2012年8月6日
3月に引き続き中国の無錫を訪問して太陽電池産業に関する調査を行いました。最初に訪問したのは世界シェアトップの太陽電池企業であるサンテックパワー。購買部門の部長さんと課長さんに話を聞きました(といっても30歳代前半です)。あまり偉い人に話を聞くよりも、実際に事業をまわしている人に話を聞いた方がいいです。大変細かいことまで教えてくれました。
現在、サンテックに限らず多くの中国の太陽電池企業が苦境に陥っています。サンテックも大変厳しい経営状況にあります。2012年の第一四半期の売り上げは、前年同期の売り上げ8億7,700万ドルから50%以上も減少して、4億950万ドルとなっており、営業利益も9,450万ドルから1億1,920万ドルの赤字に転落しました。
2011年は6億4500万ドルの営業損失に、10億1,800万ドルの純損失を計上しています。2011年12月末時点で、5億2290ドルの債務超過に陥っており、新たな資金調達ができなければ、事業の継続が難しい状況にあります。無錫では1万人を雇用していることもあり、深刻な問題となりつつあります。
さらに反ダンピング訴訟の問題が、追い打ちをかけるように、中国企業に打撃を与えつつあります。米国では商務省が5月に、中国製太陽電池に反ダンピング課税を課す仮決定を下しました。サンテックの製品には32.22%課税されることになっています。
加えて、現在、欧州においても中国製太陽電池に対する反ダンピング訴訟が起きています。欧州への売り上げが5割を占めるサンテックにとって、欧州でのダンピング認定はどうしても避けたいところです。
個人的には、これらの反ダンピング課税は、米国や欧州には国益をもたらさないと考えています。政策として国益を考える場合には、太陽電池の普及による経済効果と国内産業の競争力維持の間のバランスを考えることになります。中国企業の製品が輸入されることによって国内の太陽電池企業がすべて代替されてしまうのであれば、ダンピング課税もあり得ます。
しかし、太陽電池のモジュールコストが急速に低下しているため、最終的な発電システムに占めるモジュールのコストの割合はかなり下がっています。つまり、太陽電池事業の川上よりも川下における付加価値の割合が高まっています。さらに米国企業はサンテックなど中国企業にシリコン材料を大量に販売しています。太陽光発電事業全体のバリューチェーン全体の中で、中国企業はパネルの賃加工を担当しているだけだともとらえることができます。
ダンピング課税によって太陽電池の普及がとまれば、再生可能エネルギーへの代替が遅れるだけでなく、国内のシステム業者やシリコン材料企業が影響を受けます。
こうした状況では、安いモジュールを中国から輸入して、普及を促進した方が、国内の材料企業と川下産業を拡大して、全体的な付加価値の増大につながると思われます。そもそも、現状の結晶型太陽電池モジュールでは欧米/日本企業はコスト的に中国企業に全く太刀打ちできません。技術が枯れている(成熟した)結晶型では、当面国内産業を保護したとしても、結局のところ中国企業に負けることは目に見えています。保護政策に頼って、投資を拡大したりすれば、後々の傷口を大きくするだけです。