2012年2月28日火曜日

九重観光ホテルの地熱発電所見学(青島矢一)


224日 

昨日は小池社長の話を聞いただけでしたが、本日は実際に見学をさせていただきました(昨日の小池社長の話は書き留めてありますが、公開して良いか微妙な部分があるので、確認後アップします)。


発電所がとまっているので残念ですが、仕組みはよくわかりました。


井戸は2本です。古い方の1つめの井戸は、半分は温泉に利用して、残りを発電用に使っていたとのことです。2つめの井戸は別の場所にあり、発電所の建設に合わせて新たに掘ったもので、100%発電用に使用しています。規制で井戸と井戸の間を140m以上あけなければいけないとのことで、九重観光ホテルの敷地内にはこれ以上の井戸は掘れないそうです。


九重地熱発電所
古い井戸

タービンは壊れており、中は見られませんでした。川崎重工のタービンです。発電機は日立製です。


タービン入り口
川崎重工製タービン

 発電の仕組みは次のようになっています。





井戸から取り出された熱水を含む蒸気は汽水分離器で蒸気と熱水に分けられ、熱水は温泉に、蒸気はタービンに送られます。タービンは1800回転になるように制御されています。


タービンを回した蒸気は、熱水として復水器に廻り、それが冷却棟を介して、再びタービンに送られて、冷却のために使われます。蒸気が入り込む高温の入り口と冷却水で冷却さ後ろとの間の温度差で蒸気が引き込まれタービンが勢いよく回ることになります(おそらくこの理解で良いかと)。

復水器
冷却棟

タービンを回した蒸気は温泉には使われません。熱水が酸性だと配管などにダメージを与えるため中和剤を添加するので、温泉には使えないとのことでした。


発電設備は24時間管理しなければいけません。ここでは3人が交代で常駐しています。発電していない今でも、定期的にデータを収集して記録しています。


制御室

いかにも分散型発電といった感じです。「発電所」といったイメージではありません。


昨日の社長の話も合わせて考えると、メーカーの協力のもとで、きちんと効率的にマネジメントを行えば、おそらく、かなりの経済性を実現できるのではないかと思いました。

(青島矢一)

2012年2月25日土曜日

ターボブレード(大分)訪問(2)(青島矢一)

2012年2月23日


震災後、再生可能エネルギーへの注目が集まる中、次に手がけることになったのが、冒頭で話した別府の温泉発電所です。


別府の温泉の井戸からは熱水が勢いよく吹き出ており、そのままでは、温泉には使えないので、それを石などにぶつけて減衰させているとのこと。つまり、わざわざ大量のエネルギーを捨てて温泉として利用しているわけです。


これはもったいないということで、この勢いよく吹き出る熱水蒸気でタービンを回して発電しようというのが林社長のアイデアです。二相流のタービンの設計というのは非常に難しいらしいのですが(木村さんが後で説明してくれました)、かつて地獄谷で熱水蒸気タービンを設計した経験もあり、開発に成功したということです。35日から6日に3キロワットの実験機が設置されるそうです。


技術的なことは詳しくわからないのですが、この設備では、まず熱水蒸気タービンを回して、その後、残った蒸気で蒸気タービンを回し、熱水は温泉に利用します。一種の、コジェネレーション、コンバインドサイクルといえるでしょうか。


遠心タービン
最終的なタービンは200kw規模のものを想定しており、仮に今年始まる全量固定価格買い取り制度で、20円以上の買い取り価格となれば、1億円以内にコストを抑えれば十分に採算があうといいます。


少し計算してみますと、200kwの発電設備が仮に90%稼働したとしますと、年間およそ160kwhの電力を発電します。これを1kwhあたり20円で売却すれば年間3,200万円となります(林社長は3800万円と言っていましたので、おそらく20円以上を想定しているのだと思います)。


井戸は既にありますので1億円というのは工事費を含めた全ての初期コストです。この初期コストはおよそ3年で回収できます。林社長はこのくらいでないと民間にはとても売れないといいますが、従来の発電設備と比較すると、とてつもない経済性の高さです。もし30年の回収期間を想定すると、発電単価は、2円/kwh程度になります。20年でも3円/kwh程度です。


もちろん管理コストがかかってきますが、必要な人件費は、電気主任技術者プラス数名程度であって、これも常勤で雇用する必要はないかもしれません。その他のメンテナンスコストなどを考えたとしても、火力や原発より安いと思われます。太陽光など全く話になりません。


