2013年12月28日土曜日

【研究会報告】東海大学のソーラーカーの技術と性能

CO2削減とイノベーション」研究会
  第19回研究会報告  2013.5.23


東海大学のソーラーカーの技術と性能」

 木村英樹 氏




東海大学工学部電気電子工学科教授
 東海大学チャレンジセンター次長)



今春、トミカシリーズに、世界ソーラーレース5連覇中の「Tokai Challenger」が登場した。3次元カーブを描くボディが“世界一クール”と賞賛される、東海大学のソーラーカーである。しかし、車体の美しさもさることながら、太陽電池をはじめ、搭載技術のほとんどは日本製であり、震災によってわが国のエネルギー問題が喫緊の課題となるなか、東海大学が世界のトップを走りつづけるその意義は大きい。そこで、今回の研究会では、東海大学ソーラーカープロジェクトの中心人物であり、チーム監督として学生を牽引する木村英樹氏にお越しいただき、「Tokai Challenger」の技術的特徴からレース戦略に至るまで、その活動の一部始終を披露していただいた。



★★ 2013年最新大会の様子を、2014年1月19日(日)14時よりテレビ朝日系で放映★★
    ↓ 詳しくは、下記をご参照ください (新しいレギュレーションのもとでのレース展開を密着取材しています)


★★ 講演録として、より詳しい内容を「リサーチ・ライブラリ」にて公開しています ★★
   ↓ 「リサーチ・ライブラリ」へのリンクはこちら  (研究会・講義録項からダウンロードください)
        

【講演要旨】

燃料資源に恵まれない日本において、エネルギー源を必要とせず、太陽光だけで走るソーラーカーは、真のエコカーとしての価値を持つ。プロジェクト活動を通して学生の育成を目指す東海大学チャレンジセンターでは、エネルギー・技術・環境の3分野の“未来”を見据えた「ライトパワープロジェクト」を立ち上げており、ソーラーカーチームはこの中で活動している。


東海大学のソーラーカーの歴史は1991年にまで遡る。2008年の優勝以降、世界大会5連覇を果たしているが、その強さの理由は総合力にあり、様々に工夫を凝らして、最高レベルの技術を巧みに組み合わせている。大会のレギュレーション変更に伴って、搭載技術も変更を強いられてきたが、2011年型「Tokai Challenger」には、パナソニックの太陽電池「HIT」(高効率シリコン太陽電池)、東レの炭素繊維「トレカ」(車体軽量化)、ミツバの「ダイレクトドライブモータ」(伝達効率アップ)などを使用し、シリコン太陽電池の搭載車として歴代最高となる平均時速91.54kmを記録した。




特に、最も要となる太陽電池については、アモルファスシリコンの特性を利用した高温時でも出力低下しないHIT太陽電池を選択したこと、電極で反射させた光をモジュール界面で再反射させて発電できない表面電極部の弱点を克服したこと、フラットな表面構造に反射防止処理を施して砂塵付着による光の遮断を回避したこと、コンパクトなモジュールにより発電を小単位にまとめて角度差による発電量低下を防いだことなど、独自の工夫を積み上げている。そして、砂漠地帯を長距離走行する実際のレースでは、ミシガン大学、デルフト工科大学、スタンフォード大学といった強豪チームに抜きんでて、こうした工夫が優位性を発揮したといえる。







また、レース中の発電と消費の予測は非常に難しいが、衛星画像を駆使して効率的なエネルギーマネジメントを心掛けている。すなわち、東海大学宇宙情報センター、情報処理センターの協力を得て、現地の雲の様子を高精細で入手しているほか、千葉大学環境リモートセンシング研究センターと共同開発された「T-SEEDS」を応用して日射量を解析し、終始戦略を立てつつ、レースを有利に進めている。
                                   



                                             
                                           (文責:藤井由紀子)

    





