2013年5月11日土曜日

国際価格からかけ離れた太陽光発電の調達価格について(青島矢一)






昨年から始まった再生可能エネルギーの固定価格買取制度。特に太陽光に対する42円/kWhという高い調達(買取)価格には、次のような理由から反対してきました。

1.        調達価格が国際価格からかけ離れているため、既存技術に関してはコスト削減努力が緩慢になる危険性があり、一方、既存技術の普及に当面注力することなり次世代技術の開発が遅れることから、長期的に企業の競争力を削ぐ可能性が高い。

2.        米国や欧州が中国製品の締め出しを行う中で、太っ腹な日本のFITは、輸入品の急増を招き、当面は国内企業も潤うけれど、調達価格が下がった段階で国内企業が大きなダメージを受けることになる(薄型テレビのエコポイントと同じ構図)。

3.        高い調達価格での太陽光の急速な普及による電気代の増加は、国内を拠点とする企業競争力を削ぐことになる。

その他にも、太陽光発電を導入できる一部の人や企業だけが潤い、その他の多くの人々の負担を増やすという不公平の問題など、他の理由からも反対なのですが、magiccは企業/産業競争力への影響に焦点をあてているので,特に、上記の3つの理由から問題を感じています。

しかし、買取価格の決定プロセスでは、長期的な企業・産業競争力に対する配慮がほとんどみられません。調達価格算定委員会の議事録を読む限り、「高い調達価格は国内企業に恩恵を与える」くらいの考えで進められているように思えます。

FITは普及促進の政策であり、調達価格は、「効率的に実施される場合に通常要すると認められる費用(以下、効率的な費用)」を基礎に決められています。この「効率的な費用」に相応の収益率(IRR)を乗せて、調達価格が決められるわけです。太陽光の場合、昨年度の42円/kWhの根拠となった「効率的な費用」は、10W未満は46.6万円/kW10W 以上は32.5万円/kWでした(ともに税込)。

今年度に関してはこの算定のベース価格が低下したために(10W未満が42.7万円/kW10kW以上は28万円/kW)、10kW未満は38円/kWh10kW以上は37.8円/kWhとなりました。それも高いと思うのですが、調達価格等算定委員会の議事録や資料を読む限りでは、かなり低めに設定したという意識だと思われます。

例えば、10kW未満のベースとなる42.7万円/kwは、新築向けの平均値(201210-12月)を採用しています。既築向けは46.6万円/kWですから、さらなる価格低下を見込んで、低い方をベースに使用しています。10W 以上についても、もっとも件数の多い、10W から50Wの平均価格は43.7万円/kWですが、採用したのは1,000W以上の平均値である28万円/kWを採用しています。

つまり、調達価格の算定ではできるだけ国民負担が大きくならないように配慮しているということになります。

しかしそれでもこの調達価格は国際的に見れば例外的に高いものになっています。そしてそれが、冒頭で示したような3つの理由から、産業と企業の発展にとって問題となると考えています。太陽光の先進国のドイツにおける調達価格は現在、10ユーロセント/kWhから15ユーロセント/kWhです。急速な円安ユーロ高が進んだ現在でも(1ユーロ130円)、13円/kWhから20円/kWh程度です。

どの国もベースとなる費用から一定の利潤をのせて調達価格を決めています。日本の場合太陽光には3.2%10kW未満)と6%(10kW以上)のIRRが適用されていますが、これは国際的にみて、決して高いIRRではありません。日本の低い金利と太陽光発電の資源リスクの低さが考慮されて低く設定されています。それにも関わらず高い調達価格が算定されるということは、ベースとなっている「効率的な費用」が高いということになります。

効率的な費用がなぜ高くなるのか。単純に考えれば3つの理由が考えられます。

1.        日本に特殊な要因で、不可避的に、国内での「原価」が、海外での原価に比べて高くなっている。
2.        国内の市場(設備、機器、設置)が効率的でない(競争的でない)。結果として非効率な費用をもとに調達価格が算定されている。
3.        調達価格等算定委員会に入る情報が「効率的な費用」を反映していない。

これらを明確に切り分けるのは難しいですが、まず、3の可能性から考えてみたいと思います。調達価格等算定委員会では、10kW未満については、住宅用太陽光補助金制度の交付決定のデータから、新築向けのシステムコストの平均値を採用しています。10kW以上については、固定価格買取制度の適用を受けて運転開始した設備について、法令に基づき義務的に報告された、1,000kW以上の設備の平均費用を使用しています

