2012年12月23日日曜日

【研究会報告】アジアからはじまるEV革命と日本ベンチャーの使命



CO2削減とイノベーション」研究会
  第18回研究会報告 2012.10.30

「アジアからはじまるEV革命と日本ベンチャーの使命」

 
徳重徹 氏

Terra Motors㈱ 代表取締役社長


昨年の東日本大震災は、下降していた二輪車の需要を一気に押し上げた。移動手段としての有効性、維持費の安さに再び注目が集まったためであるが、折からのガソリン高騰を承けて、特に需要を伸ばしたのが電動スクーターである。そこで、今回の研究会では、現在、電動スクーターで国内シェアトップを誇る、テラモーターズ㈱の徳重徹氏にご登場いただいた。ただし、本来、同社は、最初から海外市場獲得を狙って起業されたボーングローバル企業である。ベンチャーの役割とはいかなるものか、EV(電気自動車)やアジアの環境問題にビジネスチャンスをいかに見出したのか、本研究会でもそうした視座からじっくりとお話をうかがった。


★★ 講演録として、より詳しい内容を「リサーチ・ライブラリ」にて公開しています ★★      
    ↓ 「リサーチ・ライブラリ」へのリンクはこちら  (研究会・講義録項からダウンロードください
         http://pubs.iir.hit-u.ac.jp/ja/pdfs/portal?lid[]=13


【講演要旨】

EVスクーターで、現在、日本国内№1のシェアを持つテラモーターズは、2010年に設立されたばかりのベンチャー企業である。シリコンバレーのインキュベーション企業において、技術系のベンチャーのハンズオンを手掛けた経験をもとに起業した会社で、高いビジョンと日本再生の気概、戦略的思考とスピードを武器に、中国の協力工場に生産拠点を確保し、アジアでの市場獲得と量産体制構築を目指してフィリピン、ベトナム、台湾でEVスクーター事業を展開しつつある。


「日本のベンチャーで急成長する事例を作りたい」というのが起業の動機である。ベンチャーの重要性はシリコンバレーの例に見る通りで、ベンチャーの成功は雇用と税収を生んで国を引っ張っていくだけでなく、成功したベンチャーからスピンアウトした人が新たに起業することで、どんどん産業を作りだしていくことができる。そして、大企業の側でも常にベンチャーを注視し、提携や買収によってそれを取り込むといった役割分担がうまく機能すれば、産業を活性化していくこともできる。

EVベンチャーを選んだ理由については、産業構造の変化への着目がある。エンジン重視の垂直統合型から、電池を中心とした水平分業型へという変化は、コア技術を社内に保持しない形のビジネスモデルへの転換を促していて、世界でもEVベンチャーが次々と起業されている。また、EVのなかでも特にスクーターに絞ったのは、走行距離や安全性などの性能面で四輪よりもハードルが低いぶん、大手企業が強みを発揮できず競合が少ない、という状況があるからである。
らに、東南アジアをターゲットとした理由は、社会全体におけるガソリン二輪への依存度が高く、大気汚染や騒音といった環境面でも、ガソリン高騰といった経済面でも、EVへの切り替えが急務となっているからで、今後かなりの市場拡大を見込むことができる。目下注力している「フィリピンE-trikeプロジェクト」(アジア開発銀行支援)への参画も、その重要な足がかりになると考えている。また、従来ベトナムを席捲してきた中国製のEVスクーターは、その品質や体制に問題がある。したがって、低価格と日本ブランドの信頼感によって市場を獲得し、供給体制やメンテナンス網などの仕組をいち早く築くことができれば、やがては市場を寡占化に持ち込める可能性もある。そのためにベトナムに新たに自社工場を建設し、生産供給体制の強化を図っている。
 (文責:藤井由紀子)



 ↓ 「CO2とイノベーション」研究会についてはこちらをご参照ください
http://hitotsubashiblog01.blogspot.jp/2012/08/co2-magicc-co2-5-6-co2-co2-magicc-hp.html



