2012年6月4日月曜日

風力発電に関するセミナーで考えたこと(青島矢一)

2012年5月30日

自然エネルギー財団の水野恵美さんをお呼びしてセミナーで発表していただきました。デンマークとドイツの風力発電に関する内容です。水野さんはMITでの博士論文以来、欧州の風力発電を中心に研究をされてきたそうです。さすがに博士論文の内容を基にしているだけあって詳細で、大変勉強になりました。

http://www.ens.dk/en-US/supply/Renewable-energy/WindPower/Sider/Forside.aspx


水野さんのご発表から、僕が学んだこと、感じたことを簡単にまとめます。


第一は、デンマークやドイツ(特にデンマーク)が、再生可能エネルギーの普及を進める一方で、輸出産業としての競争力向上にも配慮してきたことです。デンマーク企業は、風力発電タービンの多くを海外(ドイツ、アメリカなど)に輸出してきました。国内需要だけに対応してきた米国企業とは、この点で対照的でした。


デンマークの風力発電促進政策は、過剰な補助をしていません。当初は設置補助金を出していましたが、その後、早くから固定価格買い取りを実施することになりました。買い取り価格は、技術開発によるコスト削減努力した、競争力の高い企業だけが、なんとか利益を上げられるレベルに設定されてきたと思われます。


1979-1991年までは、0.23DKK/kwh(今のレートだと3円弱)の発電量に応じた補助金が提供され、1992-1999 年までは0.17DKK/kwhの補助金と0.1DKK/kwhの炭素税の還付の合計0.27DKK/kwhの補助が行われていました(このあたり「高木基金助成報告集 NO.1」にある電中研の朝野さんの論文も参考にしました。朝野(2004))。一方で、1992年からは買い取りも義務づけられ、その価格は市場価格の85%に設定されていたとのことです。


現状の日本でいうなら、市場価格の85%だと、家庭向けで20円/kwhくらい。産業向けなら、10円くらい。それに3円ちょっと上乗せされていたと考えればよさそうです。


ちなみに現在のデンマークでは25kw以下の小型風力発電による電力の買い取り価格は60オレ/kwh、日本円で8円/kwhくらいです。日本で7月から想定されている買い取り価格は20kw未満の場合には57.75円/kwhですから、デンマークの7倍以上。円高を考慮しても、かなりの開きがあります。


過剰な補助を与えると、普及は進むけれども、技術開発やコスト削減の努力が阻害される危険性があります。努力をして競争力を獲得した企業だけが恩恵を受けられるとなると、確かに普及は遅れるかもしれませんが、企業の競争力は向上します。他国よりも早くこうした普及政策を進めた国の企業は、先行から得た競争力をもって、海外市場に出て行くことができます。政府の補助を決める時には、「普及と競争力のバランス」を慎重に考える事が重要だと思います。


水野さんの発表から感じた2つめのことは、風力発電は、太陽光発電に比べればコモディティ化のスピードが遅く、日本企業がこれから活躍できる余地のある産業かもしれないということです。水野さんは風力発電技術はSystemicであると表現していました。つまりいろんな要素を複合的に擦り合わせる必要がある製品だということです。


きちんと調べてないので、まだ直感の域を全くでていませんが、例えば、発電効率を上げるために進んでいる大型化に対応して、ブレードなどに使われる材料はますます高度化すると思います。現在は、CFRP(炭素繊維複合材料)が使われるようになっていると思いますが、飛行機などに使われる高性能・高品質のPAN系炭素繊維では日本の3社(東レ、東邦テナックス(帝人)、三菱レーヨン)が世界市場を支配しています。


風力発電用のブレードにこれまでは飛行機ほどの性能が必要なく、ラージトゥと呼ばれる太い繊維(ドイツ系の企業なども供給でしている)が使われていたのではないかと思いますが、今後さらに軽量化して性能をあげていこうとするなら、日本が圧倒的に強いレギュラートゥがもっと活用されるのではないかと思います。


また、風力発電で鍵となるのは、風速の変化に合わせた制御技術のように思いました。このあたりは、おそらく、これまでの経験・実績から蓄積されたデータがものをいうでしょうから、一朝一夕には追いつけないのかもしれません。ただ、日本のエレクトロニクス産業は低落傾向にありますが、技術者はまだまだ一流だと思いますので、普及とともに経験を蓄積できれば、キャッチアップの可能性はあるのではないかと思います(しかし大手企業が手がけているとなるとビジネスが小さいので難しいかもしれない)。


風力発電産業でも中国やインドの企業が強くなっていますから、欧州企業が今後も競争力を維持できるとは限りませんが(実際にVestasは赤字ですし)、技術の構成からして、(少なくとも大型の装置については)そう簡単に模倣できるものではないように感じました。


中国でみてきた大型の鋳物等を含む製造自体はコストの安いところに移管されるのでしょうが、付加価値の高い制御技術や材料技術は囲い込むことが可能かもしれません。また、材料、部品・ユニット、制御ソフトを含めて全体を統合できる企業が競争力を維持しやすい産業のようにも思います。実際に、Vestasを含むトップ企業は、内製化を進めてきたという話でした。


最後に感じたことは、やはり歴史的に蓄積してきた国の産業基盤を活かせるような方向で促進政策を考えるのが重要だということです。デンマークは風力の歴史が長く、おそらく風を把握して、風に合わせて装置を制御する技術に長けているのではないかと思います。垂直的に分業した産業構造の中でも、制御・エレクトロニクス関係はデンマークの企業が支配しています。一方、ベアリングなど機械的なものはドイツの中小企業が供給しているそうです。いかにもドイツらしいと思いました。


再生可能エネルギーを促進する場合には、その産業における長期的な競争力を念頭に置くことが大事だということは、何度も繰り返し述べてきましたが、さらに、その競争力を考える上では、地の利というか、これまで日本は蓄積してきた強みを活かすことが(当たり前ですが)筋の良い方策だと思います。

(青島矢一)