林社長が3年の回収期間を想定するのは、企業の工場廃熱からのエネルギー回収向け設備の納入経験から来ているそうです。また、民間が銀行から借り入れをして発電所をつくるとなると35年の回収モデルが描けなければ実現性がありません。民間相手の真っ当な感覚からすると、電力企業の事業は甘いと言わざるを得ません。


現状温泉発電を持てるのは温泉旅館や温泉配湯業者といった民間ですから、回収期間の長い投資は難しいと思います。ただ将来的には温泉の権利と温泉発電の開発をうまく分離して、ファイナンスの仕組みを工夫できれば、もっと普及するのではないかと思います。


ターボブレードは、現在、タービン設計だけでなく、深海底ドリリング計画ターボドリルの開発などを手がけ、事業範囲を拡大しています。大正やオイルショック期の水力タービンブームがすぐに消え去ったという経験からして、現在の再生可能エネルギーブームが今後もずっと続くとは思っていないからです。

国家プロジェクト

再生可能エネルギーの普及にはブームが必要ですし、そのためには、政府の支援が必要だと思います。ただ、将来的に経済性の成り立つ事業モデルが描けていること、そして、そこで日本の産業が潤うことが条件だと思います。


今回のインタビューから、そうした点からの地熱発電の可能性に対して、ますます確信をもつようになりました。


ブログでは詳細は書けない部分もありますが、その内、きちんとレポートします。

(文責:青島矢一)

ターボブレード(大分)訪問(1)(青島矢一)

2012年2月23日


大分県にあるターボブレードという企業で林社長にインタビューしました。同僚の延岡さんと、九州大学の木村さんと一緒です。大分では温泉発電が盛り上がっており、今年3月から別府で温泉発電が始まるとのこと。その発電設備を全て開発設計した企業がターボブレードです。

林社長は、非常に博識で、いろんなことを教えてもらいました。タービンに関することなら何でも知っているという感じです。丁寧に話をしてくれました。


以下は林社長の話をまとめたものです。

林社長

そもそもターボブレードという企業は、林社長の父親の会社であった林エンジニアリングから独立した企業です。さらにその歴史は、林社長の祖父が昭和2年に設立した林鉄工所にまでさかのぼります。


明治から大正にかけて、農業促進政策の一環として、動力源としての水力タービンの導入に、国が半分の補助金をだしました。そこで、十数キロワットの小水力が全国にいたるところで一気に広がりました。その数は全国で2万箇所におよんだといいます。小型水力ブームです。


政府の補助金があったので、農家は、水力タービンを導入することによって、脱穀や精米の効率向上などを通じて、実質的に経済的に潤うことができました。発電用にも使われたといいます。儲かるから一気に広がったわけです(ただしその後、ブームは去り、多くの水力タービンは放置されることになりました)。こうした、分散型のエネルギー創出の普及は、なんとなく最近の状況と重なります。


林鉄工所はそうした水力タービンの設計製造会社として成長しました。


水力タービンに第二のブームは第一次石油ショックをきっかけに訪れます。石油を代替するエネルギーを模索する中で、小型の水力発電に注目が集まりました。


そこで、林エンジニアリングは再び水力タービンの設計に注力することになります。林エンジニアリングは、最盛期には70-80名もの設計者を抱え、水力発電向けのタービン設計では業界で知らない人はいないという企業にまで成長します。


小さいものでは300ワット、大きなものでは2000キロワットのタービンまで、あらゆるタービンを設計し、富士電機や東芝などの大手企業に供給してきました。100キロワット以下のタービンは林エンジニアリングがOEM供給していたそうです。






ただし、その後、水力発電所の建設も停滞し、林エンジニアリングも水力タービンだけでは事業が成り立たなくなっていきます。そこで、林エンジニアリングはポンプ設計など事業範囲を広げていきます。その後、林社長は、1999年に、ターボブレード社を設立して独立することになります。


ターボブレード社の様子

林社長と地熱発電との出会いは、20年ほど前、地熱発電研究の権威である九州大学の江原先生からかかってきた一本の電話でした。


「九重の地獄谷の調査でセンサーを置きたいのだが、電気がない。1キロワットくらいの発電設備をつくってくれないか」


現地にいくと間歇泉が出ていました。そこで、その間歇泉から吹き出ている熱水蒸気をつかってタービンを回し、発電する設備を実験的に設計しました。


この地熱発電の話は、ここで終わるのですが、その時に設計した二相流のタービンの経験が、その後の地熱タービン設計に活かされることになります。今年始まる別府の温泉発電に使われるタービンはこの経験を活かした熱水蒸気タービンです。


