2012年7月12日
小浜温泉における地熱エネルギー開発
地熱発電に関する調査で長崎の雲仙にある小浜温泉にでかけました。小浜では、国の3つの事業に採択されて、小規模バイナリー発電の可能性を検討しています。
歴史資料館の中にある自噴泉 |
3つの中で一番大きな事業は、環境省のチャレンジ25地域づくり事業で、小規模バイナリー発電の実証実験として、この秋には神戸製鋼製の72kwのマイクロバイナリー発電設備3基が導入されることになっています。来年度いっぱい実証実験を行う予定です。
2つめの事業は、同じく環境省の地域主導型再生可能エネルギー事業化検討業務で、実証実験を終えた後の事業化計画の策定が目的となっています。3つめは、経産省のスマートコミュニティ構想普及支援事業で、再生可能エネルギーによるスマートコミュニティ化を検討するもので、昨年度終了しています。
地熱利用は温泉場の人々の反対によって進まないことが多いのですが、小浜では温泉場の人々が自らこのプロジェクトを推進しています。2011年3月8日には、小浜温泉エネルギー活用推進協議会が設立され、温泉エネルギーの活用を町ぐるみで推進しています。この協議会には、泉源所有者や婦人会など様々な組織の代表者のほか、長崎大学の教員や企業人も参加しています。
また地熱開発のプロジェクトを運営するために、協議会の主要メンバーを役員とする、一般社団法人小浜温泉エネルギーが設立されました。この法人は、国の補助金の申請主体となるとともに、将来の事業主体になることが想定されています。実際に、地域主導型再生可能エネルギー事業化検討業務の事業主体となっています(チャレンジ25の方の事業主体は福岡の地熱関連企業のエディット。エディットの社長は協議会のメンバーとなっている)。
地熱開発反対の歴史
いまでこそ、町ぐるみで地熱利用を促進している小浜温泉ですが、地熱利用には強く反対してきた歴史があります。例えば、2003年には、NEDOの地熱開発促進調査で、温泉街から少し離れた場所で試掘を行い、1.5MWの発電設備を設置するという計画がありました。これに関しては、掘削による温泉への影響を心配した地元(小浜温泉だけでなく、雲仙温泉からも)で強い反対運動が起こり、掘削調査そのものが中止になるという事態となりました。
小浜温泉の泉源(貯留槽)は、すぐ前の橘湾の下にあるようで、それがまず小浜で噴出し、さらに奥の雲仙にもつながっていると考えられています。ゆえに小浜で地熱井の開発が進み、万が一泉源が枯渇することがあれば、雲仙温泉やその先の島原温泉も影響をうけると考えられています。1つの温泉街が賛成しても地熱開発が進まない理由がここにあります。
同じ時期に小浜では250kW のバイナリー発電の実証実験の計画もありました。実際に温泉井戸の掘削を行い90℃以上の温泉が出たのですが、発電にはもっと高温の泉源が必要ということで、新たな掘削が必要となり、それに対して地元が反対したため、こちらも中止となりました。
反対の最も大きな理由は温泉の枯渇の危険性です。小浜温泉では、昭和30年頃、温泉熱を利用した製塩事業を展開していました。一時期は日本の塩の総生産量の2%を生産していたとのことです。当時は100本以上の泉源があり、この製塩事業のための大量の温泉をくみ上げてしましたが、そのために、温泉の自噴が停止したり、温度が低下するなど,温泉の枯渇が心配される状況に落ちいった経験があります。そうした経験から、温泉の掘削には極めて慎重になってきました。
NEDOの地熱開発促進調査に反対した時のことを、小浜温泉エネルギー代表理事の本多さんに聞きました。当時(今も)懸念していたのは、温泉枯渇の危険性、砒素の問題、さらに掘削による地震の問題だそうです。本田さんの説明によれば、(1)地熱開発は大量の水をくみ上げることになるので、温泉の枯渇の危険性が伴う、(2)また、掘削深度が深いため、砒素が流出する危険性があり、万が一、砒素が出れば温泉に多大な影響がある、(3)また還元井で水を地中に戻すにしても、岩にしみこませると小さな地震が起きる、ということでした。
本多さんは、決して何もかも反対ということではありませんでしたが、やはり地熱開発による温泉への影響を強く気にしていました。小浜の歴史資料館を訪れたときに、その理由を、強く実感しました。
本多家は、1635年に三河からこの地に移ってきて以来、代々、湯大夫として温泉場を守ってきました。宣章さんで13代目になります。本多家の歴史資料を飾る歴史資料館にはその歴史を感じさせる数々の調度品が飾られていました。地熱開発によってこの歴史に傷が入ることは到底許されないことだと思います。地熱開発が地元にもたらす便益(現状ではほどんどない)に比べて、失う(可能性のある)ものが大きすぎます。
本多家家系図 |
歴史資料館の中 |
日本における地熱開発の可能性を強く感じながらも、その難しさを強く実感しました。地元に大きな便益をもたらすような仕組みなしには、既存の温泉街の近くで地熱開発を進めるのは不可能であると思います。(青島矢一)