「大震災の教訓とエネルギー問題の課題と解決策」 金子祥三 氏
(東京大学生産技術研究所 特任教授)
2011年3月、東北地方を襲った大震災の影響で、東日本太平洋岸に立地する発電所のほとんどが停止する、という状態に陥った。今後、おそらく日本のエネルギー計画は大きな見直しを迫られることになるだろう。震災後はじめての開催となった今回の研究会では、本研究会の発足メンバーである金子氏に改めて講演をお願いした。火力発電プラントの設計に過去従事されてきたお立場から、発電所の被災状況を分析いただき、あわせて、原子力発電の喪失分をどうするか、今後の日本のエネルギー動向と火力発電の将来像についても語っていただいた。
★★ 講演録として、より詳しい内容を「リサーチ・ライブラリ」にて公開しています ★★
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http://pubs.iir.hit-u.ac.jp/ja/pdfs/portal?lid[]=13
【講演要旨】
東日本大震災における発電所の被災状況をみると、大半の被害は、地震よりも津波によるものと考えることができる。
特に、火力発電所の場合、もともと地震に強い構造を持つが、燃料のほとんどを海外から輸送している関係上、多くの発電所が海岸に立地しており、今回、そのことが津波による浸水、冠水の被害を大きくしてしまった。
特に、火力発電所の場合、もともと地震に強い構造を持つが、燃料のほとんどを海外から輸送している関係上、多くの発電所が海岸に立地しており、今回、そのことが津波による浸水、冠水の被害を大きくしてしまった。
現在のところ、水没してしまった発電所の復旧には約半年~2年の期間を要する見込みで、2011年3月末の時点では、火力発電所(広野・常陸那珂・鹿島)と共同火力分(相馬共同火力新地・常盤共同火力勿来・クリーンコールパワー)とで1126万kW、原子力発電所分もあわせると、東京電力の総発電能力の30%強を喪失している状況にある。
2010年6月に閣議決定したエネルギー基本計画では、2030年の電源構成について原子力の比率を50%とする一方、火力の発電電力量を半減させることでCO2の発生量を半分に抑える、という見通しを立てていた。しかし、今回の震災を踏まえると、今後は原子力発電所の新設をあきらめ、既設のものだけで動かしていくという選択もやむをえなくなる。
とすれば、その原子力エネルギーの喪失分をいかに代替するか、という問題が当然起こってくる。再生エネルギーへの期待が高まっているが、残念ながら、太陽光発電、風力発電では容量的に難しく、天然ガスもセキュリティ上に難点がある。やはり、改めて重要になってくるのが火力発電で、いかに燃料を確保し、火力発電を高効率化していくかが肝要となる。
火力発電の高効率化の現状としては、蒸気タービン入口蒸気の高温・高圧化 が目指されているが、蒸気タービン単独では、すでに40%強の効率まで達しており、これ以上の高効率化には耐高温材料が鍵とならざるをない。しかし、日本には耐高温材料の具体的な開発プロジェクトがなく、材料による高効率化は残念ながら望めそうもない。
ところが、ガスタービンと蒸気タービンを複合させたダブル複合発電 であれば、無理をすることなく効率を上げていくことができる。
それだけでなく、将来的にはトリプル複合発電も視野に入れて、そこにさらに燃料電池を組み合わせていけば、究極の高効率化も可能である。
今回の震災を契機に、従来のエネルギー計画を見直す必要に迫られているが、現状では再生エネルギーにも限界や制約がある以上、火力発電の技術革新が今後の日本のエネルギー動向を支えることになるだろう。
(文責:藤井由紀子)
≪講演会資料≫ 講演会資料のうち一部を抜粋して公開しています