2012年8月9日木曜日

中国太陽電池のコスト構造:サンテックパワー訪問(2)(青島矢一)


2012年8月6日

 今回、サンテックでは、主として太陽電池の原価構成と日本市場に対する考え方に関してヒアリングを行いました。




まずは原価構成について。前回の訪問では、無錫の中小企業である愛多科技で細かい原価構成を聞きましたが、最近はさらに価格が下がっており、そのとき聞いた価格よりもサンテックの価格の方が低いという状況でした。

発電所向けに出荷される多結晶シリコン型モジュールの工場出荷価格は、今年度の第一/第二四半期で0.8ドル/W、第三/第四四半期で0.7ドル/Wとのことでした。日本円にして60円程度です。1kwに換算すると6万円です。非常に安いです。単結晶シリコン型の場合には0.9ドル/Wとのことです。

ただ、サンテックでは、0.7ドル/Wという出荷単価は原価割れだそうです。0.7ドル/Wは現在の出荷価格であると同時に、当面のコスト目標でもあるといっていました。他社の出荷価格は既に0.65ドル/Wとなっているため、コストダウンは喫緊課題となっています。

0.8ドル/Wのコストの内、0.4ドルがシリコンウェハ、0.25ドルがその他の材料で、残りの0.15ドルの内、3割は設備費用、7割が人件費とのことです。太陽電池モジュールの8は材料費です。それゆえ大幅なコストダウンには限界があります。

サンテックではシリコンウェハの5割を内製しています。子会社でシリコン材料からインゴットを生産し、ウェハに加工しています。残りの5割のシリコンウェハは外部の企業から購入しています。江蘇省や浙江省の企業から購入しているとのことで、大きいところでは江蘇省の保利鑫(ポーリーシンシンと聞こえました)という企業があります。

シリコン原材料の5割は国内で調達しており、残りの5割は韓国と米国から輸入しています。国内の生産拠点は(公害の問題などから)、炭坑がある内陸に移っています。

シリコン以外の材料はほとんど中国国内で調達しているということです。一部、品質要求の厳しい部材は海外から調達しています。

フレームと化学品は地元の無錫市で調達しています。ガラスは近隣の浙江省から購入(耀华玻璃厂という企業)。製造設備に関しても、現在は、ほぼ国産設備でまかなっているとのことでした。以前は4割が国産で6割が海外製だったそうです。

今年の7月から固定価格買い取り制度の始まった日本市場に関する戦略を聞いたところ、日本での販売はすべて子会社のMSKが担当しているのでよくわからないとい返事でした。日本市場はMSKが一手に引き受ける特別な市場なようです。ちなみに日本市場では利益を出しているということでした。ヤマダ電機がサンテックの商品を扱っていますが、日本製品とあまり価格差がないので不思議だと思っていますが、さまざまな規制への対応、日本の屋根への対応などで高コストになっているだけでなく、MSKの市場戦略(価格戦略)も関係ありそうです。調べてみたいところです。(青島矢一)

中国太陽電池企業の低迷:サンテックパワー訪問(1)(青島矢一)


2012年8月6日





3月に引き続き中国の無錫を訪問して太陽電池産業に関する調査を行いました。最初に訪問したのは世界シェアトップの太陽電池企業であるサンテックパワー。購買部門の部長さんと課長さんに話を聞きました(といっても30歳代前半です)。あまり偉い人に話を聞くよりも、実際に事業をまわしている人に話を聞いた方がいいです。大変細かいことまで教えてくれました。

現在、サンテックに限らず多くの中国の太陽電池企業が苦境に陥っています。サンテックも大変厳しい経営状況にあります。2012年の第一四半期の売り上げは、前年同期の売り上げ8億7,700万ドルから50%以上も減少して、4950万ドルとなっており、営業利益も9,450万ドルから1億1,920万ドルの赤字に転落しました。

2011年は64500万ドルの営業損失に、101,800万ドルの純損失を計上しています。201112月末時点で、52290ドルの債務超過に陥っており、新たな資金調達ができなければ、事業の継続が難しい状況にあります。無錫では1万人を雇用していることもあり、深刻な問題となりつつあります。