次に林社長が地熱発電と関係するのは4年前。佐賀大学の海洋エネルギー研究所の池上先生からの声かけで、低温発電向けのバイナリータービンの開発を共同で行うことになりました(佐賀県の補助金)。


これはなかなか難しい開発だと林社長はいいます。バイナリー方式とは、地中からの熱水を熱交換機に通して沸点の低い媒体を蒸発させ、その蒸気で発電をするものです。


佐賀大学との共同開発では、その媒体としてアンモニアを使っているのですが、アンモニアが漏れて、温泉に入ったりしたら大変なことです。アンモニアは高圧(70℃で40気圧)なので少量でいいというメリットがありますが、その分、危険性も高いということです。いかに漏れないように設計できるかが鍵だそうです。(つづく)

 (文責:青島矢一)

2012年2月16日木曜日

KDDIとの共同研究から思うこと(青島矢一)


215

今年度は、KDDI研究所と共同研究をしており、1ヶ月もしくは2ヶ月に1回のペースで研究会をしてきました。今日もその研究会でした。


KDDI研究所との関係は、KDDI総研の高崎さんが、僕のところに訪ねて来られたのをきっかけとして始まりました。確か、米国の通信業界に関する分析を、僕に報告してくださったのが、最初だったと記憶しています。




その後、学部の学生とKDDI研究所を訪ねて、KDDI研究所が開発している技術のプレゼンを聞くという機会を設けていただきました。それに対して、学生は、それらの技術を経済価値に転換するための事業アイデアを考え、KDDI関係の皆さんの前で、プレゼンしました。学生のアイデアの中にはなかなかおもしろいものがありました。


これらのことをきっかけとして、KDDI研究所との共同研究が始まりました。共同研究とはいっても、「通信業界を取り巻く技術や市場の変化を俯瞰して、将来の通信事業の姿を描く」といった漠としたもので、毎回、収束しない(けれど、おもしろい)議論を続けているという感じです。


前回は、KJ法を使って、通信業界をとりまく状況の整理を行いました。今回も通信技術の発展と社会や市場の発展が交差することに見えてくる新しい事業を整理するという作業を行いました。



いつもどおり収束しない議論ですが、いくつか、エネルギー・環境産業と通信産業の接点や共通点がみえてきたように思います。


通信技術の発展によって今後起きる予測されることは、様々なシステムの最適化の範囲が拡大して、高いレベルでの効率性が実現されていくことです。そこでは、ローカルに生じている様々な無駄が、システムの広い範囲で効率的に活用され、排除されていくだろうと思います。


エネルギー問題を解決する上での重要な鍵は、エネルギーの創出と消費のバランスを広い範囲で最適化すること(システムの最適化の範囲の拡大)と創出されたエネルギーを様々な形で利用するという合わせ技の工夫(エネルギーの多重利用)にあると思います。


前者はスマートグリッドの背後にある考え方です。


今のような統合化された系統発電の仕組みが登場する前、我々の社会におけるエネルギーの創出と消費は、非常にローカルに分散化されていました。これまでは分散から統合へと進歩してきたわけです。


それが現在再び、統合から分散へと変化しようとしています。しかし今度の分散は、単なる分散ではなさそうです。ICTの進歩のおかげで、分散化された活動は、広い範囲でつなぎ合わされ、統合化されます。技術の進歩によって、分散と統合が同時に実現できるようになるのではないかと思います。


そこでは、最適化をはかるシステムの範囲をどのように設定するか、その中で、いかにしてローカルな無駄を全体システムとして排除していくのかという、システム設計のアイデア勝負になってくるのではないかと思います。


この勝負に日本の企業は勝てるのだろうか。

(青島矢一)

2012年2月13日月曜日

NEDOプロジェクト報告会(青島矢一)


2012年2月10日


NEDOプロジェクト関する学内の報告会がありました。NEDOプロジェクトというのは、イノベーション研究センター(IIR)がすすめている産官学連携研究プロジェクトの1つで、NEDOと共同で、NEDOの支援を受けた研究開発プロジェクトとプロジェクトに参加した研究者に関する調査研究です。


僕の研究チームのメンバーは、僕と松嶋君(IIRの特任講師)です。NEDO支援プロジェクトに関する質問票調査を分析して、その結果をインタビュー調査によって、補完しています。