2012年12月22日土曜日

《magicc ニュース 2》 国際シンポジウム開催予告(3/14-15)




magicc: 国際シンポジウムの開催予告

(事前ミーティングの様子)


2013年3月14日-15日、magiccでは国際シンポジウムを開催することになりました。

現在、プログラムを作成中です。
出来上がり次第、magiccのHP、および、イノベーション研究センターHPに掲載し、参加希望者を募る予定です。

【一橋大学イノベーション研究センター主催シンポジウム】
 ―日本再生に向けたグリーンイノベーション:環境・エネルギー・経済発展の両立に向けて―

  日時: 2013年3月14日(木)・3月15日(金)
  場所: イイノホール&カンファレンスセンターでの開催予定
         (東京都千代田区内幸町2-1-1)
  内容: 基調講演
       セッションⅠ 日本再生に向けたグリーンイノベーション
         (モデレーター: 米倉誠一郎/一橋大学イノベーション研究センター教授)
       セッションⅡ 環境・エネルギー・経済発展の両立に向けて
         (モデレーター: 青島矢一/一橋大学イノベーション研究センター教授)


また、上記シンポジウムに向けた準備の一環として、昨年の12月22日にmagiccプロジェクトの報告会を行いました。
「新エネルギー・新産業の創出」分野からは、太陽光発電、地熱発電、水処理ビジネス、スマートグリッド(スマートシティ)、「既存産業の取り組み」分野からは、火力発電(タービン)、廃プラスティック処理、ものづくり、「政策・制度」分野からは、排出権取引、政府投資など、各テーマに沿って各自が報告を準備して議論を交わしました。その具体的な内容については、各報告者の協力を得て、今後、当HP上で順次公開していきたい、と考えています。













2012年12月3日月曜日

新東工業㈱ 豊川製作所見学記 (宮原諄二)


新東工業㈱は「エアレーション造型法の開発と実用化」で平成22年度(2010)大河内記念生産賞を受賞した。エアレーション造型法とは、鋳物砂を空気圧力により流動化させ鋳型を作る方法であり、関連する一連の技術をシステム化して「鋳造」分野に技術革新を起こすことになった。この技術開発の背景や経緯を知りたく、日本三大稲荷として名高い豊川稲荷のすぐそばにある豊川工場を2012年月2月に訪問し、専務取締役の川合悦蔵さんと開発リーダーであった平田 実さんのお二人にお話をうかがった。


★★ 新東工業㈱のケーススタディが「リサーチ・ライブラリ」からダウンロードできます ★★
      藤原雅俊「新東工業株式会社:エアレーション造型法の開発と実用化     
      ↓ 「リサーチ・ライブラリ」へのリンクはこちら  (ケーススタディの項目をご参照ください)
 中央: 平田実 氏 /新東工業㈱ 鋳造事業部 副事業部長
  画面右: 宮原諄二 /元・一橋大学イノベーション研究センター長(本記執筆者)
  画面左: 藤原雅俊/京都産業大学経営学部 准教授(ケーススタディ執筆者)


 いずれの企業であっても独自のパラダイムを持っている。そうであったからこそ、その企業が成長し発展して今日がある。しかし、成長発展の原動力であったそのパラダイムが、時を経るにつれて社内や社外の環境に適合しなくなる時期は必ず訪れるものである。何も手を打たなければ、その技術・その事業・その企業は確実に衰退の方向に向かう。イノベーションの芽は、しばしばそのような状況の中で生まれる。新東工業の「エアレーション造型法」のコンセプトも、1990年代の後半に主要の「鋳造」市場が急速に低迷し、革新技術によって「鋳造」市場を立て直すか、新たな事業分野進出を模索しようかとの状況の中で生まれた。新東工業は前者を選択した。

