2013年5月27日月曜日

小型地熱・温泉発電の可能性(1)(青島矢一)




固定価格買取制度(FIT)による高い調達価格が設定されたにもかかわらず、大規模な地熱発電所の建設は進んでいません。以前から指摘されていますように、(1)初期投資リスクの大きさ、(2)国立公園法の規制、(3)温泉業者の反対という3つが相変わらず障害となっています。


国際的に見れば破格の調達価格が設定されたのにもかかわらず、投資リスクがいまだにネックになっているとすれば、日本における地熱開発のコストが例外的に高いことが理由だと思うのですが(実際に2倍から3倍の建設コスト)、それがなぜなのかに関する詳細は、別途調査中です。


大規模の地熱開発が進まない中、小型の温泉発電が注目されるようになっています。経済産業省もJOGMECを通じて、24年度予算として、温泉における発電開発に対する7件の補助を決めています。http://www.jogmec.go.jp/news/bid/content/300099900.pdf


温泉発電であれば、上記の(2)と(3)の問題はクリアできます。温泉発電では、基本的に現存の温泉井戸を活用しますので、規制上の問題はありませんし、既存の温泉に対する影響もなく、温泉業者からの反対もありません。


温泉業者は、むしろ、温泉発電を歓迎する傾向にあります。1つには温泉の冷却にかかるコストが節約されるからです。効率的に発電ができるような温泉の温度は100℃くらいあるのですが、これですと、そのままではお風呂に提供することはできません。そこで、温泉業者は源泉を冷却しなければなりません。水で薄めてしまえば、源泉掛け流しといえませんし、源泉をそのまま冷却するとなると設備・電気代がかさんでしまいます。


もう1つは観光の呼び水としての期待です。実際、地熱発電があるからといって観光客がくるかどうかは定かではありませんが、少なくとも、新聞などで紹介されること通じた宣伝効果は期待できそうです。


こうなりますと温泉発電の普及の障害は経済性だけだということになります。そこで現行のFITでは、42円/kWh(税込み)で15年間の買取が保証されています。この調達価格は今年度も継続されました。


こうした破格の調達価格に反応して、温泉発電を進める事例が増えてきました。56日の毎日新聞では、「「熱」視「泉」 買い取り制度追い風、小規模施設続々」といった記事で、別府における温泉発電ブームを報告しています。


別府温泉では瀬戸内エナジーが60kWの神戸製鋼製の小型バイナリー設備が既に稼働し、九州電力に売電を行っており、既に2基目を発注済みといいます。また温泉工事業者を中心に設立された西日本地熱発電は未利用の泉源を借用して発電・売電を行うビジネスモデルを展開しています。以前ブログで紹介でした大分のターボブレードの湯けむり発電(熱水と蒸気の両方で発電)も別府で実証試験を進めており、夏には実用機による発電が予定されています。


別府以外でも、北海道の摩周湖温泉では、熱利用温度差発電でFITの設備認定を受けています。また以前紹介しました長崎の小浜温泉では予定通り3基のバイナリー発電の実証機が稼働を始めています。


経産省の資料によれば、2013228日時点で、FITにおける地熱発電の設備認定は、北海道1、大分2、熊本1、鹿児島1となっています。http://www.enecho.meti.go.jp/saiene/kaitori/dl/setsubi/201302setsubi.pdf


熊本の小国町の設備を除いて、全て、バイナリー発電設備です。鹿児島の指宿の事例では、イスラエルのオーマット製の比較的大きなバイナリー設備が導入される予定ですが、それ以外は、50kW程度の設備を使った、いわゆる温泉発電です。既に稼働している瀬戸内エナジーの送電端の出力は48kWとなっています。


確かに、温泉発電は、無駄に捨てている資源を活用するという点で良さそうです。環境省が行った地熱導入ポテンシャル調査によりますと、53℃から120℃の熱水による地熱発電の賦存量(理論値)は850kWとなっています。原発8基程度に相当します。導入ポテンシャル(実際に利用可能な量)は、48円/kWh未満ですと、740 kWあります。しかし、24円/kWh未満となりますと、導入ポテンシャルはゼロとなっています。