2013年12月26日木曜日

【開催予告】 magiccシンポジウム2014 「環境・エネルギー・経済発展の両立に向けて」 2月7日・8日開催


magicc国際シンポジウム

Micro-analysis on Green Innovation and Corporate Competitiveness

―環境・エネルギー・経済発展の両立に向けて―



昨年度開催の国際シンポジウムの様子


2014年2月7日-8日(金・土)、magiccでは2日間にわたって、神田の一橋大学記念講堂にてシンポジウムを開催いたします。

各テーマごとにセクションを設けて、さまざまな問題を提起し、考えていく予定です。

2013年10月7日月曜日

【研究会報告】スマートグリッドの近況―デマンドサイドマネジメントを中心としたイノベーション

CO2削減とイノベーション」研究会
  第21回研究会報告  2013.7.18


「スマートグリッドの近況―デマンドサイドマネジメントを中心としたイノベーション」

 
池田一昭 氏

日本アイ・ビー・エム㈱ スマーター・シティー事業部 新規事業開発 部長)


東日本大震災以後、それまでの安定供給から一転、日本は深刻な電力不足に陥ったが、それが節電と値上げという形となって社会を圧迫したことで、エネルギー需給に対する人々の意識は大きく変化した。エネルギー問題に需要側がどう協力していくのか、議論は日を追って具体的になっている。そこで、今回の研究会ではIBMの池田氏にご登壇いただき、デマンドサイドマネジメントの有効性について改めて提示していただいた。社会的な認識、現状での取組みと問題点、さらにはその方策と将来の展望など、IBMが手掛けている事例も交えて、活発な議論を喚起していただいた。



★★ 講演録として、より詳しい内容を「リサーチ・ライブラリ」にて公開しています ★★      
    ↓ 「リサーチ・ライブラリ」へのリンクはこちら  (研究会・講義録項からダウンロードください
         http://pubs.iir.hit-u.ac.jp/ja/pdfs/portal?lid[]=13



【講演要旨】


東日本大震災以後、日本のエネルギーはずっと安定供給体制にあったが、3.11以降、逼迫状況に陥ったことで、需要側が協力してエネルギー問題に取り組むデマンドサイドマネジメントへの関心が急速に高まった。



IBMが先進国を対象に行っている消費者動向
調査の結果を見ても、エネルギー会社だけでなく、住民や企業といった消費者による参加型ネットワーク構築の重要性が認識されており、今後はエネルギーの供給者と消費者との間をとりもつサービスプロバイダが重要な役割を担うだろうこと、さらにエネルギー以外の業界からもサービスプロバイダが発生するだろうことが予測できる。



現在、デマンドサイドマネジメントにおいて最も注目を浴びつつあるのが、BEMS/HEM(Home Energy Management System/Building Energy Management Systems)である。エネルギー消費の見える化を進めつつ、誰がどこでどんなふうにエネルギーを使っているかなど、データを集めて分析し、様々な機器やサービスと連携させて、エネルギーの需給バランスをコントロールすることができるからである。しかし、今後、これが社会的なインフラシステムとして有効に働くためには、導入数を増やす必要があり、それに向けて政府も導入補助の施策をとっている。


その一方で、現状のBEMS/HEMSは、1企業が全てのソリューションを作り上げる、いわゆる垂直統合型(囲込み方式)で進められているケースが多く、余分な事を自社が抱えることによるビジネスリスクが大きいほか、ビジネスのスピードも落ちて市場が広がらない、という問題点がある。また、各社の作った何十種類ものBEMS/HEMSが存在しているために、個別に導入しても管理体系が確立できない、という欠点もある。


これに対して、IBMでは、横のつながりによる事業パフォーマンスを重視した協調モデルを新たに提案している。オープンなシステム上でデータを統一的に収集蓄積し、役割分担の議論を深めながら共通機能を提供することで、幅広い業者が参画・連携でき、かつ、その後のビジネスの成長にも対応できるような枠組みづくりを進めている。また、このモデルであれば、BEMS/HEMSの導入メリットは、エネルギーの最適利用だけにとどまらず、顧客との接点を強化して様々にサービスの価値を高めることが可能となるため、将来的には世界を視野に入れた市場拡大も期待できるだろう。 