公的支援の効果と公的支援を受けた研究プロジェクトの成功要因を明らかにするのが目的です。これまでの分析では、公的支援を受けることによってプロジェクトが社内で孤立する傾向にあり、それが、社内資源の活用を妨げ技術課題の克服が遅れたり、事業化に向けた社内正当化が困難になったりするということが明らかになってきました。


また、またプロジェクトが社内で孤立し、外部とのコミュニケーションが低下することは、開発技術の事業化を難しくするだけでなく、開発された技術の転用を含む波及効果に対してもマイナスの効果をもつことも明らかになってきました。


さらにインタビュー調査からは、各プロジェクトが公的支援を受ける事情やプロジェクトに対する企業の本気度などが異なり、そのことが事業化成果に影響を与えること見えてきました。


この研究は、これまで、Magiccとは直接関係していませんでしたが、インタビュー調査を進める中で、かなり多くのプロジェクトが水素関連のプロジェクトであることがわかり(しかも事業化できたものはほぼない)、そのあたりの成果と将来性をMagiccの一環として、引き続き、松嶋君と一緒に研究していきたいと思っています。

(青島矢一)

2012年2月12日日曜日

三菱重工のガスタービン(青島矢一)


2012年2月9日


大河内賞ケース研究プロジェクトで、三菱重工のガスタービン技術に関する講演会がありました。


この極限技術の飽くなき追求。日本の製造業の強さが凝縮した事例です。


原子力発電所の運転再開は簡単にはいかないでしょうし、再生可能エネルギーといっても原子力発電を代替するにはほど遠い状況ですので、当面は火力発電に頼らざるを得ません。火力発電の中でも、相対的に、発電コストが安く、CO2 排出も少ないのが、天然ガス火力発電です。


天然ガス火力発電は、立ち上げもはやく、出力調整も比較的容易いので、今後増えていく再生可能エネルギーの変動を吸収する上でも、有望な技術です。


原子力発電の落ち込みの穴埋めをしつつ、なるべく発電コストとCO2排出を抑えようとするなら、火力発電所の効率を高めることを優先するのが、普通の考え方だと思います。


今回の講演でもあったように、さらに高温に耐えるタービンを開発してエネルギー効率を上げるとともに、蒸気タービンを組み合わせたコンバインドサイクルを展開することは当面、進んでいくと思います。その後は、さらに、燃料電池を組み合わせたシステムなどの開発が進められているようです。


ガスタービンが期待できるのは、それが、日本企業が比較的強い技術領域、産業領域だからです。今後日本が一定の削減義務を負い続けることは避けられないでしょう。


経済の縮小を受け入れないとするなら、日本国内で、真水で削減目標を達成することは難しいでしょうから、海外でのCDMプロジェクトなどを通じた排出権の獲得が必要になります。日本のガスタービンは、重要な輸出製品であるとともに、そうしたCDMプロジェクトにおいても活用できるはずです。


ただ、今回の発表を聞いていて、少し、危惧する点もあります。三菱重工のガスタービン事業の成功は、明らかに、80年代の日本の製造業の勝ちパターンを代表しています。しかしエレクトロニクス産業では、今世紀に入って、その勝ちパターンが通用しなくなり、家電企業の多くが苦境に立たされています。


同じことが起きないだろうか、という危惧です。


三菱重工のガスタービン事業は(おそらく)利益をだしており、成功しているのだから、そんなことは杞憂かもしれません。しかし、技術進歩が物理的限界に近づけば、自然の成り行きとして、投入する開発努力や資源の割に、性能向上のペースが鈍化します。


顧客が考えるのは、結局ところ、経済性ですから、投資の割に性能があがらなければ、いずれ差別化できなくなり、限界がきます。その時に、後発企業による安い汎用技術が市場を席巻するようなことにはならないだろうか。


そうなると、エネルギー変換効率以外の競争軸がでてくるのではないか。たとえば、再生可能エネルギーの供給変動を吸収することが鍵となれば、多少エネルギー効率が悪くても小型のタービンを複数並べた方がいいのではないだろうか。など・・。



このあたり、工場見学にいき、今後調査を進めながら、考えていこうと思います。

(青島矢一)

2012年2月8日水曜日

ソーラーフロンティア(青島矢一)


CO2削減イノベーション研究会で、ソーラーフロンティアの技術者の方の講演を聴きました。ソーラーフロンティアは昭和シェル石油の100%子会社で、CISという化合物型の太陽電池事業を展開している企業です。