 「鋳造」という技術は実に長い歴史を持つ。ホモサピエンスが自然銅や自然金を偶然に発見し、それを叩いて整形し利用し始めるようになったのは今から数万年前である。しかし、それらを溶かすほどの高温にする技術を会得し、金属の成型物を大量に作る「鋳造」技術を人類が知るようになったのは、新石器時代の初めの頃、およそ6000年前になる *1 。鉱石から金属を取り出す「冶金」技術を知るのは、さらにそれ以降のことである。以来、人類は20万年にもわたる長い石器時代を抜け、青銅の時代を経て現在の鉄鋼の時代へと大きく躍進を遂げてきた。
新東工業㈱ 豊川製作所 (愛知県豊川市穂ノ原)
   
*1 参考:フォーブス著、平田寛・道家達将・大沼正則・栗原一郎・矢島文夫監訳:「古代の技術史 上 金属」朝倉書店(2003.10.1.初版第1刷)、B.W.スミス著、和田忠朝訳:「銅の6000年」アグネ(1966.12.25初版)、A.アシモフ著、小山慶太・輪湖 博訳:「科学と発見の年表」丸善(1995.10.5.第3刷)、その他




 鋳造技術の重要な領域は、高温に耐える鋳型を作るための鋳物砂、すなわち「粉体」の制御技術である。粉体を扱うと、不可避的に他の物体との「摩耗」という現象を伴うために、摩耗の制御技術もまた必要となる。「粉体」や「摩耗」に関する技術は、まだ解明されていないさまざまな物理的・化学的な現象から成り立っていて、またそれがさまざまな環境要因によって影響を受けるために、アカデミックな学問には馴染まない技術分野の典型である。

 新東工業は、空気を物理的な媒体として利用して、液体や粉体を搬送したり混合したり粉砕したりする、よく知られた“エアレーション”という技術を、同社の技術の系譜としてつちかってきたさまざまなノウハウと社外のさまざまな技術とを統合し編集して、「鋳造」分野の革新的な技術として創り上げた。現在では“エアレーション”との言葉は、当該分野では同社のブランド名になるほどに、“鋳物を作る設備”の世界のトップ企業として以前と変わらぬ地位を確保することができた。

 このように経験によるノウハウの寄与が高く、なおその技術領域に八百万の神がまだおわしますようなアナログ的技術は「機能統合性の高い技術」 *2 と言えよう。この性格を持つ技術は、模倣されにくく、技術の優位性を長く保つことができ、競合が少なくコスト競争になりにくく、結果として企業間・国家間での技術移転速度が遅いとの利点がある。しかし、その一方で、“閉じられた技術のループ”にはまり込み、自立的な発展性に限界が生じ、それを代替する技術が出現したときには壊滅的な影響を受ける技術でもある。電子デジタル技術の出現によって、ほとんど消滅してしまった銀塩写真やレコードなどはその典型例である。

*2 一方、ロジックの積み重ねの寄与の大きく、結果として一神教的な世界に生きているデジタル的な「機能拡張性が高い技術」がある。技術の汎用性が高く、多数の製品に適用でき、製品コストを安くできる一方で、模倣されやすいために競合がはげしくて優位性を保ちにくく、コモディティになり易い技術である。モデルチェンジの間隔も短く、企業間や国家間の技術移転速度も速い。企業や国家の技術戦略を考える上でその技術がどのような性格をもっているかとの視点は重要である。
 豊川製作所「商品体感センター」の様子

 企業における技術革新が成功するには、最初のコンセプトが重要であることは論を待たない。しかし、それと同等以上に重要な要因は、実際の開発プロセスに携わった人々である。テーマを成し遂げようとする「熱き思い」を持ち、組織や個人に豊富な「無意識知」が蓄積され、そしてさまざまな「偶然」に出会う自由の場が作られていて、それらすべてが焦点化されて共鳴することだ。川合さんは「エアレーション造型法」の基本アイディアを考え、当時ドイツ駐在員であった平田実さんにそのアイディア実現の想いを伝え説得した。平田さんを見込んだからである。お二人はパーソナリティ(“自由な子供”と“理性的な大人”)も異なり、蓄積されている暗黙的知識も立場も違っているのであるが、互いに信頼しあっている実に好ましい組み合わせであることがよくわかった。成功する開発事例の必須の条件である。