ただしこれらのデータは掘削などの費用も考慮した値であって、温泉発電のように、既存の井戸を活用すれば、もっと経済性はあがるといいます。環境省の調査では、24円/kWh未満でも36kWのポテンシャルがあると試算しています。これで年間発電量は22kWhとなります。60万世帯の電力をまかなえます。



ということで、一見よさそうな、温泉発電なのですが、それほど簡単ではないようです。静岡の熱川地域で計画されていた温泉発電は、42円/kWhの価格での買い取りでも、採算が合わないということで、計画を中止しました。次回は、実際のデータを示しながら、温泉発電を進める上での課題を明らかにしていきたいと思います。

2013年5月20日月曜日

太陽光発電設置単価の緩やかな下落について(青島矢一)


前回のブログでFITによる太陽光発電の調達価格の根拠となっている実績値が「効率的な調達費用」を反映していない可能性を指摘しました。その際、自分の見積もり経験や価格コムのレポートから、日本における設置単価はkWあたり40万円くらいと推測できることを書きましたが、それに関して、価格ドットコムのデータをきちんと整理してみました。


価格ドットコムには「太陽光発電設置レポート」というコーナーがあり、実際に太陽光発電を設置したユーザーから寄せられた、システムの内容や設置時期、設置価格などの情報が記載されています。2013518日時点で投稿されたレポートの総数は725件で、以下は、それらについて設置単価をまとめてグラフにしたものです。ただし、エコキュートや蓄電池を含むシステムはデータから除外してあります。また、20123月までは一月のレポートされた設置件数が20件に満たないので、20124月から20125月までに絞っています。結果、588データが含まれます。

一見してわかるように、補助金を加味しない設置単価は、ほぼ40万円/kWとなっています。補助金を加味しますと35万円/kWくらいです。調達価格等算定委員会では42.7万円/kWを算定根拠としていましたので(201210-12月は46.6万円/kW)、価格ドットコムに投稿する人の設置単価は若干低めです。価格ドットコムに投稿するということは価格に敏感な人でしょうから、平均よりは効率的に設置できているということだと思います。こちらの方が、平均値よりは「効率的な費用」に近いのではないかと思います。

FITが始まった20127月の設置単価で42万円/kWで、この水準はその後あまり変化していません。もう少し長期でみないとわかりませんが、エレクトロニクス製品の価格下落と比べるとかなり緩やかに見えます。

前回も指摘しましたように、これには3つの要因があると思われます。

1つには、太陽光発電システムはすでに量産効果が出にくくなっていることです。中国での調査から、太陽光発電モジュールの原価の7割程度は材料費だと考えられ、その多くがシリコン材料ですので、セルやモジュール生産段階では規模のメリットが活かされにくいと思われます。

その代わり、上流の材料生産段階では量産効果が期待できると思います。実際、ここ5-6年みられた太陽電池モジュールの国際価格の急落の多くは、川上のシリコン材料の価格下落で説明できます。2008年には475ドル/kgにまで跳ね上がった太陽電池向け多結晶シリコンのスポット価格は、2012年には20ドル/kgにまで低下しました。ソーラーグレードのシリコン製造企業が増えたことが原因です。しかし材料価格の低下も一段落し、過去のように大幅に低下することはないので、日本における太陽電池の普及が、生産コストを大きく引き下げるような規模の効果はそれほど期待できそうにありません。

価格低下が緩やかな理由は、FITの調達価格に合わせてシステムの価格が設定されている可能性です。顧客にとって設置コストは、もちろん、安ければ安いほどいいのですが、10年という買取期間が設定されているので、おそらく「10年で回収できるか」とうことが一つの目安になるのではないかと思います。今年度は38円/kWhに調達価格が下がりましたので、設置単価もその分下がるのではないかと思います。因果関係を特定するのは難しいのですが、引き続きデータを見ていきたいと思います。

3つめの要因は、参入障壁ゆえに競争が制限されていることです。海外製品のシェアは、10kW未満の家庭用では特に低く、調達価格等算定委員会の資料によれば15%程度に過ぎません。

