2012年10月17日水曜日

【研究会報告】高効率・高温ガスタービンの開発と工業化

CO2削減とイノベーション」研究会 
正田氏(中央)
  第15回研究会報告 2012.2.9


高効率・高温ガスタービンの開発と工業化」                        

正田淳一郎 氏 

(三菱重工業㈱ 原動機事業本部ガスタービン技術部 部長)



2009年9月、当時の日本国首相は、国連の演説において、2020年までに温室効果ガス排出量を1990年比25%削減する」という目標を、国際公約として掲げた。昨年の大震災を承けて、公約撤回の動きもないではないが、この25%の削減案は、原子力発電所の新設を前提にしても大きな足かせといわざるをえない。そもそも日本の場合、CO2削減に関する意識がすでに高く、技術革新も相当に進んでいる、という現状があるからである。そこで、今回の研究会では、火力発電におけるガスタービンの高温・高効率化世界一を実現した、三菱重工業の正田氏にお越しいただき、その開発経緯とそれを支える問題意識、さらには将来的な展望について詳しくお話をうかがった。

★★ 講演録として、より詳しい内容を「リサーチ・ライブラリ」にて公開しています ★★      
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         http://pubs.iir.hit-u.ac.jp/ja/pdfs/portal?lid[]=13


【講演要旨】

ガスタービン(C1)を用いた火力発電において、近年、増えているのが、ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせたコンバインドサイクル発電(C2)である。ガスタービンを使って発電した後、その排熱を利用してつくった蒸気で蒸気タービンを回転させ、もう一度電気をつくるという発電方式である。高効率のガスタービンは、高い排ガスエネルギーを有するので、そこに蒸気タービンを組み合わせれば、高いプラント効率を達成できる。すなわち、同じ量の燃料でも、通常の火力発電より多くの電力をつくることが可能になるため、結果としてCO2の排出量を抑えることにつながるわけである。



地球温暖化 防止の上からCO2削減が世界的な課題になっている今、三菱重工業がガスタービンの開発に力を注いでいる意義も、まずはこの点にある。しかし、理由はそれだけにとどまらない。化石燃料のなかで最も燃費のよいガスタービンは、コストを安く抑えることができる。加えて、発電量が変えやすいという点で運用性が非常に高く、必要に応じて発電量を調整しやすいため、再生エネルギー増加で発電量変動増加が予想されるなか、そのニーズも高まっている。さらには、震災の影響もあり、建設期間が非常に短く、緊急時などの対応性がよいことも、ガスタービンの特徴として注目を集めつつある。


ただし、高温で焚けば燃費がよくなり、CO2排出量も抑えられるとはいえ、高い温度で長時間、発電しつづけるという状況は、高温下でのガスタービン自体の耐久性、および、NOx(窒素酸化物)発生による環境負荷といった問題を生む。三菱重工では、タービンの羽根(C3)のデザイン、コーティング、材質に独自の工夫を施しているほか、空気と燃料を混合させて燃焼させる予混合燃焼器(C4)にも工夫を盛り込むなど、いくつかのキーテクノロジーによって問題を解決しつつ、NOxでありながら、タービン入口温度1600℃、熱効率61.5%という、世界最高レベルの出力と効率を実現した。



また、開発プロセスとしては、研究・開発・実証実験の各部門を一つのエリア(高砂)に集約させており、組立工場の横に実際の発電所をつくって、初号機の運用を検証しつつ開発を進めている。さらに、国のプロジェクトとして補助金を得ながら要素技術開発を推し進め、それらを順次適用して性能向上に努めており、1700℃級超高温ガスタービン実現の可能性も見えはじめている。その一方で、太陽熱とガスタービンを組み合わせるなど、従来の技術的な蓄積を活かして新たな取組み(C5)への着手も進めている。


 (文責:藤井由紀子)



                                        












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