新型造型機「FDNX」
  現在、新東工業は「鋳造」分野だけではなく、「粉体」と「摩耗」の制御技術を『技術の核』として多方面に展開している。ショットブラストのような金属表面加工分野、それに用いる独特のセラミックや金属粉体などの消耗材料分野、大型精密加工アルミナ・セラミック製品分野、メカトロニクス分野や環境システム分野などへの展開である。さらには世界各地に導入された鋳造プラントを円滑に操業するために世界規模の遠隔保全ネットワークシステムも立ち上げた。いずれも他社が模倣しにくい「ノウハウの塊」技術に仕上げている。世界の荒波を生き抜いていく特異的な日本企業の代表例の一つとして期待したい。





2012年11月14日水曜日

【ケーススタディ】 新東工業㈱のエアレーション造型法



magiccでは、火力発電・鉄鋼・ものづくりなどの既存産業分野、太陽光・水資源・地熱・スマートグリッド・水素利用といった新産業分野、それぞれの分野における日本企業のグリーンイノベーションへの取り組みについて、インタビューや施設見学などの実地調査を通して分析を進め、それらをケーススタディとしてまとめて、「リサーチライブラリ」で公開しています。


新東工業㈱のケースを新たにアップしました。
 藤原雅俊「東工業株式会社:  エアレーション造型法の開発と実用化」
  
★★ 新東工業のケーススタディは「リサーチ・ライブラリ」からダウンロードできます ★★
       ↓ 「リサーチ・ライブラリ」へのリンクはこちら  (ケーススタディの項目をご参照ください)

鋳造機械事業を中核として成長してきた新東工業㈱のケーススタディです。エアレーション造型法という新しい鋳型製造法を開発し、鋳造機を大幅に小型化することに成功した同社は、鋳型精度を向上させつつ、鋳型製造の低コスト化と生産速度アップを実現しただけでなく、結果として、使用電力量の大幅削減という、鋳造業界が抱えている課題をも克服しています。

エアレーション砂充填を採用した新型造型機「FDNX」
(2012年2月の新東工業豊川製作所での調査時に撮影)


《公開中のケーススタディ》

現在、公開しているmagicc関連のケーススタディは、以下の5本です。


・新日本製鐵:  コークス炉炭化室診断・補修技術

・東レ:  ポリアミド複合逆浸透膜および逆浸透膜システムの開発

・JX日鉱日石エネルギー株式会社:  
  サルファーフリー燃料の開発と事業化

A Case Study of Toray Industries, Inc.
   Development of the Polyamide Composite Reverse Osmosis Membrane     and Reverse Osmosis Membrane System

・新東工業株式会社:  エアレーション造型法の開発と実用化 
   


↓ 「リサーチ・ライブラリ」へのリンクはこちら
http://pubs.iir.hit-u.ac.jp/ja/pdfs/portal?lid[]=13

2012年10月26日金曜日

【研究会報告】マイクログリッドにおけるデンソーの取り組み


CO2削減とイノベーション」研究会
  第16回研究会報告 2012.5.10

「マイクログリッドにおけるデンソーの取り組み」

 
金森淳一郎 氏

(㈱デンソー研究開発1部 
  DPマイクログリッド開発室 室長)
   ※現在は技術開発センター マイクログリッド事業開発室


CO2削減の観点から、ますます注目を浴びる電気自動車。しかし、結局のところ、この電気自動車も、火力発電によるエネルギーを利用しているかぎり、ガソリンで車を走らせることと何ら変わりはない。特に、東日本大震災を承けて、原子力発電への依存度が変わりつつある今、これを社会のしくみのなかにいかに組み入れ、エネルギーの高効率化にいかに寄与させていくか、車という枠組を超えた、具体的でリアルな議論が求められている。そこで、今回の研究会では、㈱デンソーの金森淳一郎氏にお越しいただき、車を機軸に、住宅や商業施設へと視野を広げ、マイクログリッド分野での事業を展開しはじめたその取り組みと、実証実験の概要についてお話をうかがった。