10kW未満のシステムの場合、10年間の余剰買取になるかわりに、国の設置補助金を受けることができます。2012年は3.5万円/kW(システム単価47.5万円/kW以下の場合)でした。それ以外にも自治体の補助金もあります。これらの補助金を申請するには、J-PICに登録されている太陽電池モジュールでなければなりません。J-PICに登録されるには、国内のJET(一般社団法人電気安全環境研究所)の認証を受けることや、設置後のサポート体制があることなどが求められます。

サポートの条件も厳しいですが、JET認証を受けることも海外企業にとっては簡単ではないようです。日本語での書類作成が煩雑で、検査のために製品を日本に持ち込みことが必要ですし、現地の生産工場の査察もあります。知り合いの中国の太陽電池企業の社長は、なかなかJET認証がとれないので困っていました。中国企業の場合、書類不備が多く、認証が降りるまで時間がかかってしまうことが多いようです。欧州やアメリカの場合には、中国の認証機関が認定を受けることによって中国国内で認証を受けることが可能になっています。

それ以外にも、海外製品に対する障壁はあります。メガソーラーのような大規模発電の場合にはファイナンスが重要となりますが、日本の銀行はプロジェクトファイナンスには消極的です。太陽電池が20年きちんと発電するかどうか不確実であるためリスクをとれないようです。日本の銀行らしいです。それゆえこれまではコーポレートファイナンスが中心でした。特に、中国などの海外製の場合には、製品品質や設置後の保証に対する不安から銀行は貸出を避けるようです。

こうした理由から(他にも消費者のブランド信仰もある)、これまでは、コストの高い国内製が中心となって、それが緩やかな価格低下にとどまってきた要因の1つになっていたと思われます。


2013年5月14日火曜日

北九州スマートコミュニティ創造事業見学(清水洋)

北九州のスマートコミュニティ創造事業を見学して来ました。

北九州市は、平成22年度にスタートした政府の新成長戦略の「グリーン・イノベーションによる環境・エネルギー大国戦略」における4つの地域のスマートコミュニティの実証事業の1つとして選ばれました。ちなみに4つの地域とは、北九州市、京都府(けいはんな学研都市)、豊田市、横浜市です。

ダイナミック・プライシング


北九州でまず見せていただいたのが、地域内のエネルギーを管理するスマートグリッドの取り組みです。気象情報にしたがって、前日に翌日の電力消費量を予想し、それにしたがって電気料金を変化させるというダイナミックプライシングです。需要が供給を超えると予想されるときには、電気料金を高くして、ピークシフトします。発電所(天然ガス東田コジェネ)と、各家庭、事業所などはスマートグリッドで結ばれています。それを介して、電気を需要する各家庭や事業所に、前日に次の日の電気料金が知らされます。昼間に電気料金が高くなるとすれば、その前後に掃除機をかけたり、洗濯したりして、電気代が高い時間にはゆったりと読書をしたり、買物に出たりするわけです。


これは街全体で、エネルギーを賢く使う取り組みです。エネルギーの見える化ときめ細やかな価格づけによって、スマート化を進めています。事業所についてはピークシフトは難しい側面もあるのですが、家庭についてはかなりピークシフトが起こっているそうです。

水素タウン実証

次に見せていただいたのが、新日鉄住金の製鉄所からパイプラインで水素を引いてきた水素ステーションです。ホンダの水素カーのFCX クラリティに乗せていただきました。これは1億円する車ということで、乗っただけで大興奮。製鉄所で発生する副生物の水素のりようです。水素はパイプラインで市街地に送られ、各所に設置された純水素型燃料電池によって発電する仕組みです。



発電時にCO2は排出しませんし、送電ロスもありません。水素の利用にはハードルも少なくないですが、それを克服するための実証実験が行われています。

東田の街づくり

次は、北九州市環境局環境未来都市担当理事の松岡俊和さんに詳しくお話を聞きました。
スマートグリッドや水素ステーションの他にも、スマートヒートポンプを導入している新日鐵住金エンジニアリングの北九州寮や東田の蓄電システムなども見せていただいた僕たちですが、少し懐疑的な思いもありました。それは、「ん~。政府の実証実験のプロジェクトとして、いろいろやっているけれど、いま一歩インパクトにかけるのかな」という思いでした。

