2012年1月31日火曜日

【研究会報告】大震災の教訓とエネルギー問題の課題と解決策



CO2削減とイノベーション」研究会 
  第10回研究会報告 2011.5.23                       
「大震災の教訓とエネルギー問題の課題と解決策」 金子祥三 氏
 (東京大学生産技術研究所 特任教授)


2011年3月、東北地方を襲った大震災の影響で、東日本太平洋岸に立地する発電所のほとんどが停止する、という状態に陥った。今後、おそらく日本のエネルギー計画は大きな見直しを迫られることになるだろう。震災後はじめての開催となった今回の研究会では、本研究会の発足メンバーである金子氏に改めて講演をお願いした。火力発電プラントの設計に過去従事されてきたお立場から、発電所の被災状況を分析いただき、あわせて、原子力発電の喪失分をどうするか、今後の日本のエネルギー動向と火力発電の将来像についても語っていただいた。

★★ 講演録として、より詳しい内容を「リサーチ・ライブラリ」にて公開しています ★★
    ↓ 「リサーチ・ライブラリ」へのリンクはこちら  (研究会・講義録項からダウンロードできます)
         http://pubs.iir.hit-u.ac.jp/ja/pdfs/portal?lid[]=13

【講演要旨】  
 
東日本大震災における発電所の被災状況をみると、大半の被害は、地震よりも津波によるものと考えることができる。

特に、火力発電所の場合、もともと地震に強い構造を持つが、燃料のほとんどを海外から輸送している関係上、多くの発電所が海岸に立地しており、今回、そのことが津波による浸水、冠水の被害を大きくしてしまった。

現在のところ、水没してしまった発電所の復旧には約半年~2年の期間を要する見込みで、20113月末の時点では、火力発電所(広野・常陸那珂・鹿島)と共同火力分(相馬共同火力新地・常盤共同火力勿来・クリーンコールパワー)とで1126kW、原子力発電所分もあわせると、東京電力の総発電能力の30%強を喪失している状況にある。
 

20106月に閣議決定したエネルギー基本計画では、2030年の電源構成について原子力の比率を50%とする一方、火力の発電電力量を半減させることでCO2の発生量を半分に抑える、という見通しを立てていた。しかし、今回の震災を踏まえると、今後は原子力発電所の新設をあきらめ、既設のものだけで動かしていくという選択もやむをえなくなる。

とすれば、その原子力エネルギーの喪失分をいかに代替するか、という問題が当然起こってくる。再生エネルギーへの期待が高まっているが、残念ながら、太陽光発電、風力発電では容量的に難しく、天然ガスもセキュリティ上に難点がある。やはり、改めて重要になってくるのが火力発電で、いかに燃料を確保し、火力発電を高効率化していくかが肝要となる。

火力発電の高効率化の現状としては、蒸気タービン入口蒸気の高温・高圧化 が目指されているが、蒸気タービン単独では、すでに40%強の効率まで達しており、これ以上の高効率化には耐高温材料が鍵とならざるをない。しかし、日本には耐高温材料の具体的な開発プロジェクトがなく、材料による高効率化は残念ながら望めそうもない。


ところが、ガスタービンと蒸気タービンを複合させたダブル複合発電 であれば、無理をすることなく効率を上げていくことができる。

それだけでなく、将来的にはトリプル複合発電も視野に入れて、そこにさらに燃料電池を組み合わせていけば、究極の高効率化も可能である。


今回の震災を契機に、従来のエネルギー計画を見直す必要に迫られているが、現状では再生エネルギーにも限界や制約がある以上、火力発電の技術革新が今後の日本のエネルギー動向を支えることになるだろう。
(文責:藤井由紀子)


≪講演会資料≫ 講演会資料のうち一部を抜粋して公開しています

magicc掲載用/金子氏資料抜粋

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(藤井由紀子)


笹田ビル訪問:地中熱ヒートポンプ導入事例(藤井由紀子)


CO2削減とイノベーション」研究会   見学会レポート 2011.9   
笹田ビル見学会  (東京都千代田区一番町)

NPONPO法人地中熱利用促進協会理事長の笹田政克氏のご案内で、都心で初めて地中熱ヒートポンプを本格的に導入したオフィスビル「笹田ビル」(千代田区一番町)を見学させていただきました。見学希望者が多数であったため、メンバーを2班に分け、2回にわたって見学会を実施しました。


ビルの外観



笹田ビルは築20年のビルです。このビルでは、もともとは通常の、空気熱源のヒートポンプを使ったタイプの空調システムを付けていたそうですが、それが古くなったため、2008年11月から地中熱ヒートポンプシステムに切り替えたとのことです。




以来、月別に運転データをとっていますが、それによりますと、年間の電力量としては実に49%の省エネ、CO2の削減量としては3.8tを実現した、ということです。




○一番町にある笹田ビル


笹田ビルは5階建ての小規模オフィスビルです。1~3階までのオフィスフロアの床面積は各階約100㎥で、ここに地中熱冷暖房が導入されています。地中熱ヒートポンプシステムに切り替えてわずか2年で、年間で49%の省エネを実現したとのことです。


室内の様子も拝見させていただきましたが、室内機も通常の空調システムと同様の感じになっています。まったく違和感がありません。また、オフィス入口にはLCDパネルが設置され、リアルタイムでシステムの運転状況を確認することができます。



