2013年3月22日金曜日

2012年度の活動:水資源グループ(積田淳史)

今回は、magiccにおける水資源グループの2012年度の活動報告と、
来年度の指針についてご報告いたします。




問題意識の再確認

水資源グループの問題意識は、とてもシンプルです。それは、「日本企業は水資源マネジメントの領域において、高い技術力を有しており、さらに高度な上下水道運営ノウハウも有している。にもかかわらず、水ビジネスの拡大しつつある中で日本企業の存在感が小さいのはなぜか?」です。

誤解を恐れずもっとシンプルに言えば「良い技術があるのに儲かってない。なぜか?」が、私たちの問題意識です。これは、水ビジネスに限らず多くの日本企業が抱える弱点と全く同じです。水という公的な部分が関わっているだけに他産業と水ビジネスを全く同列に語ることはできないのかもしれませんが、それでも解かねばならない問題の根は共通しているように思います。

水資源グループでは、今年度の調査から得られた上記のような深い問題意識も傍らに置きながら、来年度はより詳細に水ビジネスについて調査していきたいと考えています。


2012年度の活動報告

1. 逆浸透膜(RO膜)に関する調査

青島矢一さん・藤原雅俊さん・三木朋乃さんは、2011年頃より、東レの逆浸透膜ビジネスについて調査を実施しています(ワーキングペーパーはこちら)。RO膜は、海水淡水化プラントにて用いられる、非常に重要な技術です。日本企業の東レと日東電工が世界的にも高い競争力を有しており、ビジネス的にも成功を治めています。しかしながら、高い技術的水準の割りには儲かってない、というのが実情のようです。今年度は、「なぜだろうか、今後どうなるのだろうか」という観点から、調査をしました。

2012年6月22日、沖縄県にある日本最大の海水淡水化プラントを訪問しました。同プラントは水資源が豊富ではない沖縄県に設置されているにもかかわらず、その稼働率は20%を下回る程度です。その理由は、造水に伴う電力コストが非常に高い(ダム取水時の7倍の電力コスト)からでした。海水淡水化は世界中の渇水を解消するポテンシャルを持つものの、その普及には電力コストという重いボトルネックがあることがわかりました。

電力コストの問題は、一企業の努力の範囲を超える課題です。この課題を抱えつつも海水淡水化プラントを組織するエンジニアリング企業は、どのような方法で利益を出しているのでしょうか。今後は、このあたりについても探っていきたいと考えています。

2. 水資源管理に関する調査

水ビジネスは、(1)生命に関わる、(2)規模のメリットが重要、という特徴があるため、公的な部分が大きいのが特徴です。日本では、水資源管理に関わる要素技術は企業が開発する一方、それらを統括して実際に水道を運営するのは地方自治体の水道局であるという構造になっています。この構造により、日本企業は技術力を、水道局は運営ノウハウを高度に蓄積していますが、それがビジネスとは結びついていません。この点を検証するにあたり、日本とは対照的な水資源マネジメントを実施しているシンガポールについて調査しました。

シンガポールの水資源マネジメント(ブログ目次・全5回
三木朋乃さん・積田は、渇水に苦しむシンガポールの水資源マネジメントについて、現地調査を実施しました。シンガポールは、一国の水資源を国が一括で管理しています。詳しくはブログをご覧頂きたいのですが、シンガポールの大きな特徴は、国が将来のビジネス化を見据えて事業を運営している、という点にあります。シンガポール政府は、水事業の発注を通じてHyflux社などの企業を育てると同時に、シンガポールが水ビジネスの中心点になるように様々な企業や研究者を誘致しているそうです。Hyfulx社は実際にちかごろ事業を拡大してきており、政府の政策は奏功しているように見受けられます。こうした国の支援は、例えば韓国のプラント・エンジニアリング企業にも、見られます。

国の支援を受けた海外企業と、基本的には自社の努力にかかっている日本企業では、競争は成立しないでしょう。水あるいは電気のようなインフラ事業においては、既に企業の努力だけでは国際競争力を保てない時期にさしかっているのではないかと推察されます。今後は、水資源マネジメントについてさらに理解を深めつつ、国の支援についても検討していきたいと考えています。


2013年度の指針

2013年度は、2012年度の活動をさらに精緻化させていきたいと考えています。RO膜については、海水淡水化ビジネスのステークホルダーとプレイヤーを改めて整理し、付加価値の配分について探索していきたいと考えています。水資源マネジメントについては、日本国内の造水プロセスの上流から下流までを改めて整理し、それぞれのプロセスのプレイヤーを特定していきたいと考えています。いずれも背後にあるのは、状況をきちんと理解したい、という問題意識です。

日本企業は、例えば「ケイレツ」という概念で表現されるように、綿密な組織間連携が得意であるとよく言われています。これはしばしば日本企業の長所と考えられていますが、裏を返せば、「綿密な連携が必要な事業に取り組んでいるにもかかわらず組織が別れてしまっている」ことでもあります。海外企業が巨大化していくのに対し、日本の水ビジネス関連の企業はいまだに多数の企業が特に連携しつつも独立して競争しています。この構造には、良い面と、悪い面が、あるでしょう。私たちは、RO膜という要素技術にフォーカスしながら、水資源マネジメントの全体像を俯瞰することで、水ビジネスの理解を深めていきたいと考えています。



水グループ:青島矢一・藤原雅俊・三木朋乃・積田淳史
本稿文責:積田淳史