しかし、松岡さんに街づくりについて取り組み方をお聞きし、これは日本だけでなくグローバルレベルでも大きな波及効果があり得るプロジェクトだと感じました。この北九州のスマートコミュニティ創造事業だけを単体で見てはいけなかったのです。

北九州スマートコミュニティ創造事業が行われている東田という地域は、官営八幡製鐵所とともに日本の近代化を引っ張ってきた街でした。高度経済成長を支えた「鉄のまち」だったのです。高度経済成長の背後では、1960年代から煤塵による公害が大きな問題になってきました。そこで、地元の婦人会を中心となって、行政が動き、1970年に「北九州公害防止条例」が制定されました。それを皮切りに、北九州は、徹底的に、公害をなくしていったのです。そこで生まれたのが、市民と行政、そして企業が一体になった街づくりの取り組みでした。それ以来、市民と企業が対話を通じて、共通の課題を解決していく土壌が作り上げられてきたそうです。

八幡東田グリーンビレッジ構想

2001年には、環境未来都市としてのゼロエミッションを掲げて「ジャパンエキスポ北九州博覧祭」を開催しました。そして、2004年に東田地区を中心にして、「八幡東田グリーンビレッジ構想」が誕生したのです。これは、環境という視点から地域を総合的にマネジメントするというアイディアでした。

八幡東田グリーンビレッジ構想は、エネルギーのスマートな使い方から、オフィス、商業施設、住民の暮らし方を総合的にマネジメントするというものです。東田地区の街づくりの「憲法」のようなものになっているそうです。

これはマネジメントという観点からすると2つの点で面白いのではないかと思います。
第1は、市民と企業、行政の対話の中から街づくりの基本コンセプトが出てきたという点です。市民の間での対話や雰囲気ができあがってきたというのです。この土壌は歴史的な文脈が作っていったものだと言います。

第2は、「やれるところから」「周りのリソースを利用する」という点です。八幡東田地区は、大きなグランドデザインがあって、そこに向かって着々と進んでいくというアプローチではありません。環境は変わっていきますし、利用可能な資源にも限りがあります。柔軟に「やれるところから」やっていくというアプローチだそうです。また、行政や一企業ができることは限られています。そこで、できるだけ自分のところで抱えずに、外部の経営資源を活用していこうというアプローチがとられています。最近の流行りで言えば、分権型であり、オープン・イノベーションです。

北九州のスマートコミュニティ創造事業は、この八幡東田グリーンビレッジ構想の上にある事業の1つなのです。

社会資本に根ざしたソリューション創造

最近、ソリューションビジネスが着目されています。単体の製品を売るのではなく、製品を組み合わせて、ソリューションを売るというビジネスです。この北九州のスマートコミュニティ創造事業も、その先にあるのはソリューション・ビジネスなのかと思っていました。

しかし、松岡さんのお話しから、それだけではないことが分かってきました。この事業のポイントは、社会にある社会資本をどのように活用していくかにあるのです。グリーンの分野でのソリューションの開発だけではないのです。ソリューションを創るというだけでなく、ソリューションの創り方を考えているのです。もう一歩メタの視点があるのです。

いくら耳障りのよいソリューションを提供したとしても、その地域で根付くかどうか、その地域に本当に貢献するものかは分からないと言います。

本当に自分たちにあったソリューションの創り方となると、ビジネスでの展開は難しい側面もあります。完全にテーラーメイドです。ただ、インドネシアやインドなどから既に引き合いはあるそうです。これからこの取り組みが、どのように海外に展開していくのかは楽しみです。

2013年5月11日土曜日

国際価格からかけ離れた太陽光発電の調達価格について(青島矢一)






昨年から始まった再生可能エネルギーの固定価格買取制度。特に太陽光に対する42円/kWhという高い調達(買取)価格には、次のような理由から反対してきました。

1.        調達価格が国際価格からかけ離れているため、既存技術に関してはコスト削減努力が緩慢になる危険性があり、一方、既存技術の普及に当面注力することなり次世代技術の開発が遅れることから、長期的に企業の競争力を削ぐ可能性が高い。