                                   (文責:藤井由紀子)

2013年7月17日水曜日

小型地熱・温泉発電の可能性(7):中央電力による地元主導型モデル(青島矢一)



前回は、九重観光ホテルの事例から、温泉井戸を活用した1MW程度のフラッシュ発電が、経済的に実現可能でありそうだということを記載しました。今回は、この規模の地熱発電の事業化を進めている中央電力のユニークな試みを紹介します。


現在、中央電力は熊本県小国町のわいた温泉で、新たな地熱発電所の建設を進めています。地熱井の掘削には1回で成功し、既に毎時13tの蒸気が噴気しています。この蒸気で、ほぼ1MWの出力の発電が可能です。口径は4インチで深さは450mですので、通常の温泉井戸とほとんど変わりありません。将来的にはもう1本井戸を掘って出力を2MWに拡大する計画ですが、現在は1MWということでFITの設備認定を受けています。


九重観光と同じ小型シングルフラッシュの発電システムです。もとは、今回のプロジェクトに設計・施工コンサルタントとして参加している株式会社ジオ・サービスが、RPS法(Renewable Portfolio Standard、電気事業者に一定量の新エネルギーの利用を義務づける法律)に対応することを目的として考案したものです。


RPS法の対象設備となるには「熱水を著しく減水させない」ことが条件となっていますので(基本的にはバイナリー発電が想定されています)、フラッシュ方式なのですが、タービンを回した後の熱水も還元井を通じて地下に戻すようなシステムとなっています。


タービンは2000Wの東芝製です。発電設備はコンテナに入れたまま現地に持ってきて設置するという方法を考えているとのことでした。発電事業では稼働率が鍵なので、故障したときにすぐに代替えがきくような構成を考えているということです。大きさ200平米以下、高さ13メートル以下であれば、工作物と見なされて、国立公園内でも設置可能であることから、コンテナもその大きさに抑えられる計画となっています。


中央電力による地熱開発の特徴は、その事業スキームにあります。以下の図が事業スキームを示しています。



まず事業主体は地元の人々であり、中央電力ではありません。中央電力は、地熱フィールドの開発から発電所の建設、管理運営まで、資金調達から認可取得の支援なども含めて、全てを担当しています。発電設備の所有権も中央電力にあります。しかし事業主体は飽くまでも地元の人々です。中央電力は地元から業務委託を受けているという形となっています。


発電された電気は全て売電されます。FITの対象ですので売電価格は42 円/kWhです。売電収入から業務委託料を差し引いた額が地元に還元されます(もともと地元の人たちの事業なので、還元という表現は正しくないかもしれませんが)。2MWの発電所ができて85%の稼働率が維持できれば、現在の買取価格の下なら、地元には毎年1億円くらい還元できるという試算のようです。


試算の細かい根拠はわかりませんが、総投資額は15億円以下とのことでした。1本目の井戸の掘削費用は通常の温泉井戸の掘削費用と変わらず4000万円くらいですので、相対的には設備費用が大きいということになります。


一見、地元は何もせずにお金だけ入ってくるようにも思えるのですが、中央電力の本業と同じスキームだという考えです。中央電力の本業はマンションなどの一括受電サービスです。マンションなどの集合住宅では、通常、居住者が個々に電力会社と低圧の従量電灯契約を結んでいます。それに対して、個々の契約を全て解除して、マンション全体でまとめて電力会社と高圧契約を結ぶと電気代はずっと安くなります。これを一括受電サービスといいます。この一括受電サービスを行う上で、基本的にマンションの居住者は何もする必要がありません。既存の契約の解除から新たな高圧契約の締結までの作業は基本的に全て中央電力が行うようになっています。しかし、飽くまでも主体はマンション組合です。中央電力は業務委託を受けてそれを支援するという形になります。


