固定価格買取制度(FIT)による高い調達価格が設定されたにもかかわらず、大規模な地熱発電所の建設は進んでいません。以前から指摘されていますように、(1)初期投資リスクの大きさ、(2)国立公園法の規制、(3)温泉業者の反対という3つが相変わらず障害となっています。
国際的に見れば破格の調達価格が設定されたのにもかかわらず、投資リスクがいまだにネックになっているとすれば、日本における地熱開発のコストが例外的に高いことが理由だと思うのですが(実際に2倍から3倍の建設コスト)、それがなぜなのかに関する詳細は、別途調査中です。
大規模の地熱開発が進まない中、小型の温泉発電が注目されるようになっています。経済産業省もJOGMECを通じて、24年度予算として、温泉における発電開発に対する7件の補助を決めています。http://www.jogmec.go.jp/news/bid/content/300099900.pdf
温泉発電であれば、上記の(2)と(3)の問題はクリアできます。温泉発電では、基本的に現存の温泉井戸を活用しますので、規制上の問題はありませんし、既存の温泉に対する影響もなく、温泉業者からの反対もありません。
温泉業者は、むしろ、温泉発電を歓迎する傾向にあります。1つには温泉の冷却にかかるコストが節約されるからです。効率的に発電ができるような温泉の温度は100℃くらいあるのですが、これですと、そのままではお風呂に提供することはできません。そこで、温泉業者は源泉を冷却しなければなりません。水で薄めてしまえば、源泉掛け流しといえませんし、源泉をそのまま冷却するとなると設備・電気代がかさんでしまいます。
もう1つは観光の呼び水としての期待です。実際、地熱発電があるからといって観光客がくるかどうかは定かではありませんが、少なくとも、新聞などで紹介されること通じた宣伝効果は期待できそうです。
こうなりますと温泉発電の普及の障害は経済性だけだということになります。そこで現行のFITでは、42円/kWh(税込み)で15年間の買取が保証されています。この調達価格は今年度も継続されました。
こうした破格の調達価格に反応して、温泉発電を進める事例が増えてきました。5月6日の毎日新聞では、「「熱」視「泉」 買い取り制度追い風、小規模施設続々」といった記事で、別府における温泉発電ブームを報告しています。
別府温泉では瀬戸内エナジーが60kWの神戸製鋼製の小型バイナリー設備が既に稼働し、九州電力に売電を行っており、既に2基目を発注済みといいます。また温泉工事業者を中心に設立された西日本地熱発電は未利用の泉源を借用して発電・売電を行うビジネスモデルを展開しています。以前ブログで紹介でした大分のターボブレードの湯けむり発電(熱水と蒸気の両方で発電)も別府で実証試験を進めており、夏には実用機による発電が予定されています。
別府以外でも、北海道の摩周湖温泉では、熱利用温度差発電でFITの設備認定を受けています。また以前紹介しました長崎の小浜温泉では予定通り3基のバイナリー発電の実証機が稼働を始めています。
経産省の資料によれば、2013年2月28日時点で、FITにおける地熱発電の設備認定は、北海道1、大分2、熊本1、鹿児島1となっています。http://www.enecho.meti.go.jp/saiene/kaitori/dl/setsubi/201302setsubi.pdf
熊本の小国町の設備を除いて、全て、バイナリー発電設備です。鹿児島の指宿の事例では、イスラエルのオーマット製の比較的大きなバイナリー設備が導入される予定ですが、それ以外は、50kW程度の設備を使った、いわゆる温泉発電です。既に稼働している瀬戸内エナジーの送電端の出力は48kWとなっています。
確かに、温泉発電は、無駄に捨てている資源を活用するという点で良さそうです。環境省が行った地熱導入ポテンシャル調査によりますと、53℃から120℃の熱水による地熱発電の賦存量(理論値)は850万kWとなっています。原発8基程度に相当します。導入ポテンシャル(実際に利用可能な量)は、48円/kWh未満ですと、740 万kWあります。しかし、24円/kWh未満となりますと、導入ポテンシャルはゼロとなっています。
ただしこれらのデータは掘削などの費用も考慮した値であって、温泉発電のように、既存の井戸を活用すれば、もっと経済性はあがるといいます。環境省の調査では、24円/kWh未満でも36万kWのポテンシャルがあると試算しています。これで年間発電量は22億kWhとなります。60万世帯の電力をまかなえます。
ということで、一見よさそうな、温泉発電なのですが、それほど簡単ではないようです。静岡の熱川地域で計画されていた温泉発電は、42円/kWhの価格での買い取りでも、採算が合わないということで、計画を中止しました。次回は、実際のデータを示しながら、温泉発電を進める上での課題を明らかにしていきたいと思います。