2.        米国や欧州が中国製品の締め出しを行う中で、太っ腹な日本のFITは、輸入品の急増を招き、当面は国内企業も潤うけれど、調達価格が下がった段階で国内企業が大きなダメージを受けることになる(薄型テレビのエコポイントと同じ構図)。

3.        高い調達価格での太陽光の急速な普及による電気代の増加は、国内を拠点とする企業競争力を削ぐことになる。

その他にも、太陽光発電を導入できる一部の人や企業だけが潤い、その他の多くの人々の負担を増やすという不公平の問題など、他の理由からも反対なのですが、magiccは企業/産業競争力への影響に焦点をあてているので,特に、上記の3つの理由から問題を感じています。

しかし、買取価格の決定プロセスでは、長期的な企業・産業競争力に対する配慮がほとんどみられません。調達価格算定委員会の議事録を読む限り、「高い調達価格は国内企業に恩恵を与える」くらいの考えで進められているように思えます。

FITは普及促進の政策であり、調達価格は、「効率的に実施される場合に通常要すると認められる費用(以下、効率的な費用)」を基礎に決められています。この「効率的な費用」に相応の収益率(IRR)を乗せて、調達価格が決められるわけです。太陽光の場合、昨年度の42円/kWhの根拠となった「効率的な費用」は、10W未満は46.6万円/kW10W 以上は32.5万円/kWでした(ともに税込)。

今年度に関してはこの算定のベース価格が低下したために(10W未満が42.7万円/kW10kW以上は28万円/kW)、10kW未満は38円/kWh10kW以上は37.8円/kWhとなりました。それも高いと思うのですが、調達価格等算定委員会の議事録や資料を読む限りでは、かなり低めに設定したという意識だと思われます。

例えば、10kW未満のベースとなる42.7万円/kwは、新築向けの平均値(201210-12月)を採用しています。既築向けは46.6万円/kWですから、さらなる価格低下を見込んで、低い方をベースに使用しています。10W 以上についても、もっとも件数の多い、10W から50Wの平均価格は43.7万円/kWですが、採用したのは1,000W以上の平均値である28万円/kWを採用しています。

つまり、調達価格の算定ではできるだけ国民負担が大きくならないように配慮しているということになります。

しかしそれでもこの調達価格は国際的に見れば例外的に高いものになっています。そしてそれが、冒頭で示したような3つの理由から、産業と企業の発展にとって問題となると考えています。太陽光の先進国のドイツにおける調達価格は現在、10ユーロセント/kWhから15ユーロセント/kWhです。急速な円安ユーロ高が進んだ現在でも(1ユーロ130円)、13円/kWhから20円/kWh程度です。

どの国もベースとなる費用から一定の利潤をのせて調達価格を決めています。日本の場合太陽光には3.2%10kW未満)と6%(10kW以上)のIRRが適用されていますが、これは国際的にみて、決して高いIRRではありません。日本の低い金利と太陽光発電の資源リスクの低さが考慮されて低く設定されています。それにも関わらず高い調達価格が算定されるということは、ベースとなっている「効率的な費用」が高いということになります。

効率的な費用がなぜ高くなるのか。単純に考えれば3つの理由が考えられます。

1.        日本に特殊な要因で、不可避的に、国内での「原価」が、海外での原価に比べて高くなっている。
2.        国内の市場(設備、機器、設置)が効率的でない(競争的でない)。結果として非効率な費用をもとに調達価格が算定されている。
3.        調達価格等算定委員会に入る情報が「効率的な費用」を反映していない。

これらを明確に切り分けるのは難しいですが、まず、3の可能性から考えてみたいと思います。調達価格等算定委員会では、10kW未満については、住宅用太陽光補助金制度の交付決定のデータから、新築向けのシステムコストの平均値を採用しています。10kW以上については、固定価格買取制度の適用を受けて運転開始した設備について、法令に基づき義務的に報告された、1,000kW以上の設備の平均費用を使用しています

前述しましたとおり、既築向けより費用の低い新築向けと、システムのワット単価の低い大規模1,000kW以上の設備の平均を採用しているため、全体の平均よりは低い費用を算定基準にしているといえます。それをもって「効率的な費用」を反映しているというのかもしれません。

