2012年8月2日木曜日

【研究会報告】スマートグリッドが切り拓く 新生スマートニッポン

CO2削減とイノベーション」研究会 
  第11回研究会報告  
2011・6.24

 「スマートグリッドが切り拓く新生スマートニッポン」  村上憲郎 氏

(村上憲郎事務所代表/前グーグル日本法人名誉会長

慶應義塾大学大学院特別招聘教授/会津大学参与)



2011年3月、東日本の発電所の大半が大震災によって停止するという事態となり、日本では深刻な電力不足に陥った。特に、7月以降、政府は節電対策として、大手企業に対して一律15%の節電義務を課したほか、一般家庭に対しても同程度の節電目標を設定した。しかし、その一方で、電力の使用制限がもたらす経済活動への打撃も懸念されはじめており、節電をただ強いるのみの方策が有効であるとは到底考えられない。そこで、今回の研究会では、「スマートメータ制度検討会」の中心メンバーである村上氏をお迎えし、ネガワット取引制度(デマンドサイドでの電力コントロール体制)をめぐって、先駆者であるアメリカの状況と、日本での取り組みの現状について率直に語っていただいた。


【講演要旨】 

2020年をターゲット年度として、世界主要各国ではインターネットを利用したスマートグリッド(次世代送電網)が注目を集めている。特に、アメリカのエネルギー省では、2000年のカリフォルニア州電力危機をうけて、デマンドレスポンスという新しい仕組みを構築した。消費電力の見えるスマートメータ(インターネットに接続されたデータのアップ機能をもつ検針メータ)を通じて、需要側の電力の消費状況をつねに監視し、電力需給のバランスをとるという手法で、市場メカニズムによって電力需要を削減できる、というところに特徴がある。

電力使用のピーク時に家電製品の稼動を制限したり、余剰電力の蓄エネルギーを行うなどして、需要側が削減した電力をネガワットと呼ぶが、アメリカでは発電所からの供給電力(メガワット)と、このネガワットとが同等の価値で市場取引されている。インターネットを活用することで、電力需要者にとっての節電を、強制的でボランティア精神に訴えるものではなく、Win-Win型のビジネスとした点、いかにもアメリカらしい合理的な手法といえる。

実のところ、日本でも、電力不足を補うため、新しい発電所を建設するのではなく、ネガワット節電所(スマート節電所)をつくろうという動きは、経済産業省資源エネルギー庁の「スマートメータ制度検討会」など、震災以前から検討されてきている。ただし、従来の日本では、十分な発電設備容量を常に準備するという安定供給体制に力が注がれてきており、震災後も原子力、火力に代わって安定供給体制に足るものは何か、という方向で議論が進められがちである。

しかし、消費電力の“見える化”を図り、需要をコントロールするデマンドレスポンスという仕組みを構築すれば、発電所建設に頼ることなく、電力の受給をバランスし、かつ、利用者の節電のインセンティブを掘り起こしていくことができる。さらに、ネガワット市場が創設されていけば、電力の予測事業など、多様な電力事業者の参入機会*が増えて、新たな電力インフラが整備されていくことにもつながる。日本を襲った今回の危機ですら、あるいはチャンスに変えていくことも可能になるのである。 

                                      (文責:藤井由紀子)