★★ 講演録として、より詳しい内容を「リサーチ・ライブラリ」にて公開しています ★★      
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【講演要旨】

EV(電気自動車)、PHV(プラグインハイブリッド車)時代の到来に向けて、現在、デンソーでは、自動車まわりで培ってきた要素技術を、マイクログリッド分野に応用することに着手している。「家と車」・「電気と熱」のエネルギーを最適制御する技術を開発して低炭素社会に貢献する、というのがその基本コンセプトで、住宅や商業施設の分野にまで踏み込んでシステムを開発している。例えば、給湯は日本人の生活に非常に高いウエイトを占めるが、CO2ヒートポンプを蓄熱装置としてこれに活用することで、エネルギーコストを抑えつつエネルギーのCO2低減を図っている。単に自動車の電動化だけでなく、デンソーの基幹事業の一つである熱機器を活かしてモデルを組み立て、さらにはこれらを様々な地域での実証実験の場にも持ち込んでいる。



現在、デンソーが参画しているなかで最もリアリティのある実証実験は、経済産業省の主導のもと、4つの都市で開始されたスマートコミュニティ実験のうち、トヨタグループを中心に進められている豊田市のプロジェクトである。一般の方々を対象に実際に住宅を分譲し、そこに各社が持ち寄ったスマート機器や自動車を投入して、コミュニティ全体でCO2を減らそうと試みている。デンソーはここでは、蓄電池、エコキュート、HEMS(ホームエネルギー管理システム)、コンビニ用BEMS(商業施設管理システム)、および、これと連携させた電動冷凍トラックなどを担当している。



また、将来、マイクログリッドの市場を確実に創出していくためには、普及を動機づけるユーザーのリアルなニーズを探りだしていくことも重要な課題となる。デンソーでは実証実験を続ける一方で、専門チームを組み、各地でのニーズ探索にも乗り出している。そして、そこでは再生可能エネルギーのユーザーについて、従来行われてきたような、平均的ユーザーを対象にニーズの汲み上げを行うのではなく、特徴あるユーザー(リードユーザー)を対象とした独自調査を行うことで、「ユーザーにとって再生可能エネルギーがもたらす“リアルな経済的価値”とは何か」を具体的に洗い出すことに努めており、いずれその成果を革新的なシステム開発に結びつけていこう、と考えている。




(文責:藤井由紀子)


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2012年10月23日火曜日

サムスンの水ビジネス参入(積田淳史)

 2012年9月16~21日、韓国でInternational Water Association主催のIWA World Water Congress & Exhibitionが開催されました。このタイミングで、韓国企業の雄・サムスングループが、水ビジネスに参入することが発表されました(参考:NHK時事公論)。



2012年10月17日水曜日

【研究会報告】高効率・高温ガスタービンの開発と工業化

CO2削減とイノベーション」研究会 
正田氏(中央)
  第15回研究会報告 2012.2.9


高効率・高温ガスタービンの開発と工業化」                        

正田淳一郎 氏 

(三菱重工業㈱ 原動機事業本部ガスタービン技術部 部長)



2009年9月、当時の日本国首相は、国連の演説において、2020年までに温室効果ガス排出量を1990年比25%削減する」という目標を、国際公約として掲げた。昨年の大震災を承けて、公約撤回の動きもないではないが、この25%の削減案は、原子力発電所の新設を前提にしても大きな足かせといわざるをえない。そもそも日本の場合、CO2削減に関する意識がすでに高く、技術革新も相当に進んでいる、という現状があるからである。そこで、今回の研究会では、火力発電におけるガスタービンの高温・高効率化世界一を実現した、三菱重工業の正田氏にお越しいただき、その開発経緯とそれを支える問題意識、さらには将来的な展望について詳しくお話をうかがった。