しかし、本来、平均値が「効率的な費用」を示しているとは思えません。太陽光パネルの設置業者はいまだローカルな業者が多いので、消費者が必ずしも多くの見積もりをとって、効率的な費用で調達できているとは思えません。

私個人の見積もり経験や、価格.comによる設置レポートを見る限り、既築の場合でも、複数から見積もりをとって価格交渉すれば、日本製のパネルを使用しても、40万円/kW程度と思われます。調達等算定委員会が提示する既築向けの平均価格46.6万円よりは低そうです。40万円/kWは、補助金を考えると(他の条件に依存しますが)10年で回収可能な価格だと思います。

実際、家庭用の10kW10年で元がとれる程度に調達価格を設定しているわけですが(20年間のIRR3.2%という設定)、市場では逆に、10年で元がとれる程度の費用を基準に価格が設定される可能性が否定できません。十分に競争的な市場であれば、そうした問題はなくなるはずですが、地域性の高い太陽光パネルの場合には、競争的な市場にはなりきれていないと思います。

一方、10kW以上に関しては、システム価格28万円/kWを基準として、37.8円/kWhという調達価格が設定されています。28万円/kWと聞きますと、十分に低い費用のように思えますが(土地造成費を含めると29.5円/kW)、それでも、37.8/kWhという高い調達価格となるのは、運転維持費として約10万円/kWほど見積もられ、さらにIRR6%となっているからです。

確かに規模の経済が働く1,000kW以上のシステム単価をベースにしていることによって、調達価格を低く抑えているようには思えますが、一方で、コンビニ、倉庫、工場の屋根など、既存の遊休設備をつかって発電をする場合には、メガソーラーで想定されるような運転維持費がかかるとは思えません。土地取得、土地造成費も、維持管理の人件費もほとんど必要ないはずです。固定価格買取制度の恩恵をもっとも受けやすいのは、店舗や工場の屋根をもっている企業です。そのあたりから一気に設置が進むはずです。それらの状況を考慮した調達価格設定が必要なはずです。その分、1,000kW以上の低い算定基準を採用しているのだ、ということなのでそうが、このあたり、実際のデータを見ながら自分で確認したいと思います。

以下のデータは私が個人的に集めた実際の施工例のデータです。ぼったくらないきちんとした業者ですので、効率的な費用といえるのではないかと思います。

1つはコンビニの屋根の設置例です。これは、5kWシステムの例なので、全量買取の対象ではありませんが、太陽光パネルやパワコンなどの機器を除いた、設置にかかるコストだけで、原価ベースで38 万円程度となっています。20%ほど利益をのせると考えて、売価では45万円といったところでしょうか。10Wの場合もあり、工事費自体は大きく変わらないとのことでしたので、この1.5倍くらいを想定すれば十分ではないかと思います(単純計算で67万円)。

コンビニの屋根(5kW)(原価)
取り付け金具・バルブタイト 97,000
積算メーター 16,000
ブレーカー・収納ボックス 8,000
パネルの搬入 48,000
電線・配管など 34,000
工事費(人件費4人分) 120,000
諸経費  50,000
合計 376,000


次の見積もり例にも出てきますが、太陽光パネルは国産でも安いものなら12-13万円/kWくらいで、5kWのパワコンであれば売価で20万円強ですから、その他の機器を含めても、5kWのシステムの総設置コストは150万円以下です(30万円/kW以下です)。10kWのシステムであればさらに安くなるはずです。10kW以上で全量買取の対象となれば、金利、ランニングコストを除いて,7年あれば回収できます。メンテナンス以外の維持費はかからないでしょうから、20年の買取期間であれば、十分に採算にのると思います。

次の事例は、もう少し規模の大きなものです。企業の倉庫の屋根を活用した215Wの太陽光発電システムです。こちらには太陽光パネルやパワコンなど全てのコストが含まれており、売価で610万円となっています。太陽電池モジュールは日本企業のもので、パネル価格は、1kW換算で12.5万円程度です。


