2012年10月23日火曜日

サムスンの水ビジネス参入(積田淳史)

 2012年9月16~21日、韓国でInternational Water Association主催のIWA World Water Congress & Exhibitionが開催されました。このタイミングで、韓国企業の雄・サムスングループが、水ビジネスに参入することが発表されました(参考:NHK時事公論)。




 NHK時事公論、Business Journalなどによれば、サムスンは東レ・旭化成などが世界シェアの40%前後を握る「逆浸透膜(RO膜)」を利用した技術で、水ビジネスに参入するそうです。

図1 水ビジネス参入を決めたサムスングループのロゴマーク

 RO膜は本ブログでもたびたび取り上げているように(参考:沖縄海水淡水化センター訪問記事海水淡水化の産学間技術移転記事など)、日本企業の水ビジネスにおいて要となる可能性を持った重要な技術です。しかしながら、東レ・旭化成の技術水準は世界的に見ても高いと言われているにもかかわらず、大きな成功を収めているとは必ずしも断言できない状況にあります(参考:シンガポールの水資源探訪3記事)。
その理由は様々なものが考えられますし、今後詳細に検討していかなければならないことですが、例えばシンガポールの水資源探訪5の記事でJST事務所の方々が語ってくれたように「日本企業の技術は高品質だけれどもコストが高いため、中品質低コストの技術に分が悪い」ことが指摘されれるでしょう。

 日本企業の水ビジネスがふるわない理由の一つであるコスト問題を考えたとき、サムスンの水ビジネスへの参入は大きな意味を持ちます。サムスンのRO膜市場参入により、韓国は海水淡水化に必要な技術を一通りそろえたことになるからです。

 経産省の水ビジネス国際展開研究会資料によれば、韓国政府は2000年頃より水ビジネス関連への投資を強化しており、特にプラント建設事業を手がける斗山社は世界的にも高いシェアを有しています。サムスンと斗山がどの程度の提携関係を築くかはわかりませんが、仮に手を組むとなると、日本企業にとって非常に強力な競争相手となりそうです。あるいは、建設から化学まで子会社を有するサムスングループが垂直的なビジネスを展開することもありえるでしょう。

 
図2 水ビジネス国際展開研究会編『水ビジネスの国際展開に向けた課題と具体的方策』,p10
(クリックで拡大)


 シンガポールや韓国が国家的支援のもとで水ビジネスを育成している状況を考えると、日本の水ビジネスは不利な立場に置かれているといえます。円高の状況を考えればコスト面で太刀打ちするのは困難だと考えられるので、いかに付加価値をつけていくことができるかが、日本の水ビジネスのカギとなるでしょう。

 例えばNHKの時事公論に書かれているように、水処理プロセスのみならず、配水(上下水道)、浄水、料金徴収など、より大きく総合的な視点からビジネスを展開していくのは有効な手段でしょう。地方自治体に蓄積されてきた水管理システムの「運営ノウハウ」は、他国の企業がアクセスしにくい貴重な資源です。法や権限の壁を越えていかに官民が協力できるかが、今後の重要な課題になりそうです。

 視点をより大きく拡げれば、電気、ガス、水道、通信など、都市インフラを丸ごと販売する手も、検討の余地があるかもしれません。まだ机上の概念にとどまっている「スマートシティ」の設計図を描くことができれば、そこには大きなビジネスチャンスが待っているはずです。

 シンガポールの水資源管理を調べ、そして今回のサムスンの水ビジネス参入を知って思うことは、国家レベルの支援の重要性です。コンシューマ・エレクトロニクスのように製品単価が小さい産業ではともかく、規模が大きいインフラ・ビジネスにおいては、既にイノベーションに必要な投資が一企業の手に負える範囲を超えているように思えます。

 これから、水ビジネスの展開は速く激しくなっていくと予想されます。その中でどう振る舞うか、日本企業は付加価値を捉えられるような戦略や立ち位置を考える必要がありそうです。

(積田淳史)