この本業の事業スキームがそのまま地熱開発事業に適用されています。中村社長が地熱発電事業のアイデアを持ち込んだとき、副社長の平野氏は、単なる発電事業であったら反対していたといいます。しかし、それが発電事業ではなく、地域を支援するサービス事業であったため了承したといいます。


中央電力の事業スキームが成功するかどうかはまだこれからなのですが、地熱開発を進める上で重要な示唆を与えてくれます。


大規模地熱発電所の建設に反対する人たちにもこれまで話を聞いてきましたが、いつも「反対するのは当然のことだ」と思っていました。もちろん温泉への影響を心配する声が大きいわけですが、最大の問題は、地元に何の恩恵もないということです。


自分の温泉場の近くに地熱発電所ができたとしても、温泉客が増えるわけではありません。建設しているときには作業員の人たちが泊まってくれるかもしれませんが、それも建設が終われば、終わりです。地熱発電所はほぼ無人で運転できますので、雇用創出効果も極めて限られています。その一方で、温泉場が枯れるかもしれないという心配だけが残ります。これでは賛成しようがありません。開発事業者の方もそれがわかっているので、無理に開発を進めることが難しいのが現状だと思います。


地熱発電を進めるには、地元との共生が鍵となります。そのためには金銭的なものに限らず、地元に何らかに恩恵が必要です。アイスランドでは、地熱は、地域暖房、温水供給、道路の融雪、温水プールなどに多重に利用され、地元に人々にとってはなくてはならないものです。だから開発が進みます。もちろん、環境への影響は常にモニタリングしています。


わいた温泉での中央電力の試みは、地元との共生を実現する地熱開発の1つのモデルとして大変注目に値します。以下、ポイントを整理しますと、


(1)   地元主体の事業であるから基本的に地元が反対ということにはなりにくい。
(2)   効率よい発電が行われれば、中央電力も潤うし、地元も潤う。お互いに協力、努力するインセンティブがある。
(3)   規模が小さいので地熱井が温泉井戸と変わらず、掘削に対しても反対がでにくい。


もちろんまったく反対がないわけではありません。この地域には、かつて電源開発が進めようとした地熱開発に反対が起こり、それが全国的な反対運動に発展したという経験があります。現在も反対している人はいます。それでも、中央電力の事業スキームは地元が受け入れやすいものではないかと思います。


逆にこの事業スキームでは、中央電力がリスクを抱えすぎのようにも思えます。しかし、そこには長期的な事業計画があるようです。中央電力は本業において一括受電で13kWくらいの電力を顧客に供給しています。将来的には、自社が開発した地熱発電所で発電した電力をこれらの顧客につなぐことができれば、FITによる買取が終了した後でも、事業として成り立たせることが可能となります。それゆえ、わいた温泉にとどまらず、他の地域でも2MWクラスの小規模発電所を展開する予定だといいます。


今回の記事は、中央電力側からの話をもとに書いていますので、できれば地元でも話を聞いてきて、こうした事業スキームの可能性をもっと正確、詳細に把握したいと思います。








2013年7月10日水曜日

小型地熱・温泉発電の可能性:(6)九重観光ホテル地熱発電所(後半)(青島矢一)


九重観光ホテル地熱発電所

前回の記事を受けて、今回は、6月にあらためて九重観光ホテルを訪問して小池社長にお聞きした内容をもとに記事を書きます。

昨年訪問した時点では、蒸気タービンが故障しており、発電所は動いていませんでした。既にタービンの交換を予定していましたが、FITの価格も適用対象もはっきりしていなかったので、投資や融資の詳細が決まっていませんでした。

FITでは既存設備による発電は買取の対象にならない可能性もあるということで、とりあえず、2012年の5月に、RPSの認定だけは取得しておいたとのことです。RPSの対象となり1kWhあたり10円以上で買い取ってもらえれば採算ベースにのる、という考えだったそうです。