倉庫の屋根(215kW)(売価)
太陽電池モジュール 2680万円
パワコン(+収納盤)1200万円
接続箱・集合盤・集電ケーブル・延長ケーブル 153万円
折板用掴み金物 450万円
計測表示システム 60万円
モジュール梱包運送費 140万円
仮設設置工事 130万円
モジュール設置 150万円
その他運搬交通費 30万円
高圧変電設備 520万円
電材 60万円
電工作業費 44万円
その他工事 250万円
合計 6010万円

これですとシステム単価は27万円/kWとなります。モジュールとパワコンの調達価格等算定委員会が想定した1,000kW以上のシステム単価とほぼ同じです。ただこちらは土地の取得も造成も必要ありません。追加的な人件費が発生するとも思えません。

出力低下がないとすれば、20年間で約18千万円の売電が見込めます。初期投資が6000万円ですから、メンテナンスコストを差し引いても、十分な収益が見込めます。もちろん」この例は例外的に収益性の高い事例なのかもしれません。しかし倉庫や工場の屋根への設置であれば、それほど大きな差がでるとは思えません。

このように見てきますと、調達価格を算定する際に、「効率的な費用」に関する適切なデータを元にしているのかということに疑問が湧いてきます。手続きが問題だとは思いません。調達価格等算定委員会は実績データをもとに平均値を採用しています。その際に、過剰な負担にならないような配慮はされています。しかし、補助を受けなければ成り立たない市場が効率的に運営されているとは思えません。したがってその平均値をもって効率的な費用とするのには問題があると思います。そもそも、企業の努力を触発するという点からすれば、「努力すれば利益が出る」といった水準に価格を設定すべきだと思います。FITは普及政策なので、そうした産業発展にはあまり目が向いていないということなのだと思います。

調達価格の算定ベースである「効率的な費用」が日本で高くなる理由の2つめである「非効率な費用をもとに算定されている」可能性に、既に上記の話の中で触れていますが、王少し掘り下げてみます。

上記の倉庫の例では、システムコストが27万円/kWとなっています。これは調達価格等算定委員会が依拠しているデータである37.5万円/kW50kWから500Wの平均)よりもかなり低い価格となっています。それでも、国際的な基準でみるとまだ高いように思います。例えば、昨年の11月に中国を訪問した時、太陽電池モジュールの価格は単結晶で既に5元/Wを切っていました。設置込みのシステムコストでも8000元/kWくらいでした。201358日時点での単結晶モジュールのワット単価(スポット価格)を見ますと平均で0.68ドルとなっています(http://pv.energytrend.cn/pricequotes.html)。今の円安でも日本製の半分近くの価格です。

中国製の品質に対する不安など様々な理由から(輸入品の普及が遅い理由は別に説明します)、特に家庭用太陽電池では、輸入品の割合が小さいのが現状です。太陽光発電協会のデータではセル・モジュールの輸入比率は2012 10-12月で36%程度に過ぎません(エネルギー庁の資料によれば家庭用は14%に過ぎない)。しかし高い国内パネルを利用したシステムの費用を「効率的な費用」として算定ベースにすることには疑問があります。

国内企業の保護という目的が絡んでいるのかもしれませんが、それは冒頭で述べた3つの理由から、長期的にはむしろ逆効果だと思います。

内外価格差の要因の中には、絶対的に土地が足りないため土地取得価格が高くなるとか、人件費の高さといった、現状では不可避な要因もあるとは思います。「効率的な費用」が高くなる1つめの要因です。しかしそれよりは、競争的でない市場における平均的な費用を「効率的な費用」として調達価格の算定基準としていることが問題であるように思われます。

しかも問題はもう少し複雑です。

高い調達価格に合わせて市場価格が決められ、その市場価格に合わせて調達先が決められる(高い国内業者)。それと同時に企業のコスト削減努力の水準が規定され(低めに)、そうして下げ止まる市場価格に合わせて、次の調達価格が決められるという循環が起きているのではないでしょうか。こうして国際価格からかけ離れたガラパゴス的調達価格が維持されてしまっている。

もちろんこれは続きません。そして調達価格を急に下げざるを得なくなった時に、国内企業が大きなダメージを受ける。これを何とか避けなければと思います。