2012年6月26日火曜日

沖縄県 海水淡水化センター訪問記(藤原雅俊)


2012625日執筆

◆北谷の海水淡水化センター
 2012622日(金)に、沖縄県企業局の海水淡水化センターを訪問しました。沖縄本島の北谷というところにあります。那覇市の中心から、車で北に約30分ほどの距離です。

 今回の調査の目的は、海水淡水化プラントの稼働実態を把握することです。藤原・青島・三木(2010)では逆浸透膜の開発過程を辿りましたが、その逆浸透膜を組み込んだ海水淡水化プラントは、最終ユーザーによって一体どのように活用されているのかを理解しよう、という調査です。

海水淡水化センター
 梅雨の最終日で、雲が重かったです。(撮影:藤原)


 こちらからは、青島矢一さん、三木朋乃さん、積田淳史さん、そして私の4人で伺いました。対応してくださったのは、沖縄県企業局 北谷浄水管理事務所 海水淡水化センター所長の比嘉義雄さんをはじめとする5名の関係者の皆様です。非常に丁寧に解説頂き、本当に良い調査になりました。ありがとうございました。

 沖縄は、地形的に見て河川からの取水が不安定であり、水の安定確保が長年の課題でした。「沖縄本島海水淡水化計画調査(第1次)」が始まったのは、1977年のことです。ちなみに、沖縄におけるこの年の給水制限日数は169日に及んでいます。大変な渇水状況でした。その後、北谷浄水場の海水淡水化プラントは、1997年に40,000m3/日の最大造水量を実現して完成し、今日に至っています。つまり、調査開始から数えて20年がかりで海水淡水化プラントが完成した計算になります。1997410日付の『琉球新報』によると、北谷浄水場の海水淡水化プラントは、完成当時国内最大、世界全体を見渡しても5番目に大きな規模でした。総事業費は、34699943円(うち国庫補助率85%;29494948円)ですから、まさに一大事業だと言えます(沖縄県環境生活部生活衛生課(2012)『沖縄県の水道概要:平成23年度版p. 46沖縄本島にある5つの浄水場のなかで、海水淡水化プラントを抱えるのは、この北谷浄水場だけです。

 我々が訪れたセンターには、逆浸透設備が計8ユニット入っています。逆浸透膜エレメントを直列に6本装填したベッセル(逆浸透膜モジュール)が7列×9段並んで、1ユニットを構成します。よって、北谷の海水淡水化センター全体では、6本×7列×9段×8ユニット=3,024本の逆浸透膜エレメントが使われていることになります。1ユニットあたり5,000m3/日、8ユニット全体で40,000m3/の造水能力を持ちます

海水淡水化プラント
この日は3号機が動いていました。(撮影:藤原)

 ただ、この海水淡水化プラントは常時フル稼働というわけではありません。1997年に全面供用が始まってから、2006年度までに生産された造水量は、平均10,300m3/日です。10年間の平均稼働率は、約25%となります。沖縄企業局が発行している『環境報告書』をもとに、その後の造水動向を推定値として算出すると、5,013m3/日(2007年度)、15,437m3/日(2008年度)、22,520m3/日(2009年度)、4,000m3/日(2010年度)といった具合です。これら4年の加重平均値で見ても、造水量は11,745m3/日です。なぜでしょうか。


◆造水コスト

 その大きな理由は、造水コストの高さにあります。

 一般的に、海水淡水化プラントの造水コストを押し上げるのは、動力費(つまり電気代)、薬品費、そして修繕費です。まず、逆浸透法による海水淡水化は、海水に高圧をかけて真水を得る仕組みなので、高圧をかけるために多くの電力を必要とします。ゆえに、電気代がかさんでしまいます。これが最も重荷になります。次いで、ユニットの洗浄に必要な薬品費もかかってきます。電気代も薬品費も、プラントを稼働させるほど増える変動費となります。そして最後に、逆浸透膜に塩水を通すのですから、配管その他で錆や腐食の問題が起きます。そのため、施設の修繕費用が固定的にかかってしまっています。こうしたコスト構造の上に、減価償却費と支払利息、人件費などがのしかかってくるわけです。

