2012年9月28日金曜日

小規模地熱発電の可能性(2):経済性


2012712

地熱開発の条件

地熱開発に対する反対の歴史を抱えながら、なぜ、小浜の人たちが現在地熱エネルギーの開発を推進しているのでしょうか。東日本大震災をきっかけとした再生可能エネルギーに対する注目や長崎大学を中心として進められている地域再生モデルへの賛同もあると思います。


高温の温泉に恵まれる小浜温泉
島原半島は、2009年に、国内で初めてジオパークに認定されました。2012年には島原で国際会議があり、気候変動におけるジオパークの役割として、再生可能エネルギーの活用も言及されています。また、島原半島スマートコミュニティという研究会も立ち上がり、島原半島全体を自然エネルギーでまかなおうとする構想も検討されています。こうした流れの中で、地元の活性化を狙って、地熱開発に協力するようになったことは考えられます。


しかし、何よりも重要なことは、今回の地熱発電の実証試験では、新たな温泉井を一切掘らないことにあります。既にある井戸を活用し、さらにバイナリー発電ゆえに、温泉水は地下に還元されます。これであれば、既存の温泉に対する影響がないことは100%確証できます。必ずしも、地元の人たちが考え方を変えて、地熱開発に乗り出したというわけではありません。やはり、温泉に対する影響が少しでも想定される限り、開発に反対するという立場には変わりないと思われます。


小型バイナリー発電の経済性
新たな井戸は一切掘らないということを前提にすすめられている実証実験では経済性の確立が課題となっているようです。


実証設備用の温泉井戸
現在は温泉熱で塩を製造


環境省の事業であるため、国産のタービンを使う必要があり、現在市場で調達可能な小型タービンということで神戸製鋼製の72kWのタービンを3基導入する計画となっています。1台の値段が2,500万円、3基で7,500万円です。タービン自体はこのように安価なのですが、設置工事や配管工事を合わせると1基あたり7,000万円ほどになってしまう可能性があるとのことです。以前のNEDOの事業で海辺に掘った井戸を活用するのですが、それだけでは、湯量が足りないため、他の井戸からお湯を引っ張ってこなければなりません。そのために配管コストがかさみます。工事費を含めると、3基で2億円程度となります。


一方、最大出力は72kWなのですが、実際の送電端の出力は30kW程度になるそうです。冷却等など、所内で必要とされる電力が30-40%程度あること、それに加えて、使用予定の井戸の湯量が最大出力を得るには足りないからです。メーカーのカタログに記載されている50t/h以上の湯量があれば送電端で40kW以上の出力が可能なのですが、そこまではお湯を集めることが難しそうです。


3基で送電端の出力は90Wということになります。メンテナンスを考えると稼働率は7割程度ですから、年間の発電量は、90kW*8760*0.7=552,000kWhです。固定価格買い取りの買い取り価格は42/kWhですから、年間の売電収入は2,300万円程度です(実際には実証設備では売電はできないが)。投資額は2億円ですから、ランニングコストを除いても、回収には10年を要します。実際にはメンテナンスコストもかかるし、電気主任技術者など人件費もかかります(バイナリーに関しては、昨年、ボイラー・タービン技術者の選任が規制緩和によって必要なくなりましたが)。これらを勘案すると、投資回収期間はさらに長くなります。地熱電力の買い取り期間は15年ですので、投資回収できるかどうか、ぎりぎりのラインだと思われます。


小浜の場合には新たな掘削ができませんので、既存の温泉井からお湯を集めてくるための配管工事が大きくなってしまいます。42/kWhというのは破格の買い取り価格だと思います。神戸製鋼の設備価格の2,500万円も、普及を見込んだ、かなり安い設定になっているようにおもわれます。それでも、採算ラインにのるか微妙なところです。


このように見てきますと、小規模地熱発電に関してはかなり工夫しないと、経済性を確保することは難しいようです。このまま、高い買い取り価格を期待して、広く導入されることになると、買い取りが終わった後、大量の廃棄物が放置されるということにもなりかねません。温泉場では、観光の呼び水として地熱発電を位置づけるという考え方もあるのでしょうが、小規模の地熱発電があるからといって必ずしも客を呼べるわけではありません(やり方はあるかもしれませんが)。


日本一長い足湯
僕は、再生可能エネルギーは経済性が成り立たない限り長期的な普及はしないし、産業としての発展は見込めないと思っています。その点、小規模地熱発電は、現状のままでは厳しいと思います。新たな掘削ができず、低い温度と少ない湯量での発電を余儀なくされ、その上、設備ごとに、メンテナンスコストと人件費がのしかかってきます。これでは経済性を実現するのは不可能です。


ただ、多くの小規模発電を集中して管理、メンテナンスできるような仕組みができれば、ランニングコストはかなり縮小されるかもしれません。後は、何とか効率的な発電の条件(温度と湯量)を整えることだと思います。42円という破格の買い取り価格を活用して、地元が潤うようになれば、地熱開発に対する抵抗も少なくなっていくかもしれません。


