2013年5月14日火曜日

北九州スマートコミュニティ創造事業見学(清水洋)

北九州のスマートコミュニティ創造事業を見学して来ました。

北九州市は、平成22年度にスタートした政府の新成長戦略の「グリーン・イノベーションによる環境・エネルギー大国戦略」における4つの地域のスマートコミュニティの実証事業の1つとして選ばれました。ちなみに4つの地域とは、北九州市、京都府(けいはんな学研都市)、豊田市、横浜市です。

ダイナミック・プライシング


北九州でまず見せていただいたのが、地域内のエネルギーを管理するスマートグリッドの取り組みです。気象情報にしたがって、前日に翌日の電力消費量を予想し、それにしたがって電気料金を変化させるというダイナミックプライシングです。需要が供給を超えると予想されるときには、電気料金を高くして、ピークシフトします。発電所(天然ガス東田コジェネ)と、各家庭、事業所などはスマートグリッドで結ばれています。それを介して、電気を需要する各家庭や事業所に、前日に次の日の電気料金が知らされます。昼間に電気料金が高くなるとすれば、その前後に掃除機をかけたり、洗濯したりして、電気代が高い時間にはゆったりと読書をしたり、買物に出たりするわけです。


これは街全体で、エネルギーを賢く使う取り組みです。エネルギーの見える化ときめ細やかな価格づけによって、スマート化を進めています。事業所についてはピークシフトは難しい側面もあるのですが、家庭についてはかなりピークシフトが起こっているそうです。

水素タウン実証

次に見せていただいたのが、新日鉄住金の製鉄所からパイプラインで水素を引いてきた水素ステーションです。ホンダの水素カーのFCX クラリティに乗せていただきました。これは1億円する車ということで、乗っただけで大興奮。製鉄所で発生する副生物の水素のりようです。水素はパイプラインで市街地に送られ、各所に設置された純水素型燃料電池によって発電する仕組みです。



発電時にCO2は排出しませんし、送電ロスもありません。水素の利用にはハードルも少なくないですが、それを克服するための実証実験が行われています。

東田の街づくり

次は、北九州市環境局環境未来都市担当理事の松岡俊和さんに詳しくお話を聞きました。
スマートグリッドや水素ステーションの他にも、スマートヒートポンプを導入している新日鐵住金エンジニアリングの北九州寮や東田の蓄電システムなども見せていただいた僕たちですが、少し懐疑的な思いもありました。それは、「ん~。政府の実証実験のプロジェクトとして、いろいろやっているけれど、いま一歩インパクトにかけるのかな」という思いでした。

しかし、松岡さんに街づくりについて取り組み方をお聞きし、これは日本だけでなくグローバルレベルでも大きな波及効果があり得るプロジェクトだと感じました。この北九州のスマートコミュニティ創造事業だけを単体で見てはいけなかったのです。

北九州スマートコミュニティ創造事業が行われている東田という地域は、官営八幡製鐵所とともに日本の近代化を引っ張ってきた街でした。高度経済成長を支えた「鉄のまち」だったのです。高度経済成長の背後では、1960年代から煤塵による公害が大きな問題になってきました。そこで、地元の婦人会を中心となって、行政が動き、1970年に「北九州公害防止条例」が制定されました。それを皮切りに、北九州は、徹底的に、公害をなくしていったのです。そこで生まれたのが、市民と行政、そして企業が一体になった街づくりの取り組みでした。それ以来、市民と企業が対話を通じて、共通の課題を解決していく土壌が作り上げられてきたそうです。

八幡東田グリーンビレッジ構想

2001年には、環境未来都市としてのゼロエミッションを掲げて「ジャパンエキスポ北九州博覧祭」を開催しました。そして、2004年に東田地区を中心にして、「八幡東田グリーンビレッジ構想」が誕生したのです。これは、環境という視点から地域を総合的にマネジメントするというアイディアでした。

八幡東田グリーンビレッジ構想は、エネルギーのスマートな使い方から、オフィス、商業施設、住民の暮らし方を総合的にマネジメントするというものです。東田地区の街づくりの「憲法」のようなものになっているそうです。

これはマネジメントという観点からすると2つの点で面白いのではないかと思います。
第1は、市民と企業、行政の対話の中から街づくりの基本コンセプトが出てきたという点です。市民の間での対話や雰囲気ができあがってきたというのです。この土壌は歴史的な文脈が作っていったものだと言います。

第2は、「やれるところから」「周りのリソースを利用する」という点です。八幡東田地区は、大きなグランドデザインがあって、そこに向かって着々と進んでいくというアプローチではありません。環境は変わっていきますし、利用可能な資源にも限りがあります。柔軟に「やれるところから」やっていくというアプローチだそうです。また、行政や一企業ができることは限られています。そこで、できるだけ自分のところで抱えずに、外部の経営資源を活用していこうというアプローチがとられています。最近の流行りで言えば、分権型であり、オープン・イノベーションです。

北九州のスマートコミュニティ創造事業は、この八幡東田グリーンビレッジ構想の上にある事業の1つなのです。

社会資本に根ざしたソリューション創造

最近、ソリューションビジネスが着目されています。単体の製品を売るのではなく、製品を組み合わせて、ソリューションを売るというビジネスです。この北九州のスマートコミュニティ創造事業も、その先にあるのはソリューション・ビジネスなのかと思っていました。

しかし、松岡さんのお話しから、それだけではないことが分かってきました。この事業のポイントは、社会にある社会資本をどのように活用していくかにあるのです。グリーンの分野でのソリューションの開発だけではないのです。ソリューションを創るというだけでなく、ソリューションの創り方を考えているのです。もう一歩メタの視点があるのです。

いくら耳障りのよいソリューションを提供したとしても、その地域で根付くかどうか、その地域に本当に貢献するものかは分からないと言います。

本当に自分たちにあったソリューションの創り方となると、ビジネスでの展開は難しい側面もあります。完全にテーラーメイドです。ただ、インドネシアやインドなどから既に引き合いはあるそうです。これからこの取り組みが、どのように海外に展開していくのかは楽しみです。