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【講演要旨】

ガスタービン(C1)を用いた火力発電において、近年、増えているのが、ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせたコンバインドサイクル発電(C2)である。ガスタービンを使って発電した後、その排熱を利用してつくった蒸気で蒸気タービンを回転させ、もう一度電気をつくるという発電方式である。高効率のガスタービンは、高い排ガスエネルギーを有するので、そこに蒸気タービンを組み合わせれば、高いプラント効率を達成できる。すなわち、同じ量の燃料でも、通常の火力発電より多くの電力をつくることが可能になるため、結果としてCO2の排出量を抑えることにつながるわけである。



地球温暖化 防止の上からCO2削減が世界的な課題になっている今、三菱重工業がガスタービンの開発に力を注いでいる意義も、まずはこの点にある。しかし、理由はそれだけにとどまらない。化石燃料のなかで最も燃費のよいガスタービンは、コストを安く抑えることができる。加えて、発電量が変えやすいという点で運用性が非常に高く、必要に応じて発電量を調整しやすいため、再生エネルギー増加で発電量変動増加が予想されるなか、そのニーズも高まっている。さらには、震災の影響もあり、建設期間が非常に短く、緊急時などの対応性がよいことも、ガスタービンの特徴として注目を集めつつある。


ただし、高温で焚けば燃費がよくなり、CO2排出量も抑えられるとはいえ、高い温度で長時間、発電しつづけるという状況は、高温下でのガスタービン自体の耐久性、および、NOx(窒素酸化物)発生による環境負荷といった問題を生む。三菱重工では、タービンの羽根(C3)のデザイン、コーティング、材質に独自の工夫を施しているほか、空気と燃料を混合させて燃焼させる予混合燃焼器(C4)にも工夫を盛り込むなど、いくつかのキーテクノロジーによって問題を解決しつつ、NOxでありながら、タービン入口温度1600℃、熱効率61.5%という、世界最高レベルの出力と効率を実現した。



また、開発プロセスとしては、研究・開発・実証実験の各部門を一つのエリア(高砂)に集約させており、組立工場の横に実際の発電所をつくって、初号機の運用を検証しつつ開発を進めている。さらに、国のプロジェクトとして補助金を得ながら要素技術開発を推し進め、それらを順次適用して性能向上に努めており、1700℃級超高温ガスタービン実現の可能性も見えはじめている。その一方で、太陽熱とガスタービンを組み合わせるなど、従来の技術的な蓄積を活かして新たな取組み(C5)への着手も進めている。


 (文責:藤井由紀子)



                                        












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2012年10月16日火曜日

【研究会報告】日本ブランド地中熱利用換気システム



CO2削減とイノベーション」研究会
  第13回研究会報告 2011.12.1


「日本ブランド地中熱利用換気システム」

  橋本真成 氏

  (㈱ジオパワーシステム 代表取締役社長)



2011年の大震災以降、日本国民の省エネ意識は劇的に変化した。日々の暮らしにおいて、まずできることは何か。そこに向けられた人々の関心は非常に高い。そのようななか、地中熱を利用した独自の空調システムで注目されているのが㈱ジオパワーシステムである。鍾乳洞から発想したというこのシステムは、単に節電を目的とするのではなく、住空間を通して自然エネルギーを暮らしとともにデザインすることを提案している。今回の研究会では、その若き社長にご登場いただき、システムの特徴とあわせて、開発を支える同社のユニークなコンセプトについても、じっくりとお話をうかがった。

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【講演要旨】

夏、鍾乳洞の中に入ると涼しい。そうした天然のクーラーをヒントに考案されたのが、パッシブ地中熱利用換気システムGEOパワーシステム」である。



地盤の温度は一年を通して一定であることに注目し、“空気の井戸”を作るという発想のもと、独自開発の二重構造パイプを地下に埋めて、外から空気を送りこんで熱交換するシンプルなシステムである。

工夫のポイントとしては、足下5メートルというごく浅い層にパイプを埋めることでコストを抑えているほか、エネルギーを削減するため、床下の空間にグリ石(砕石)を敷きつめた蓄熱層をつくり、太陽熱や排熱などを溜め、地中熱の循環を安定させているところにある。