前述しましたとおり、既築向けより費用の低い新築向けと、システムのワット単価の低い大規模1,000kW以上の設備の平均を採用しているため、全体の平均よりは低い費用を算定基準にしているといえます。それをもって「効率的な費用」を反映しているというのかもしれません。

しかし、本来、平均値が「効率的な費用」を示しているとは思えません。太陽光パネルの設置業者はいまだローカルな業者が多いので、消費者が必ずしも多くの見積もりをとって、効率的な費用で調達できているとは思えません。

私個人の見積もり経験や、価格.comによる設置レポートを見る限り、既築の場合でも、複数から見積もりをとって価格交渉すれば、日本製のパネルを使用しても、40万円/kW程度と思われます。調達等算定委員会が提示する既築向けの平均価格46.6万円よりは低そうです。40万円/kWは、補助金を考えると(他の条件に依存しますが)10年で回収可能な価格だと思います。

実際、家庭用の10kW10年で元がとれる程度に調達価格を設定しているわけですが(20年間のIRR3.2%という設定)、市場では逆に、10年で元がとれる程度の費用を基準に価格が設定される可能性が否定できません。十分に競争的な市場であれば、そうした問題はなくなるはずですが、地域性の高い太陽光パネルの場合には、競争的な市場にはなりきれていないと思います。

一方、10kW以上に関しては、システム価格28万円/kWを基準として、37.8円/kWhという調達価格が設定されています。28万円/kWと聞きますと、十分に低い費用のように思えますが(土地造成費を含めると29.5円/kW)、それでも、37.8/kWhという高い調達価格となるのは、運転維持費として約10万円/kWほど見積もられ、さらにIRR6%となっているからです。

確かに規模の経済が働く1,000kW以上のシステム単価をベースにしていることによって、調達価格を低く抑えているようには思えますが、一方で、コンビニ、倉庫、工場の屋根など、既存の遊休設備をつかって発電をする場合には、メガソーラーで想定されるような運転維持費がかかるとは思えません。土地取得、土地造成費も、維持管理の人件費もほとんど必要ないはずです。固定価格買取制度の恩恵をもっとも受けやすいのは、店舗や工場の屋根をもっている企業です。そのあたりから一気に設置が進むはずです。それらの状況を考慮した調達価格設定が必要なはずです。その分、1,000kW以上の低い算定基準を採用しているのだ、ということなのでそうが、このあたり、実際のデータを見ながら自分で確認したいと思います。

以下のデータは私が個人的に集めた実際の施工例のデータです。ぼったくらないきちんとした業者ですので、効率的な費用といえるのではないかと思います。

1つはコンビニの屋根の設置例です。これは、5kWシステムの例なので、全量買取の対象ではありませんが、太陽光パネルやパワコンなどの機器を除いた、設置にかかるコストだけで、原価ベースで38 万円程度となっています。20%ほど利益をのせると考えて、売価では45万円といったところでしょうか。10Wの場合もあり、工事費自体は大きく変わらないとのことでしたので、この1.5倍くらいを想定すれば十分ではないかと思います(単純計算で67万円)。

コンビニの屋根(5kW)(原価)
取り付け金具・バルブタイト 97,000
積算メーター 16,000
ブレーカー・収納ボックス 8,000
パネルの搬入 48,000
電線・配管など 34,000
工事費(人件費4人分) 120,000
諸経費  50,000
合計 376,000


次の見積もり例にも出てきますが、太陽光パネルは国産でも安いものなら12-13万円/kWくらいで、5kWのパワコンであれば売価で20万円強ですから、その他の機器を含めても、5kWのシステムの総設置コストは150万円以下です(30万円/kW以下です)。10kWのシステムであればさらに安くなるはずです。10kW以上で全量買取の対象となれば、金利、ランニングコストを除いて,7年あれば回収できます。メンテナンス以外の維持費はかからないでしょうから、20年の買取期間であれば、十分に採算にのると思います。

次の事例は、もう少し規模の大きなものです。企業の倉庫の屋根を活用した215Wの太陽光発電システムです。こちらには太陽光パネルやパワコンなど全てのコストが含まれており、売価で610万円となっています。太陽電池モジュールは日本企業のもので、パネル価格は、1kW換算で12.5万円程度です。