CIS太陽電池モジュール



現在、市場で主流の太陽電池は結晶シリコン型とよばれるもので、家庭向けでは90%くらいを占めています。しかし、結晶シリコン型の太陽電池の技術は汎用化しており、欧米のターンキーソリューション企業から製造装置を一式購入すれば、誰でも、すぐに、それなりのものをつくることができるようになっています。それゆえ、セルとモジュール事業は、激しい価格競争に陥っており、太陽電池セルの生産の60%近くは、既に中国企業によって占められています。


中国企業の低価格戦略によって世界中の太陽電池企業が苦境に陥っています。米国では倒産する企業が相次ぎ、ダンピング訴訟がおきています。日本企業も利益がでずに苦しんでいる企業がほとんどです。


こうした中、ソーラーフロンティアのCISは、非常に期待が持てる技術だと思いました。エネルギー変換効率においては、まだ結晶シリコン型に劣るものの、製造工程がシンプルで、発電能力の割には実際の発電量が多いのが特徴です。


政策もこうした日本の独自技術を後押しして欲しいものだと思います。今年度は全量固定価格買い取り制度が始まる予定です。急速な普及政策をすすめると、結局、中国製の安いパネルが大量に導入されて、日本企業が駆逐されてしまうのではないかと危惧しています。


エコポイント後の日本のTV企業と同じようなことにならないだろうかと、非常に心配になります。


国民の税金を大量に使って拡大する日本の市場には、できれば、日本の企業が製品もサービスも供給してほしいものです。日本の市場拡大が日本企業の競争力を後押しするように政策を考えるべきだと思います。日本企業が産業競争力を長期的に確保してはじめて大量に投入された税金が後々戻ってくるのですから。円高が続く中、当面日本は、先端技術力で勝負するしかありません。先端技術開発を後押しするような政策が必要だと思います。


今後急速な普及政策がとられたときには企業も独自性を維持するように工夫する必要があるでしょう。おそらくセルやモジュールコストでは当面中国企業に勝てないでしょうから、例えば、日本の気象環境や住宅事情に適合した製品を、施工技術を含めて提供するといったことが、必要になると思います。次世代技術が育つまで、なんとか、そうした工夫で市場を維持することが必要です。そうはいっても事業用発電に全量固定買い取りが適用され、高い買い取り価格が設定されてしまうと難しいかもしれません。


講演者の了承がないので、ここでは詳細はかけませんが、いずれ、きちんとしたレポートを書こうと思います。


(青島矢一)

2012年2月6日月曜日

東京大学ものづくりセンターでのセミナー(青島矢一)


2012年2月3日

東大のものづくり経営センターの研究会に呼ばれて話をしてきました。タイトルは「エネルギー、環境、産業発展の両立にむけて」。『一橋ビジネスレビュー』3月号向け論文の内容です。

View more presentations from Yaichi1.

ものづくりセンターの研究は、「おたく的(おっ、ここまでやるか、というくらい中に入り込む)」なものが多く、僕は好きで、いつも参考にしています。


今回の話では、エネルギー問題/環境対策を考える上で、技術進歩や企業や競争の現場を理解しないと将来大変なことになる、ということを主張しているわけですが、それには皆さん同意してくれたように思います。現場に入り込んでいる人なら、すぐにわかることです。


まあ、こうした政策的な発言をし始めるのは危険で、経営学者としての本筋を失ってはいけないわけですが、それでも、今は少し、出しゃばった方がいいのではと思っております。「同床異夢の罠」、「環境、エネルギーというマジックワード」、「市場拡大=経済発展という幻想」という3つで現状の問題を整理していますので、3月号のビジネスレビューを見てください。


研究会で得たことはいろいろありますが、印象に残っているのは「電力の質」の重要性。ものづくりの現場を知り尽くしている藤本さんならではの視点で、この点、これまで少々軽視しておりました。


確かに、日本のものづくりの強さを維持するためには、電力コストよりも、電力の質の方がずっと重要でしょう(日本の製造業の競争優位を考えれば自明)。もちろん、それに固執しすぎて、電力会社の既得権益を擁護しすぎてはいけないとは思いますが、再生可能エネルギーへの転換においても、如何にして需要サイドにおける電力の質を維持するかが極めて重要な視点だとあらためて思いました。


分散型システムの場合、供給資源に余裕があれば、質の担保が可能ですが、今の日本では供給側が逼迫しているので、分散型といいながらも全体最適を追求しないとおそらく質の確保は難しいだろうと直感的には思います。このあたり、今後考えていきたいと思います。


それにしても、藤本さんの、相変わらずのパワーには圧倒されました。研究の厚みが違いますね。さすがです。東大ものづくりセンターはいいところです


(青島矢一)