欧州を中心に太陽電池の導入に関する政府の補助金が減少しており(ドイツにおける今年の買い取り価格は14-19円/kwhにまで低下)、その影響で海外市場が急速に縮小しています。販売のほとんどを輸出に頼っている中国企業はその影響を大きく受けており、サンテックに限らず中国企業は総じて赤字に転落しています。

さらに反ダンピング訴訟の問題が、追い打ちをかけるように、中国企業に打撃を与えつつあります。米国では商務省が5月に、中国製太陽電池に反ダンピング課税を課す仮決定を下しました。サンテックの製品には32.22%課税されることになっています。

加えて、現在、欧州においても中国製太陽電池に対する反ダンピング訴訟が起きています。欧州への売り上げが5割を占めるサンテックにとって、欧州でのダンピング認定はどうしても避けたいところです。

個人的には、これらの反ダンピング課税は、米国や欧州には国益をもたらさないと考えています。政策として国益を考える場合には、太陽電池の普及による経済効果と国内産業の競争力維持の間のバランスを考えることになります。中国企業の製品が輸入されることによって国内の太陽電池企業がすべて代替されてしまうのであれば、ダンピング課税もあり得ます。

しかし、太陽電池のモジュールコストが急速に低下しているため、最終的な発電システムに占めるモジュールのコストの割合はかなり下がっています。つまり、太陽電池事業の川上よりも川下における付加価値の割合が高まっています。さらに米国企業はサンテックなど中国企業にシリコン材料を大量に販売しています。太陽光発電事業全体のバリューチェーン全体の中で、中国企業はパネルの賃加工を担当しているだけだともとらえることができます。

ダンピング課税によって太陽電池の普及がとまれば、再生可能エネルギーへの代替が遅れるだけでなく、国内のシステム業者やシリコン材料企業が影響を受けます。

こうした状況では、安いモジュールを中国から輸入して、普及を促進した方が、国内の材料企業と川下産業を拡大して、全体的な付加価値の増大につながると思われます。そもそも、現状の結晶型太陽電池モジュールでは欧米/日本企業はコスト的に中国企業に全く太刀打ちできません。技術が枯れている(成熟した)結晶型では、当面国内産業を保護したとしても、結局のところ中国企業に負けることは目に見えています。保護政策に頼って、投資を拡大したりすれば、後々の傷口を大きくするだけです。

このことは日本の政策を考える上でも教訓だと思います。エネルギー問題の解決が喫緊の課題であればなおさらだと思います。(青島矢一)

2012年8月4日土曜日

「CO2削減とイノベーション」研究会について



 

magiccでは、「CO2削減をいかにイノベーションに結びつけるか」を研究テーマとして、年に5-6回のペースで研究会を開催しています。
地球温暖化とCO2削減が今後、日本経済や企業にどのような影響をもたらすのか。CO2削減を通じて、日本、および日本企業が、戦略的に日本国内に省エネ・低炭素社会のイノベーションや、未来の成長エンジンとなるイノベーションをどのように起こしていくのか。そのような問題意識に対して、各界より講師を招いてお話を聞き、産学官連携して融合的、学際的な視点で研究活動を深めていくことがその目的です。今後、magiccHP上でも、過去に開催された研究会の内容を、少しずつ紹介していく予定です。



研究会発足の経緯 

CO2削減とイノベーション」研究会は、東京大学の金子祥三氏(生産技術研究所特任教授)、三菱重工業㈱の黒石卓司氏(原動機事業本部次長/現・MDS代表取締役社長)、そして一橋大学イノベーション研究センターの米倉誠一郎(IIRセンター長)の3名が発起人となってスタートした研究会です。当時、米倉は経済産業省地球温暖化委員会の委員をつとめており、火力発電の専門家である金子氏、黒石氏とともに、最大のCO2排出源である火力発電をめぐるCO2削減のあり方を考えよう、というのがその発端でした。20095月、上記2大学と1社、さらに日本経済新聞社を加えて、産学連携共同研究会としてキックオフ・ミーティングを行いました。