小規模地熱開発でエネルギー問題が解消されることはありえません。エネルギー問題の解決に寄与するには、大規模の地熱開発が必要です。そこにいたるまでの橋渡しとして小規模発電を位置づけることはできるかもしれません。そのためにも地元が大きく潤う仕組みが必要です。そうでなければ、結局「地熱なんて何もよいことはない」といって、これまで通り脇に置かれ続けることになると思います。(青島矢一)

小規模地熱発電の可能性(1):地元の反対と支援



2012712

小浜温泉における地熱エネルギー開発


地熱発電に関する調査で長崎の雲仙にある小浜温泉にでかけました。小浜では、国の3つの事業に採択されて、小規模バイナリー発電の可能性を検討しています。


歴史資料館の中にある自噴泉

3つの中で一番大きな事業は、環境省のチャレンジ25地域づくり事業で、小規模バイナリー発電の実証実験として、この秋には神戸製鋼製の72kwのマイクロバイナリー発電設備3基が導入されることになっています。来年度いっぱい実証実験を行う予定です。


2つめの事業は、同じく環境省の地域主導型再生可能エネルギー事業化検討業務で、実証実験を終えた後の事業化計画の策定が目的となっています。3つめは、経産省のスマートコミュニティ構想普及支援事業で、再生可能エネルギーによるスマートコミュニティ化を検討するもので、昨年度終了しています。


地熱利用は温泉場の人々の反対によって進まないことが多いのですが、小浜では温泉場の人々が自らこのプロジェクトを推進しています。201138日には、小浜温泉エネルギー活用推進協議会が設立され、温泉エネルギーの活用を町ぐるみで推進しています。この協議会には、泉源所有者や婦人会など様々な組織の代表者のほか、長崎大学の教員や企業人も参加しています。


また地熱開発のプロジェクトを運営するために、協議会の主要メンバーを役員とする、一般社団法人小浜温泉エネルギーが設立されました。この法人は、国の補助金の申請主体となるとともに、将来の事業主体になることが想定されています。実際に、地域主導型再生可能エネルギー事業化検討業務の事業主体となっています(チャレンジ25の方の事業主体は福岡の地熱関連企業のエディット。エディットの社長は協議会のメンバーとなっている)。


地熱開発反対の歴史

いまでこそ、町ぐるみで地熱利用を促進している小浜温泉ですが、地熱利用には強く反対してきた歴史があります。例えば、2003年には、NEDOの地熱開発促進調査で、温泉街から少し離れた場所で試掘を行い、1.5MWの発電設備を設置するという計画がありました。これに関しては、掘削による温泉への影響を心配した地元(小浜温泉だけでなく、雲仙温泉からも)で強い反対運動が起こり、掘削調査そのものが中止になるという事態となりました。


小浜温泉の泉源(貯留槽)は、すぐ前の橘湾の下にあるようで、それがまず小浜で噴出し、さらに奥の雲仙にもつながっていると考えられています。ゆえに小浜で地熱井の開発が進み、万が一泉源が枯渇することがあれば、雲仙温泉やその先の島原温泉も影響をうけると考えられています。1つの温泉街が賛成しても地熱開発が進まない理由がここにあります。


同じ時期に小浜では250kW のバイナリー発電の実証実験の計画もありました。実際に温泉井戸の掘削を行い90℃以上の温泉が出たのですが、発電にはもっと高温の泉源が必要ということで、新たな掘削が必要となり、それに対して地元が反対したため、こちらも中止となりました。


反対の最も大きな理由は温泉の枯渇の危険性です。小浜温泉では、昭和30年頃、温泉熱を利用した製塩事業を展開していました。一時期は日本の塩の総生産量の2%を生産していたとのことです。当時は100本以上の泉源があり、この製塩事業のための大量の温泉をくみ上げてしましたが、そのために、温泉の自噴が停止したり、温度が低下するなど,温泉の枯渇が心配される状況に落ちいった経験があります。そうした経験から、温泉の掘削には極めて慎重になってきました。


NEDOの地熱開発促進調査に反対した時のことを、小浜温泉エネルギー代表理事の本多さんに聞きました。当時(今も)懸念していたのは、温泉枯渇の危険性、砒素の問題、さらに掘削による地震の問題だそうです。本田さんの説明によれば、(1)地熱開発は大量の水をくみ上げることになるので、温泉の枯渇の危険性が伴う、(2)また、掘削深度が深いため、砒素が流出する危険性があり、万が一、砒素が出れば温泉に多大な影響がある、(3)また還元井で水を地中に戻すにしても、岩にしみこませると小さな地震が起きる、ということでした。


本多さんは、決して何もかも反対ということではありませんでしたが、やはり地熱開発による温泉への影響を強く気にしていました。小浜の歴史資料館を訪れたときに、その理由を、強く実感しました。