九重観光ホテルでは、投資を抑えるために、タービン部分だけをリプレイスする予定でしたので、これがどのように買取の対象になるかが、重要な問題となりました。結局、タービン部分だけの新設では、新規の買取対象にはならないことがわかりました。出力を増加させれば、その増量分は新規の買取対象になるのですが、九重観光では、既存の泉源を活用しており、出力増大は当面考えていませんでした。

したがって既存枠での申請となりました。これですと、最初の運転開始から15年間が買取の対象となります。これを厳密に適用しますと、九重観光の場合は1997年に設備が稼働していますので、既に買取期間が残っていないことになってしまいます。しかし、前回書きましたように、電力会社との売電交渉がうまくいかず、20034月までは全く売電することができませんでした。そこで今回は経産省と話合い、この20034月を起点として、5年間がFITの買取対象期間となるということで認められ、201210月に設備認定を受けることができました

売電価格は42円/kWhです。5年間しか売電できませんが、これまでに比べれば、破格の買取価格ですので、採算ベースにのるという判断です。

前回書きましたように、旧来の設備の投資額は2億円(実際には5億円だったが、2億円で買い取ることになった)で、その借り入れが今年の8月まで残っています。この間、人件費だけでも1億円以上はかかっています。2003年から売電はできたものの、RPSの対象にもなっておらず火力発電相当ということでしたので、3.54円/kWhで売電していました。これでは採算が合わないということで、その後、PPSのサミットエナジーに売り先を変更して、売電単価が上がったおかげで、なんとかブレークイーブンになったといいます。今回は5年間のみの買取ですが、これまでの苦労をある程度は取り戻せそうです。

投資は基本的にタービンのリプレイスだけです。990kWの三菱重工製の小型タービンです。これが26000万円。付帯設備を含めると32000万円の投資です。別府の杉乃井ホテルは富士重工製のタービンで5億円くらいといわれていましたから、こちらの方がずっと安いです。実際に、富士重工ではなく三菱重工製を選んだのは価格によります。富士重工はむしろバイナリー設備に力をいれているようで、バイナリー発電の提案があったそうです。ただ、九重観光の蒸気井の場合には、シングルフラッシュの方が出力が稼げること、バイナリーの場合には投資額が大きくなるので設備企業との共同事業となることなどから、タービン部分だけを安価な三菱製でリプレイスすることに決めたとのことです。



蒸気タービン
三菱重工製990kW




990kWの出力の内、300kWくらいは発電所の稼働そのものに使われてしまいます。発電所には真空ポンプや温水ポンプなど多数のポンプを動かすために多くの電力が必要になります。残りの700kW位の出力の内、ホテルで自家用に使われるのは150Wなので、550kWの出力分が、売電に回ることになります。90 %の稼働率を達成できれば、年間に(550kW*8760時間*0.9)=4,336,200kWhの電力量を発電しますので、42円/kWhの買取価格であれば、18212千万円となります。70%の稼働率でも14165千円の収入となります。

初期投資は32000万円ですが、これにランニングコストがかかります。発電所にはボイラータービン主任技術者を含めて3人の従業員が交代制で常駐していますので、この人件費が、年間800万円くらい。電気主任技術者は外部に委託しており、これが月額9万円ですので、年間で100万円強。合わせて900万円/年ほどとなります。

これまでは、3年に1回開放点検をしていましたので、その費用が1回に1000万円。また、中和剤として投入する苛性ソーダが月額10万円。その他の修理費がおおよそ年間300万円とのことなので、合わせますと、年間600-700万円となります。

