2014年5月23日金曜日

小型地熱・温泉発電の可能性(8):別府再訪

2014年5月22日

FIT設備認定の地熱発電の第一号であるバイナリー発電の様子を見ることと、新たな発電設備の導入があるということで、別府の瀬戸内自然エナジーを再訪問しました。





前回見学した神戸製鋼製のバイナリー発電機は今回も稼働していました。以前にブログで書きましたように、ここは、温泉の温度、泉質、冷却水、泉源までの距離、送電線などの条件がすべて整った条件のよい場所です。それでも問題がまったくないわけではないそうです。


バイナリー発電では、熱交換器のところで温泉水から析出したスケールが詰まってしまうという問題がよくあるのですが、ここでは温泉のスケールが問題になるというよりは、冷却水の成分が悪さをして、稼働率が落ちるようです。森川社長は、「(稼働は)だいたい8割くらいですかね」といわれていました。確かに前回に比べて8割弱の出力(40kW強)となっていました。これですと、買取価格40円/kWで、金利を考慮しなくても、回収には8年くらいはかかると思います。


この神戸製鋼の機械の隣に、今回は米国のアクセスエナジーの装置(Thermapower 125、第一実業が国内販売)が設置されていました。来月から稼働するそうです。こちらは、125kWの出力で、神戸製鋼製に比べて、熱交換器も3倍以上の大きさでした。神戸製鋼の装置と併設されており、泉源と温泉タンクは共有しています。それゆえ、配管工事にかかる費用はかなり節約できていると思います。

熱交換器


アクセスエナジー製タービン

投資額は16,000万円、その内、発電設備関連(配管工事含めて)にかかる費用が12,500万円とのことです。神戸製鋼の場合には72kW8000万円くらいということでしたので、kW単価では同じくらいです。神戸製鋼の場合には、所内電力を引いて、低圧接続を考えて、送電端を48kWにしていました。アクセスエナジーの方は将来的には高圧で接続するので、100kWくらいの出力になるのではと思います(現状は低圧の設備認定しか受けていないので、まずは低圧向けに出力を抑えて稼働し、その後、高圧で設備認定を受けた上で出力をあげるということです)。安定的に発電できれば、現状のFITの買取価格であれば、十分なリターンが得られるはずです。


アクセスエナジーを選択した理由は「現状では他に選択肢がない」ということ、また、今回は特に稼働率を重視したことだといわれていました。アクセスエナジーは世界で販売してきた実績があります。日本でも山梨の焼却炉で実証されており(こちらは焼却炉むけのXMT125)、稼働の信頼性が高いということです。Themapower にはギアがなく、タービンの回転部分は磁気軸受で保持されています。抵抗がなく回転することが、信頼性につながっているというのが売りです(http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1305/24/news037.html)。


いくつか日本メーカーも小型バイナリー機を発売していますが、安定的な稼働という点ではまだだという意見でした。このあたり日本企業にがんばって欲しいと思いました。


瀬戸内自然エナジーの会社のすぐ裏では、もう1つ別の工事が行われていました。こちらは、コスモテックによる発電所の開発です。アクセスエナジーのThermapower4基導入する予定で、合計500kWの発電所になります。瀬戸内自然エナジーは、ここに、熱(泉源)、冷却水、土地を提供します。泉源は、以前みせていただいたもので、湯量が多く、現状ではかなりお湯を捨てています。それを配管で運んでくることになります。


コスモテック発電所向け温泉タンク
コスモテックの発電所建設



神戸製鋼製装置の場合には、保守をすべて神戸製鋼にまかせているのであすが、アクセスエナジーは海外メーカーですので、保守は、日本の第一実業にお願いする他、コスモテックの人が直接米国にいって、研修を受けているということでした。

コスモテックの発電所の横には、大きな櫓が組まれており、新たな温泉の掘削も進んでいました。深さ600mの温泉井戸です。予備として掘っているとのことでした。これ以外にも、近辺では、最近2本の新たな温泉井戸を掘ったそうです。このあたりはまだまだポテンシャルがありそうです。工事では周りに配慮して、近隣住民に、温泉をただで配っているそうです。


今回再訪してみて、温泉地熱発電はやはり簡単ではないなと思いました。瀬戸内エナジーさんは様々な自然条件が整っている希有な例だと思います。また発電事業者が、温泉の配湯事業者であるということから、温泉がもたらす様々な問題を理解しているという点でも、有利な事例です。見学を案内してくれた方が、しきりに「40年以上も温泉で苦労してきたからこそできる」といわれていたのが印象に残っています。それでもまた課題があるということですから、温泉地熱の広がりには限界があるように思います。(青島矢一)