルギーの変動を吸収する上でも、有望な技術です。
原子力発電の落ち込みの穴埋めをしつつ、なるべく発電コストとCO2排出を抑えようとするなら、火力発電所の効率を高めることを優先するのが、普通の考え方だと思います。
今回の講演でもあったように、さらに高温に耐えるタービンを開発してエネルギー効率を上げるとともに、蒸気タービンを組み合わせたコンバインドサイクルを展開することは当面、進んでいくと思います。その後は、さらに、燃料電池を組み合わせたシステムなどの開発が進められているようです。
ガスタービンが期待できるのは、それが、日本企業が比較的強い技術領域、産業領域だからです。今後日本が一定の削減義務を負い続けることは避けられないでしょう。
経済の縮小を受け入れないとするなら、日本国内で、真水で削減目標を達成することは難しいでしょうから、海外でのCDMプロジェクトなどを通じた排出権の獲得が必要になります。日本のガスタービンは、重要な輸出製品であるとともに、そうしたCDMプロジェクトにおいても活用できるはずです。
ただ、今回の発表を聞いていて、少し、危惧する点もあります。三菱重工のガスタービン事業の成功は、明らかに、80年代の日本の製造業の勝ちパターンを代表しています。しかしエレクトロニクス産業では、今世紀に入って、その勝ちパターンが通用しなくなり、家電企業の多くが苦境に立たされています。
同じことが起きないだろうか、という危惧です。
三菱重工のガスタービン事業は(おそらく)利益をだしており、成功しているのだから、そんなことは杞憂かもしれません。しかし、技術進歩が物理的限界に近づけば、自然の成り行きとして、投入する開発努力や資源の割に、性能向上のペースが鈍化します。
顧客が考えるのは、結局ところ、経済性ですから、投資の割に性能があがらなければ、いずれ差別化できなくなり、限界がきます。その時に、後発企業による安い汎用技術が市場を席巻するようなことにはならないだろうか。
そうなると、エネルギー変換効率以外の競争軸がでてくるのではないか。たとえば、再生可能エネルギーの供給変動を吸収することが鍵となれば、多少エネルギー効率が悪くても小型のタービンを複数並べた方がいいのではないだろうか。など・・。
このあたり、工場見学にいき、今後調査を進めながら、考えていこうと思います。
(青島矢一)