倉庫の屋根(215kW)(売価)
太陽電池モジュール 2680万円
パワコン(+収納盤)1200万円
接続箱・集合盤・集電ケーブル・延長ケーブル 153万円
折板用掴み金物 450万円
計測表示システム 60万円
モジュール梱包運送費 140万円
仮設設置工事 130万円
モジュール設置 150万円
その他運搬交通費 30万円
高圧変電設備 520万円
電材 60万円
電工作業費 44万円
その他工事 250万円
合計 6010万円

これですとシステム単価は27万円/kWとなります。モジュールとパワコンの調達価格等算定委員会が想定した1,000kW以上のシステム単価とほぼ同じです。ただこちらは土地の取得も造成も必要ありません。追加的な人件費が発生するとも思えません。

出力低下がないとすれば、20年間で約18千万円の売電が見込めます。初期投資が6000万円ですから、メンテナンスコストを差し引いても、十分な収益が見込めます。もちろん」この例は例外的に収益性の高い事例なのかもしれません。しかし倉庫や工場の屋根への設置であれば、それほど大きな差がでるとは思えません。

このように見てきますと、調達価格を算定する際に、「効率的な費用」に関する適切なデータを元にしているのかということに疑問が湧いてきます。手続きが問題だとは思いません。調達価格等算定委員会は実績データをもとに平均値を採用しています。その際に、過剰な負担にならないような配慮はされています。しかし、補助を受けなければ成り立たない市場が効率的に運営されているとは思えません。したがってその平均値をもって効率的な費用とするのには問題があると思います。そもそも、企業の努力を触発するという点からすれば、「努力すれば利益が出る」といった水準に価格を設定すべきだと思います。FITは普及政策なので、そうした産業発展にはあまり目が向いていないということなのだと思います。

調達価格の算定ベースである「効率的な費用」が日本で高くなる理由の2つめである「非効率な費用をもとに算定されている」可能性に、既に上記の話の中で触れていますが、王少し掘り下げてみます。

上記の倉庫の例では、システムコストが27万円/kWとなっています。これは調達価格等算定委員会が依拠しているデータである37.5万円/kW50kWから500Wの平均)よりもかなり低い価格となっています。それでも、国際的な基準でみるとまだ高いように思います。例えば、昨年の11月に中国を訪問した時、太陽電池モジュールの価格は単結晶で既に5元/Wを切っていました。設置込みのシステムコストでも8000元/kWくらいでした。201358日時点での単結晶モジュールのワット単価(スポット価格)を見ますと平均で0.68ドルとなっています(http://pv.energytrend.cn/pricequotes.html)。今の円安でも日本製の半分近くの価格です。

中国製の品質に対する不安など様々な理由から(輸入品の普及が遅い理由は別に説明します)、特に家庭用太陽電池では、輸入品の割合が小さいのが現状です。太陽光発電協会のデータではセル・モジュールの輸入比率は2012 10-12月で36%程度に過ぎません(エネルギー庁の資料によれば家庭用は14%に過ぎない)。しかし高い国内パネルを利用したシステムの費用を「効率的な費用」として算定ベースにすることには疑問があります。

国内企業の保護という目的が絡んでいるのかもしれませんが、それは冒頭で述べた3つの理由から、長期的にはむしろ逆効果だと思います。

内外価格差の要因の中には、絶対的に土地が足りないため土地取得価格が高くなるとか、人件費の高さといった、現状では不可避な要因もあるとは思います。「効率的な費用」が高くなる1つめの要因です。しかしそれよりは、競争的でない市場における平均的な費用を「効率的な費用」として調達価格の算定基準としていることが問題であるように思われます。

しかも問題はもう少し複雑です。

高い調達価格に合わせて市場価格が決められ、その市場価格に合わせて調達先が決められる(高い国内業者)。それと同時に企業のコスト削減努力の水準が規定され(低めに)、そうして下げ止まる市場価格に合わせて、次の調達価格が決められるという循環が起きているのではないでしょうか。こうして国際価格からかけ離れたガラパゴス的調達価格が維持されてしまっている。

もちろんこれは続きません。そして調達価格を急に下げざるを得なくなった時に、国内企業が大きなダメージを受ける。これを何とか避けなければと思います。