さらに、このシステムの特徴として、換気システムとして利用できることが挙げられる。現在、建物内には換気設備の設置が義務づけられているが、当該システムを設置すれば、施工費を軽減できるほか、イニシャルコスト、ランニングコストも軽減できる。また、地中に埋設するパイプ内に溜まる結露水には、空気を浄化する作用のあることもわかってきており、地中熱とともに清浄な空気を循環させる点、深刻化するシックハウス問題にも非常に有効となる。




室内と外気の温度差をあまり大きくはできないものの、温度を緩やかに調節することで体を自然に慣れさせていき、“省エネな体をつくろう”というのが開発コンセプトで、実際の運用データをみても、節電対策や災害時のインフラのみならず、健康効果、ひいては農業利用など、利用者に新たな付加価値をもたらす新システムとしての可能性を開きつつある。また、自然エネルギーをデザインしたということで「グッドデザイン賞」を、おもてなしの心を形にしたということで「新日本様式100選」を受賞するなど、評価や注目の集め方も実にユニークである。



システムの普及については、地元の工務店や建築会社に技術供与を行って提携関係を構築し、提携料を徴収する一方、技術の質を確保しながら、口コミを広げ、着実に事業展開を進めている。また、来年以降は海外にも進出していく予定で、すでにアメリカの設計事務所が採用を決めており、日本ブランドの癒し系の換気システムとして、今後は海外での成長も期待できると考えている。 

越谷レイクタウンにあるGEOパワーシステムの体験施設(モデルハウス)




 (文責:藤井由紀子)



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2012年10月4日木曜日

《magicc ニュース 1》 「CO2削減とイノベーション」研究会  講演録公開のお知らせ 



「CO2削減とイノベーション」研究会  講演録公開


201010月以後、再スタートした研究会について、ゲストスピーカーのご講演を、一部、講演録として公開することにいたしました。 ※質疑応答部分を除lきます

ご講演者のご了解をいただけたものに限られますが、過去にお話いただいたご講演の内容を、ご講演資料を交えながら原稿としてまとめ、「リサーチ・ライブラリ」のコーナーに順次アップしていく予定です。ご興味のある方は、magiccのトップページの「リサーチライブラリ」から入っていただき、「研究会・講義録」のコーナーよりダウンロードすることができます。

なお、「リサーチ・ライブラリ」には、上記のほか、magicc関連の論文、ケース・スタディなどを掲載しています。講演録と同様、一部、ダウンロードすることができますので、ご興味のある方はどうぞご高覧ください。

↓ 「リサーチ・ライブラリ」へのリンクはこちら
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研究会の様子

2012年9月28日金曜日

小規模地熱発電の可能性(2):経済性


2012712

地熱開発の条件

地熱開発に対する反対の歴史を抱えながら、なぜ、小浜の人たちが現在地熱エネルギーの開発を推進しているのでしょうか。東日本大震災をきっかけとした再生可能エネルギーに対する注目や長崎大学を中心として進められている地域再生モデルへの賛同もあると思います。


高温の温泉に恵まれる小浜温泉
島原半島は、2009年に、国内で初めてジオパークに認定されました。2012年には島原で国際会議があり、気候変動におけるジオパークの役割として、再生可能エネルギーの活用も言及されています。また、島原半島スマートコミュニティという研究会も立ち上がり、島原半島全体を自然エネルギーでまかなおうとする構想も検討されています。こうした流れの中で、地元の活性化を狙って、地熱開発に協力するようになったことは考えられます。


しかし、何よりも重要なことは、今回の地熱発電の実証試験では、新たな温泉井を一切掘らないことにあります。既にある井戸を活用し、さらにバイナリー発電ゆえに、温泉水は地下に還元されます。これであれば、既存の温泉に対する影響がないことは100%確証できます。必ずしも、地元の人たちが考え方を変えて、地熱開発に乗り出したというわけではありません。やはり、温泉に対する影響が少しでも想定される限り、開発に反対するという立場には変わりないと思われます。