したがって、ランニングコストは合計で15001600万円/年となります(他にも細かい費用はかかるでしょうが)。

5年間の売電がスムーズにいけば、初期投資32000万円、ランニングコスト75008000万円(5年間)、それに借り入れ金利を支払っても、投資は回収できると思われます。タービン部分だけ入れ替えているので、多少稼働に不安が残るなどの不確実性はあるものの、十分に魅力的な投資案件にみえます(さらに、ホテルでの自家消費分も発電収入に上乗せできるはずですが、実際には、電力会社とバックアップ契約をしており、発電設備が止まったときの買電価格が極端に高いので、節約効果はほとんどないとのことでした)。

それで銀行もやっと融資に応じてくれました。最終的には政策金融公庫と地元の銀行が半分ずつ融資することになりました。前者の金利は、利益連動型で、利益が全くでなければ0.4%です。利益があがるにしたがって、金利も上がります。地元の銀行の金利は4.27%で5年間の融資です。

FITに認定されるまではなかなか銀行からの融資が下りませんでした。それで最初は民間のファンドにお願いしていたそうです。よく聞くように、銀行はかなり保守的です。今回の案件は5年以内に十分回収できるということなのでよいのでしょうが、通常、地熱エネルギーに開発となると回収には1015年くらいは見込まれますから、銀行のリスク選好からすると、とても融資は期待できないように思います。

以上、九重観光の地熱発電所は高い経済性を実現できているようですが、それにはいくつか特殊な条件がかかわっています。

まず今回はタービンを入れ替えただけであること。既存の泉源はそのまま活用しています。

温泉井戸(地熱井)

そもそも、泉源のコストが安いです。九重観光では、深さ350mの井戸と深さ405mの井戸の2本の井戸を使っています。これらの井戸から出る蒸気は、温泉と発電の両方に使われます。通常の温泉井戸なので掘削費も安いですし(13000万円くらい)、その掘った井戸を温泉だけでなく、発電にも多重利用しているわけです。これは、霧島国際ホテルのケースと同じです。

泉源の減衰はみられるものの、15年間は同じ井戸を使っています。それだけ良い蒸気井なのだと思います。また蒸気卓越なのでスケールも問題もあまりないようです。


冷却塔
汽水分離機


それ以外にもコストを下げる工夫が見られます。1つは出力を1000W 以下におさえることによって、電気事業法上の規制への対応を軽くしています。また、出力が3000W を超えると特別高圧線に接続しなければなりませんので多大な費用がかかります。それ以下なら普通の高圧の送電線で済みます。

さらに九重観光ホテルは国立公園の第2種に立地しているので、規模が大きくなると環境規制対象となります。そもそも最初から990W に抑えているのは、自家用発電として許可を得るためです。自家発電であれば環境規制への対応が軽くなります。

九重観光ホテルの例からは、地熱発電を経済的に実現するための条件が見えてきます。

(1)   フィールドの開発にお金をかけないこと(既存の温泉の掘削と同じレベルであれば安くできる)。
(2)   泉源を多重利用すること(温泉と発電)。
(3)   規制への対応コストを下げること(規制にかからない規模にとどめる)。

このように1MWくらいのフラッシュ発電を温泉と同じような泉源を利用して開発すれば、経済性が成り立つ可能性が出てきます。もちろん現在の42円/kWhという破格の買取価格があるから高い経済性を確保できるわけですが、買取期間が終わった後でも、十分に経済的に成り立つ設備として維持できるはずです。

例えば、上記の九重観光の例では、買取価格が1314円/kwhになったとしても、年間6000万円くらいの収入に対して、ランニングコストは15001600万円ですから、初期投資回収後であれば、十分に成り立ちます。15年後に設備を入れ替える投資を考えるとぎりぎりのラインでしょうか。

こう考えますと、条件の良い場所があれば、1MWくらいの小規模地熱発電所をたくさんつくるというのは1つの有効な手段に思えます。温泉井戸を掘るのと大差ないということであれば地元の理解を得やすいでしょう。

次回は、こうした考えをもって地熱開発を行っている中央電力の例を紹介したいと思います。(青島矢一)

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