本多家は、1635年に三河からこの地に移ってきて以来、代々、湯大夫として温泉場を守ってきました。宣章さんで13代目になります。本多家の歴史資料を飾る歴史資料館にはその歴史を感じさせる数々の調度品が飾られていました。地熱開発によってこの歴史に傷が入ることは到底許されないことだと思います。地熱開発が地元にもたらす便益(現状ではほどんどない)に比べて、失う(可能性のある)ものが大きすぎます。


本多家家系図
歴史資料館の中

日本における地熱開発の可能性を強く感じながらも、その難しさを強く実感しました。地元に大きな便益をもたらすような仕組みなしには、既存の温泉街の近くで地熱開発を進めるのは不可能であると思います。(青島矢一)

2012年9月11日火曜日

中国太陽電池産業の変化(2):コスト削減と品質改善


中国の太陽電池産業に関して前回の続きです。




コスト削減の方法
現状のシリコンウェハのワットあたりのコストは2元です。その70%にあたる1.4元はシリコン材料そのものコストです。シリコンの値段は市場で決められてしまうので、企業努力で購入価格を下げることは極めて難しいと思われます。したがって、コスト削減は主としてインゴットやウェハの加工プロセスに対して行われます。

具体的には、加工プロセスの新技術・新工法を導入して、不良品をなくすとか、ウェハを薄くして材料を減らすといったことが行われています。シリコンインゴットを薄く輪切りにするときに出る削りカスは、全て回収して再び材料として投入しているということでした。ただしこの削りカスをなるべく少なくすれば回収コストも節約できます。現状、最もコスト削減余地が大きいのは、ウェハを薄くすることだそうです

また変換効率の改善にも取り組んでいます。現状、単結晶モジュールの変換効率は18-18.5%、多結晶は17-17.5%です。さらに設備の稼働率をあげることに努力しているそうです。例えば、スライサー(NTCコマツ製)によるウェハの製造能力は作業者によってかなり異なるとのことでした。15万枚/月の能力の機械であっても、優秀な作業者が使いこなすと、23万枚つくることができます。ウェハをスライスするにはノウハウが必要だということです。こうしたノウハウは、(1)優秀な人を引き抜くか、(2)会社間の情報交流から得るのだそうです。無錫では太陽電池関連企業が全体で効率化努力をしているといえそうです。製造上の新しいノウハウや技術はどこか1社が確立すると、すぐに伝播するのだそうです。知財の保護が弱いのも一因と思われます。


品質の差について
愛多科技のような中小企業に対して良く言われることは、コストばかりで品質が悪いということです。日本では、サンテックのような大手企業ならまだしも、中小企業のセルやモジュールは品質が悪くてとても使えないということを聞くことがあります。そのことを孫さんと王さんにぶつけてみました。もちろん自分の企業のことを悪くいうわけはありませんので、どこまで真に受けて良いかはわかりません。ただ、王さんは、共同研究者の朱さん(江南大学教授)の教え子ですので(孫さんはその友人)、恩師の前でひどい嘘をつくことはないと思います。

孫さんと王さんによれば、一般にはサンテックの製品の品質が良いといわれていますが、必ずしもそうとは限らないという見解でした。サンテックが顧客に選ばれるのは、第一に、先行者としてのブランド力、第二に、世界No.1であることからくる信頼感、第三に、初期参入者として様々な基準・標準を作ったのがサンテックであるという信頼感からきているという意見でした。

実際には、不良率も耐用年数もそんなにかわらないはずだといっていました。なぜなら、同じ検査機器を使って、同じデータを用いて、同じ基準で認証されているからだということです。愛多科技も、認証のためにCPVTに製品をもっていきますし、別途、欧州やアメリカの認証機関からも必要な認証を得ています。

愛多科技と同じ規模のPV企業は中国全土で200社から300社あると思われます。その半分くらいが江蘇省に存在しています。無錫市だけに限定すると10社ほどだそうです。その他、河北省、浙江省にも多くの企業があるそうです。それ以外にも、従業員10人以下といった小さなPV関連企業は無数にあるということです。

現在のような厳しい事業環境が続けば、来年には200-300社の企業の内、かなりが事業継続できなくなるという見方でした。孫さんは200社、対して、王さんは50社とかなり悲観的でした。

ただ中国市場では1元/Wでも利益がとれるので、現在の問題は経済性というよりは投資資金が集まらないことだといっていました。発電事業自体の投資リターンは10%以上あるそうです。例えば、20MWの発電所であれば年間に3,300kWhの電力を発電します(条件のよい甘粛省では)。これで稼働率20%弱です。1元/kWhの買い取り価格でも3,300万元になります。発電所の設置コストは10元/wですから、20MWですと2億元です。これで16.5%の収益率となり、そこから金利などを引いても10%は残るという計算です。

太陽光の市場はまだ拡大すると考えており、企業としては拡張したいのだけれど、今は投資家がお金を出してくれないし、銀行の金利も7−8%と非常に高いため、設備投資が難しくなっているということでした。(青島矢一)