小型バイナリー発電の経済性
新たな井戸は一切掘らないということを前提にすすめられている実証実験では経済性の確立が課題となっているようです。


実証設備用の温泉井戸
現在は温泉熱で塩を製造


環境省の事業であるため、国産のタービンを使う必要があり、現在市場で調達可能な小型タービンということで神戸製鋼製の72kWのタービンを3基導入する計画となっています。1台の値段が2,500万円、3基で7,500万円です。タービン自体はこのように安価なのですが、設置工事や配管工事を合わせると1基あたり7,000万円ほどになってしまう可能性があるとのことです。以前のNEDOの事業で海辺に掘った井戸を活用するのですが、それだけでは、湯量が足りないため、他の井戸からお湯を引っ張ってこなければなりません。そのために配管コストがかさみます。工事費を含めると、3基で2億円程度となります。


一方、最大出力は72kWなのですが、実際の送電端の出力は30kW程度になるそうです。冷却等など、所内で必要とされる電力が30-40%程度あること、それに加えて、使用予定の井戸の湯量が最大出力を得るには足りないからです。メーカーのカタログに記載されている50t/h以上の湯量があれば送電端で40kW以上の出力が可能なのですが、そこまではお湯を集めることが難しそうです。


3基で送電端の出力は90Wということになります。メンテナンスを考えると稼働率は7割程度ですから、年間の発電量は、90kW*8760*0.7=552,000kWhです。固定価格買い取りの買い取り価格は42/kWhですから、年間の売電収入は2,300万円程度です(実際には実証設備では売電はできないが)。投資額は2億円ですから、ランニングコストを除いても、回収には10年を要します。実際にはメンテナンスコストもかかるし、電気主任技術者など人件費もかかります(バイナリーに関しては、昨年、ボイラー・タービン技術者の選任が規制緩和によって必要なくなりましたが)。これらを勘案すると、投資回収期間はさらに長くなります。地熱電力の買い取り期間は15年ですので、投資回収できるかどうか、ぎりぎりのラインだと思われます。


小浜の場合には新たな掘削ができませんので、既存の温泉井からお湯を集めてくるための配管工事が大きくなってしまいます。42/kWhというのは破格の買い取り価格だと思います。神戸製鋼の設備価格の2,500万円も、普及を見込んだ、かなり安い設定になっているようにおもわれます。それでも、採算ラインにのるか微妙なところです。


このように見てきますと、小規模地熱発電に関してはかなり工夫しないと、経済性を確保することは難しいようです。このまま、高い買い取り価格を期待して、広く導入されることになると、買い取りが終わった後、大量の廃棄物が放置されるということにもなりかねません。温泉場では、観光の呼び水として地熱発電を位置づけるという考え方もあるのでしょうが、小規模の地熱発電があるからといって必ずしも客を呼べるわけではありません(やり方はあるかもしれませんが)。


日本一長い足湯
僕は、再生可能エネルギーは経済性が成り立たない限り長期的な普及はしないし、産業としての発展は見込めないと思っています。その点、小規模地熱発電は、現状のままでは厳しいと思います。新たな掘削ができず、低い温度と少ない湯量での発電を余儀なくされ、その上、設備ごとに、メンテナンスコストと人件費がのしかかってきます。これでは経済性を実現するのは不可能です。


ただ、多くの小規模発電を集中して管理、メンテナンスできるような仕組みができれば、ランニングコストはかなり縮小されるかもしれません。後は、何とか効率的な発電の条件(温度と湯量)を整えることだと思います。42円という破格の買い取り価格を活用して、地元が潤うようになれば、地熱開発に対する抵抗も少なくなっていくかもしれません。


小規模地熱開発でエネルギー問題が解消されることはありえません。エネルギー問題の解決に寄与するには、大規模の地熱開発が必要です。そこにいたるまでの橋渡しとして小規模発電を位置づけることはできるかもしれません。そのためにも地元が大きく潤う仕組みが必要です。そうでなければ、結局「地熱なんて何もよいことはない」といって、これまで通り脇に置かれ続けることになると思います。(青島矢一)