その後、テーマを火力発電に絞ることなく、地球温暖化や日本のエネルギー政策などを広く議論する場にしたいという考えから、研究会の方向性を拡大させました。CO2削減をキーワードに、さまざまな方面からゲストスピーカーを招き、2年間で9回の研究会を開いて、各専門家の知見に学びつつ、議論を深めてきました。そして、その中間報告として20103月、約500名の一般参加者を集めて、シンポジウム「CO2削減と日本のイノベーション」(日経ユニバーシティ・コンソーシアム)を開催し、CO2削減と技術革新、CO2削減と国家戦略、それぞれの観点から研究会の成果を発表しました。


内閣府「最先端・次世代研究開発支援プログラム」との連携

 201010月、イノベーション研究センターは、グリーンイノベーション等の推進を目的として創設された、内閣府「最先端・次世代研究開発支援プログラム」に採択されました。研究代表者は青島矢一(IIR准教授)で、テーマはCO2削減と産業発展の両立を目指した企業経営・グリーンイノベーション・制度の探求」です。CO2削減と産業発展というのは、一見すると相矛盾します。しかし、環境関連産業など、この矛盾を解決するような新たな産業を創出し、経済的な付加価値を増大させるような形でそれを発展させていくことができれば、両立することは決して不可能ではありません。本プログラムでは、このような問題意識のもと、研究活動を進め、その成果を社会発信していきたい、と考えています。
 
そして、これにともない、「CO2削減とイノベーション」研究会も、本プログラムの一環として再スタートすることになりました。奇しくも、再スタート後まもなく、東日本は大震災に見舞われ、日本では電力需給の問題が非常に深刻になりました。そこで、2012年度以降の研究会活動では、電力供給側と電力需要側、それぞれの立場から技術革新や仕組み構築に取り組んでいらっしゃる方々をゲストスピーカーに招いて、CO2削減を念頭に、日本のエネルギー計画について再考するところから、まず議論を始めています。

(文責:藤井由紀子)



【研究会内容一覧】  第Ⅰ期 2009.5-2010.3

○第1回研究会 2009527(一橋大学商学研究科・産学連携センター
 三菱重工業㈱原動機事業本部サービス統括部 次長 黒石卓司 氏
 IIRセンター長 米倉誠一郎
  「CO2削減をめぐるイノベーションについて」
   ※IIR、東京大学生産技術研究所、三菱重工業、日本経済新聞社による
    産学連携共同研究会のキックオフ・ミーティング

○第2回研究会 2009625日(木)  一橋大学商学研究科・産学連携センター
 東京大学生産技術研究所 特任教授/元・三菱重工業㈱取締役技師長 金子祥三 氏
  「火力発電技術とCO2

○第3回研究会 20091113日(金) 佐野書院・マーキュリータワー
 新日本製鐵㈱ 常務執行役員 青木宏道氏
  「地球温暖化における国際公平性と確保と鉄鋼業の取り組みについて」
 三菱商事㈱ 環境・水事業開発本部 排出権事業ユニットマネージャー 中村剛 氏
  「三菱商事の排出権ビジネス―ポスト京都と国内中期目標―」

○第4回研究会  2010128日(木)  一橋大学商学研究科・産学連携センター
 NPO法人環境エネルギー政策研究所 代表 飯田哲也 氏
  「なぜ日本の環境政策は「3週遅れ」のガラパゴスなのか?
    ―モード3~リアリティに碇を降ろせ 環境エネルギー政策の全面的アップデートに向けて」

○第5回研究会  2010225(一橋大学商学研究科・産学連携センター
 経済産業省 清水淳太郎 氏
 「国際交渉の状況と国内対策の検討の視点」
 産業技術総合研究所  河尻耕太郎 氏
  「大局的なCO2排出量の削減に向けた太陽電池のグローバルサプライチェーンマネジメントの戦略と課題」