天井に設置された室内機
LCDパネルで地中熱利用の状況をチェック

○駐車場に埋設された地中熱交換器
ビル前の駐車場スペースをボーリングし、長さ75mの地中熱交換器(U字管ダブル)を8本、地下に埋めているそうです。


地中熱交換器というのは、水を循環させたチューブのことで、ある一定のスピードの水流をつくりだすことで地中の熱を採取しています。


駐車場は車約2台分で、決して広いとはいえませんが、これだけのスペースがあれば、この規模のビル1棟分の空調をまかなう地中熱を取り出すことができます。




ビル前の駐車場スペース


地中にパイプを入れた後は、その隙間を砂利などで埋めています。また、地下から上がってくる水、ビルから戻ってくる水、2本のパイプには温度計が取り付けられ、それぞれの水の温度が何度であるかわかるようになっています。


地中に埋められたパイプ
パイプと温度計

パイプと配管の受渡し

○屋上の様子
地下から取り出された熱は配管で屋上に運ばれます。使い終わった熱も同様に、もうひとつの配管を通って地中に戻されます。




地中熱を屋上へと運ぶ配管

屋上には、ヒートポンプが設置され、室内で必要となる温度領域のエネルギーにここで変換されています。また、屋上には電源や運転の切換えのできる装置を搭載した制御盤も設置されていますが、現在では全自動運転になっていて、制御盤を実際に使うことはほとんどないそうです。



屋上のヒートポンプ with笹田理事長
ヒートポンプと配管
制御盤(電源・運転切換用)
気象観測装置
不凍液の入ったバッファタンク



(文責:藤井由紀子)
(写真提供:青島・三木)

NPO法人地中熱利用促進協会 http://www.geohpaj.org/
地中熱利用について、さらに詳しくお知りになりたい方は、上記HPをご覧ください。

【研究会報告】地中熱利用の普及に向けた課題


CO2削減とイノベーション」研究会 
  第12回研究会報告 2011.8.27
    
「地中熱利用の普及に向けた課題」 笹田政克 氏
 (NPO法人 地中熱利用促進協会 理事長)



20116月、新たに策定された「エネルギー基本計画」において、今後、導入拡大すべき再生可能エネルギーの一つとして、地中熱が初めて取り上げられた。ただし、日本ではその認知度は低く、地中熱と聞いて、地熱発電のことだと誤解する人はまだまだ多い。そこで、今回の研究会では、地中熱利用促進協会の理事長笹田氏をお迎えし、地中熱利用の特徴とメリットについて詳しくお話を伺うとともに、なぜ日本では地中熱利用の普及が遅れているのか、現時点で地中熱利用が抱える課題についても、様々な角度から語ってもらった。

★★ 講演録として、より詳しい内容を「リサーチ・ライブラリ」にて公開しています ★★
    ↓ 「リサーチ・ライブラリ」へのリンクはこちら  (研究会・講義録項からダウンロードできます)
         http://pubs.iir.hit-u.ac.jp/ja/pdfs/portal?lid[]=13


【講演要旨】  


地中熱とは、主に太陽を熱源として、その熱が地中に一定の温度でとどまっているという状態を指す。どんな場所であっても、地下10m程度の深さになると、年間を通じてほぼ一定の温度に保たれており、そういった“常に地中では温度が一定である”という特性を利用しようとするのが、地中熱利用である。
  
地中熱利用の歴史は古く、今日すでに確立されているものだけでも、熱伝導、空気循環、水循環、ヒートパイプ、ヒートポンプシステムなどの各利用法がある。しかし、このうち熱利用という点で圧倒的に優れているのが、地中熱ヒートポンプシステムで、世界的にも最も普及しているシステムでもある。このシステムは、一般的な空冷システムと比べると省エネ性が高く、冷房の排熱を空気中に排出せず、地中に吸収させることで、ヒートアイランド効果を抑制することも期待できる。

しかしながら、日本では地中熱はほとんど普及していない、というのが現状である。羽田国際空港、東京スカイツリーなど、最新の施設には地中熱が採用されているが、どこにあっても常に安定的に供給できる自然エネルギーであるにもかかわらず、企業や一般家庭での利用はまだほとんど実現できてはいない。

その一番の原因は、初期導入のコストが高いということにあり、あわせて地質情報の整備も発展途上であるなど、克服すべき課題も多く残されている状態にある。加えて、政府によるバックアップが遅れ、一般における再生可能エネルギーとしての認知度がとても低い、ということも少なからず影響している。とはいえ、地中熱利用のポテンシャルは高く、今後、これが日本で普及していくためには、技術革新によるコスト削減を進めていくと同時に、政府による政策支援といかにマッチングさせるかが重要になってくるであろう。


(文責:藤井由紀子)


≪講演会資料≫ 講演会資料のうち一部を抜粋して公開しています
magicc掲載用/笹田氏資料抜粋
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(藤井由紀子)
 




2012年1月1日日曜日

ラベル一覧

基礎ラベル
01 新産業の創出
02 既存産業の発展
03 制度設計と政策決定
04 その他
07 研究成果
08 研究会

新産業の創出
10 太陽光
11 地熱・地中熱
12 水資源
13 水素利用
14 蓄電池
15 スマートグリッド
16 風力

既存産業の発展
20 火力発電
21 鉄鋼
22 焼却炉
23 ものづくり

その他
99 その他



整理中
その他, スマートグリッド, 制度設計と政策決定, 地熱・地中熱, 太陽光, 新産業の創出, 既存産業の発展, 水資源・燃料電池, 火力タービン