 動力費が重いという事情は、北谷の海水淡水化プラントでも同じでした。沖縄県企業局が発行している平成23年度版『環境報告書』に掲載された平成22年度の実績値で、送水量1m3あたりの使用電力量(kWh/m3)をみると、海水淡水化プラントで水を造るときの使用電力量は6.54kWh/m3です。海水淡水化プラントを使わない場合、沖縄本島5浄水場の平均使用電力量は、最上流の水源から最下流の供給点までの距離を取って測っても、0.95kWh/m3で済みます。海水淡水化プラントを使って水を造り出そうとすると、通常の7倍近くの電力を消費するという計算です。また、それぞれ逆数をとって、1kWhあたりの送水量(いわば、電力生産性)に直すと、通常の施設では1kWhで1.05m3を送水できるのに対し、海水淡水化プラントは0.15m3しか送水できません。かなり大きな差です。

 他の資料も動力費の重さを語っています。國吉(2007)「沖縄県企業局海水淡水化施設の運転状況」『造水技術』pp. 35-39は、2004年度におけるフル操業(40,000m3/日)時点での造水コストを120.66円/m3、そのうちの45.3%を動力費として報告しています。沖縄県では水をおよそ102円/m3で売っていますから、フル稼働してもコスト計算が見合っていないことになってしまっています。加えて、北谷の海水淡水化センターにとっていっそう厳しいことは、他府県に比べ、沖縄県の電気代が高いことです。一にも二にも動力費に尽きます。これでは海水淡水化プラントへの依存度を下げざるを得ません。

 こうした事情を受け、同センターは近年、より厳格な管理運転による経費削減を進めています。具体的には、8つある海水淡水化ユニットを1週間単位で1ユニットずつ順繰りに運転させ、運転号機の切り替え時には運転休止日を設けるという取り組みです。沖縄県企業局が発行した『平成22年度 第8次企業局経営計画実施状況報告書』によれば、平成22年度にはプラントを32日間停止させ、動力費など1210万7000円を削減させています。平成23年度上半期には、この取り組みを3回実施し、121万円の動力費を削減させました(『平成23年度 第8次企業局経営計画 上半期実施状況報告書』p. 9)。このときには、運転休止日を2日連続してとりました。他にも、センターの空調設備を改良し、平成23年度上半期には86万9000円の動力費を節減しています。あらん限りの動力費削減策を考え、進めている様子がわかります。

 沖縄本島で海水淡水化プラントに対する依存度を下げさせているもうひとつの出来事が、代替取水源(ダム)の完成です。沖縄では、2005年に羽地ダムが、2011年には大保ダムがそれぞれ新たに完成して供用を始めたため、取水量が十分に増えました。沖縄本島における一日あたりの水需要400,000m3に対し、水の供給事情は概ね整ったのです。より大きな動力費をかけて海水淡水化プラントに頼り、40,000m3を日常的に造水する意義は、徐々に下がりつつあります。ただし、小雨による渇水非常事態時には、間違いなく海水淡水化プラントがその役割を果たすでしょう。北谷の海水淡水化センターは、緊急臨時造水機関としての色を濃くしつつあるように見えます。


◆電力生産性の向上が鍵
 現時点での造水コスト構造に基づけば、海水淡水化プラントが活きてくる場所は、他に安価な代替取水源がなく、採算を度外視してでも水が必要な渇水地域にまだ限られるように見えます。もちろん、従来より劇的に低い圧力で海水淡水化が可能な逆浸透膜が登場したり、電気代が劇的に下がるといった事情がかみ合えば、海水淡水化プラントの生き道も広がるかもしれません。今回の取材では、とにかく動力費の重さを再認識し、痛感しました。電力生産性の向上が、海水淡水化プラント普及にとって何よりの課題です。

 では、逆浸透膜を海水淡水化プラントに組み込み、最終ユーザーである自治体に売り込みをかけるプラント・エンジニアリング会社は、この状況の中でいったいどのような拡販策を展開しているのでしょうか。これは今後ぜひ調査したい点です。

(藤原雅俊)