○シンポジウム 2010330日(火) 一橋記念講堂
「日経ユニバーシティ・コンソーシアム: CO2削減と日本のイノベーション」
基調講演① 岡本アソシエイツ代表/外交評論家 岡本行夫 氏
「国際社会の日本の立ち位置と環境問題」
基調講演② 三菱重工業会長 佃和夫 氏
CO2削減と日本のイノベーション」
パネルディスカッション①
CO2削減と国家戦略」
      江藤学、山内弘隆、中村剛、飯田哲也、澤沼裕、金子祥三 (以上、パネリスト)
      米倉誠一郎(モデレーター)
パネルディスカッション②
CO2削減芸術とイノベーション戦略・政策」
      青島矢一、赤羽雄二、松本毅、黒石卓司、藤原洋 (以上、パネリスト)
      米倉誠一郎(モデレーター)

○第6回研究会 2010727(一橋大学商学研究科・産学連携センター
 東京大学 生産技術研究所 特任教授 金子祥三 氏
 三菱重工業㈱ 原動機事業本部 サービス統括部 次長 黒石卓司 氏 
  「欧州におけるCO2削減の現状」
 
○第7回研究会 2010916() 一橋大学商学研究科・産学連携センター
 元・東京電力副社長 竹内哲夫 氏
  「原子力の現状と将来ビジョンについて」

○第8回研究会 20101119(一橋大学商学研究科・産学連携センター
 日本IBM㈱ スマーター・シティ技術戦略担当 執行役員 岩野和生 氏
  「CO2削減とスマートグリッド:IBMSmarter Planetの取り組みから」

○第9回研究会  2011224()   一橋大学商学研究科・産学連携センター
 三菱重工業㈱ 原動機輸出部 次長 河本英士 氏
  「CO2削減の一翼を担う地熱発電の現状は・・・」



【研究会内容一覧】  
第Ⅱ期 2011.5-


○第10回研究会 2011527日(金)  六本木アカデミーヒルズ
 東京大学生産技術研究所 特任教授 金子祥三 氏
  「大震災の教訓とエネルギー問題の課題と解決策」

○第11回研究会 2011624日(金)  一橋大学商学研究科・産学連携センター
 村上憲郎事務所代表/前グーグル日本法人名誉会長
 慶應義塾大学大学院特別招聘教授/会津大学 参与  村上憲郎 氏
  「スマートグリッドが切り拓く 新生スマートニッポン」

○第12回研究会 2011817日(水)  一橋大学商学研究科・産学連携センター
 NPO法人地中熱利用促進協会 理事長 笹田政克 氏
  「地中熱利用の普及に向けた課題」

○第13回研究会 2011121日(木)  六本木アカデミーヒルズ
 ㈱ジオパワーシステム 代表取締役 橋本真成 氏
  「日本ブランド地中熱利用換気システム」

○第14回研究会 201227日(火)  一橋大学商学研究科・産学連携センター
 ソーラーフロンティア() 執行役員 栗谷川悟 氏
  「太陽光発電の現状と可能性」

○第15回研究会 201229日(木)  一橋大学商学研究科・産学連携センター
 三菱重工業() 原動機事業本部 ガスタービン技術部長 正田淳一郎 氏
  「高効率・高温ガスタービンの開発と工業化」
  
○国際ミニシンポジウム 20123月27日(火) 一橋大学佐野書院
Sustainable Growth and Asian Energy Policy
Shozo Kaneko (Professor, Institute of Industrial Science, the University of Tokyo)
    “Japan's energy policy
   Hidefumi Nishigai (Engineer's Power to the Planet
    “Eco-Friendly Product Development
   Chetan Singh Solanki
 (Associate Professor,
Department of Energy Science and Engineering,Indian Institute of Technology, 
Bombay, India)
    “Energy Scenario and Renewable Energy Policy of India”
   Kei Kawase (Senior Manager, Science & Technology, IBM Research - Tokyo)
    “IT Evolution for Smarter Planet
   Patnaree Srisuphaolarn
(Lecturer, Department of International Business,
Logistics and Transport,Thammasart Business School, Thailand
    “Energy and sustainable business
   Yaichi Aoshima (Professor Institute of Innovation Research, Hitotsubashi University)
    “Balancing Energy Supply, GHG Reduction, and Industry Competitiveness
   Naohiko Wakutsu and Yaichi Aoshima
(Postdoctoral Fellow; Professor, Institute of Innovation Research, 
 Hitotsubashi University)
    “Energy and sustainable business(2) R&D and Emissions Trading

