前回のブログでFITによる太陽光発電の調達価格の根拠となっている実績値が「効率的な調達費用」を反映していない可能性を指摘しました。その際、自分の見積もり経験や価格コムのレポートから、日本における設置単価はkWあたり40万円くらいと推測できることを書きましたが、それに関して、価格ドットコムのデータをきちんと整理してみました。
価格ドットコムには「太陽光発電設置レポート」というコーナーがあり、実際に太陽光発電を設置したユーザーから寄せられた、システムの内容や設置時期、設置価格などの情報が記載されています。2013年5月18日時点で投稿されたレポートの総数は725件で、以下は、それらについて設置単価をまとめてグラフにしたものです。ただし、エコキュートや蓄電池を含むシステムはデータから除外してあります。また、2012年3月までは一月のレポートされた設置件数が20件に満たないので、2012年4月から2012年5月までに絞っています。結果、588データが含まれます。
一見してわかるように、補助金を加味しない設置単価は、ほぼ40万円/kWとなっています。補助金を加味しますと35万円/kWくらいです。調達価格等算定委員会では42.7万円/kWを算定根拠としていましたので(2012年10-12月は46.6万円/kW)、価格ドットコムに投稿する人の設置単価は若干低めです。価格ドットコムに投稿するということは価格に敏感な人でしょうから、平均よりは効率的に設置できているということだと思います。こちらの方が、平均値よりは「効率的な費用」に近いのではないかと思います。
FITが始まった2012年7月の設置単価で42万円/kWで、この水準はその後あまり変化していません。もう少し長期でみないとわかりませんが、エレクトロニクス製品の価格下落と比べるとかなり緩やかに見えます。
前回も指摘しましたように、これには3つの要因があると思われます。
1つには、太陽光発電システムはすでに量産効果が出にくくなっていることです。中国での調査から、太陽光発電モジュールの原価の7割程度は材料費だと考えられ、その多くがシリコン材料ですので、セルやモジュール生産段階では規模のメリットが活かされにくいと思われます。
その代わり、上流の材料生産段階では量産効果が期待できると思います。実際、ここ5-6年みられた太陽電池モジュールの国際価格の急落の多くは、川上のシリコン材料の価格下落で説明できます。2008年には475ドル/kgにまで跳ね上がった太陽電池向け多結晶シリコンのスポット価格は、2012年には20ドル/kgにまで低下しました。ソーラーグレードのシリコン製造企業が増えたことが原因です。しかし材料価格の低下も一段落し、過去のように大幅に低下することはないので、日本における太陽電池の普及が、生産コストを大きく引き下げるような規模の効果はそれほど期待できそうにありません。
価格低下が緩やかな理由は、FITの調達価格に合わせてシステムの価格が設定されている可能性です。顧客にとって設置コストは、もちろん、安ければ安いほどいいのですが、10年という買取期間が設定されているので、おそらく「10年で回収できるか」とうことが一つの目安になるのではないかと思います。今年度は38円/kWhに調達価格が下がりましたので、設置単価もその分下がるのではないかと思います。因果関係を特定するのは難しいのですが、引き続きデータを見ていきたいと思います。
3つめの要因は、参入障壁ゆえに競争が制限されていることです。海外製品のシェアは、10kW未満の家庭用では特に低く、調達価格等算定委員会の資料によれば15%程度に過ぎません。
10kW未満のシステムの場合、10年間の余剰買取になるかわりに、国の設置補助金を受けることができます。2012年は3.5万円/kW(システム単価47.5万円/kW以下の場合)でした。それ以外にも自治体の補助金もあります。これらの補助金を申請するには、J-PICに登録されている太陽電池モジュールでなければなりません。J-PICに登録されるには、国内のJET(一般社団法人電気安全環境研究所)の認証を受けることや、設置後のサポート体制があることなどが求められます。
サポートの条件も厳しいですが、JET認証を受けることも海外企業にとっては簡単ではないようです。日本語での書類作成が煩雑で、検査のために製品を日本に持ち込みことが必要ですし、現地の生産工場の査察もあります。知り合いの中国の太陽電池企業の社長は、なかなかJET認証がとれないので困っていました。中国企業の場合、書類不備が多く、認証が降りるまで時間がかかってしまうことが多いようです。欧州やアメリカの場合には、中国の認証機関が認定を受けることによって中国国内で認証を受けることが可能になっています。
それ以外にも、海外製品に対する障壁はあります。メガソーラーのような大規模発電の場合にはファイナンスが重要となりますが、日本の銀行はプロジェクトファイナンスには消極的です。太陽電池が20年きちんと発電するかどうか不確実であるためリスクをとれないようです。日本の銀行らしいです。それゆえこれまではコーポレートファイナンスが中心でした。特に、中国などの海外製の場合には、製品品質や設置後の保証に対する不安から銀行は貸出を避けるようです。
こうした理由から(他にも消費者のブランド信仰もある)、これまでは、コストの高い国内製が中心となって、それが緩やかな価格低下にとどまってきた要因の1つになっていたと思われます。