○第16回研究会 2012510日(木)  一橋大学商学研究科・産学連携センター
 ㈱デンソー 研究開発1部 DPマイクログリッド開発室長 金森淳一郎 氏
  「マイクログリッドにおけるデンソーの取り組み」

○第17回研究会 2012614日(木)  一橋大学商学研究科・産学連携センター
 ()電力中央研究所 社会経済研究所<エネルギー技術政策領域> 
  主任研究員 朝野賢司 氏
  「固定価格買取制度の展望と課題」





2012年8月2日木曜日

【研究会報告】スマートグリッドが切り拓く 新生スマートニッポン

CO2削減とイノベーション」研究会 
  第11回研究会報告  
2011・6.24

 「スマートグリッドが切り拓く新生スマートニッポン」  村上憲郎 氏

(村上憲郎事務所代表/前グーグル日本法人名誉会長

慶應義塾大学大学院特別招聘教授/会津大学参与)



2011年3月、東日本の発電所の大半が大震災によって停止するという事態となり、日本では深刻な電力不足に陥った。特に、7月以降、政府は節電対策として、大手企業に対して一律15%の節電義務を課したほか、一般家庭に対しても同程度の節電目標を設定した。しかし、その一方で、電力の使用制限がもたらす経済活動への打撃も懸念されはじめており、節電をただ強いるのみの方策が有効であるとは到底考えられない。そこで、今回の研究会では、「スマートメータ制度検討会」の中心メンバーである村上氏をお迎えし、ネガワット取引制度(デマンドサイドでの電力コントロール体制)をめぐって、先駆者であるアメリカの状況と、日本での取り組みの現状について率直に語っていただいた。


【講演要旨】 

2020年をターゲット年度として、世界主要各国ではインターネットを利用したスマートグリッド(次世代送電網)が注目を集めている。特に、アメリカのエネルギー省では、2000年のカリフォルニア州電力危機をうけて、デマンドレスポンスという新しい仕組みを構築した。消費電力の見えるスマートメータ(インターネットに接続されたデータのアップ機能をもつ検針メータ)を通じて、需要側の電力の消費状況をつねに監視し、電力需給のバランスをとるという手法で、市場メカニズムによって電力需要を削減できる、というところに特徴がある。

電力使用のピーク時に家電製品の稼動を制限したり、余剰電力の蓄エネルギーを行うなどして、需要側が削減した電力をネガワットと呼ぶが、アメリカでは発電所からの供給電力(メガワット)と、このネガワットとが同等の価値で市場取引されている。インターネットを活用することで、電力需要者にとっての節電を、強制的でボランティア精神に訴えるものではなく、Win-Win型のビジネスとした点、いかにもアメリカらしい合理的な手法といえる。

実のところ、日本でも、電力不足を補うため、新しい発電所を建設するのではなく、ネガワット節電所(スマート節電所)をつくろうという動きは、経済産業省資源エネルギー庁の「スマートメータ制度検討会」など、震災以前から検討されてきている。ただし、従来の日本では、十分な発電設備容量を常に準備するという安定供給体制に力が注がれてきており、震災後も原子力、火力に代わって安定供給体制に足るものは何か、という方向で議論が進められがちである。

しかし、消費電力の“見える化”を図り、需要をコントロールするデマンドレスポンスという仕組みを構築すれば、発電所建設に頼ることなく、電力の受給をバランスし、かつ、利用者の節電のインセンティブを掘り起こしていくことができる。さらに、ネガワット市場が創設されていけば、電力の予測事業など、多様な電力事業者の参入機会*が増えて、新たな電力インフラが整備されていくことにもつながる。日本を襲った今回の危機ですら、あるいはチャンスに変えていくことも可能になるのである。 

                                      (文責:藤井由紀子)