2014年5月28日水曜日

小型地熱・温泉発電の可能性(10):小国わいた温泉再訪

2014年5月24日



熊本県小国町のわいた温泉を再訪しました。熊本県といっても昨日訪問した九重町の菅原地区からは車で15分程度です。


わいた温泉というと、以前ブログで紹介しました、中央電力とわいた会が地元還元型の独自のスキームで進めている2MWのフラッシュ発電所があるところです。再訪の当初の目的は、この発電所が今月稼働するということでしたので、その状況を見学することでした。しかし、この発電所が、蒸気の出力不足で予定どおりには稼働できなくなりました。新たな井戸を増掘して、秋以降に稼働するとのことでした。地元還元型のスキームには非常に期待していただけに残念ですが、稼働したらまた見に行きたいと思います。

稼働が延期となったわいた温泉のフラッシュ発電所

今回の再訪の別の目的は、この4月に稼働を始めた小型バイナリー発電所を見学することでした。これは、わいた温泉はげの湯にある旅館の「まつや」さんに設置されたもので、IHI製のバイナリー発電機を3機並べています。IHIのバイナリー発電装置(製品名:ヒートリカバリー)は昨年の8月から販売を始めているもので、まつやさんへの導入が最初の例だと思います。

IHIのバイナリー発電装置

まつやさんでは、ずっと大量の余剰蒸気を捨てていたので、それを何か活用できないものかと思っていたところ、社長さんの知り合いのお兄さんの会社から地熱発電の話があったということでした。これが一昨年のことです。


3機合わせて送電端出力が60kWですので、ほぼ、瀬戸内自然エナジーや小浜温泉などに設置されている神戸製鋼製のバイナリー装置1機分に相当します。所内電力が16Wくらいとのことでしたので、差し引けば、低圧接続での50W以下に収まります。


残念ながら本日は稼働していませんでした。タービンのトラブルでIHIによる確認修理の最中とのことでした。しかし、4月に運転を始めた時には最大出力を超える出力がでていたということでした。


ここは温泉に入るとわかるのですが、スケールが全くでていません。また蒸気が多く、IHIの装置も蒸気タイプのものだといっていました。ゆえにスケールに悩まされることはありません。


装置は建屋に納められており、その建屋のすぐ横に、源泉があります。したがって、源泉からの配管も短く、初期投資が抑えられています。冷却水は地下水を使っています。水が豊富というわけではありませんが、冷却等に補充するには問題ない量があります。蒸気の温度は107℃。こう考えますと、かなり条件が整っています。


建屋は外からみるとガレージにしかみえません。稼働中も外からは音がほとんど聞こえないそうです。これであれば、近隣に迷惑がかかることはなさそうです。

表からの外観
裏側:泉源から配管

初期投資額は基礎工事から配管工事、設備本体など、すべて含んで7,000万円です。設備自体は11,000万円、3機で3,000万円くらいだと思いますので、配管工事など、本体以外の費用が大きいです。これはどこのバイナリー発電施設でも同じです。いくら設備本体が安くなっても、経済性が向上せず、普及しない主要因です。


ここは規制緩和の対象からはずれているので、発電所としての工事申請をおこなわなければならず、大変苦労したといっていました。


運営:合同会社小国まつや発電所
この発電所の場合、ファイナンスのスキームが少々ユニークです。まず、まつやさんと保守メンテナンスを行うケイ・エル・アイが共同でSPC:「合同会社小国まつや発電所」を設立しています。このSPCに対して、ケイ・エル・アイの親会社である九州リースが設備を一式リースしているという形となっています。


それゆえ、まつやさんは初期投資分の現金を用意する必要はありませんし、発電しなくなったときに全ての負担を抱えることにはなりません。これは、あくまでも旅館が本業であり、本業に影響を与えない範囲で、余剰の蒸気を活用したいという考えに基づいています。また、熊本の銀行は泉源を担保として認めないため、銀行融資が難しいという事情もあるようです。


ランニング費用とリース料がわからないので経済性の計算はできませんが、ランニングコストを全く無視しますと、40円/kWhでの売電が続く15年間のIRR13%くらいになります(初期投資7,000万円。送電端出力の60kWから所内電力16kW差し引いて出力44kW。稼働率を70%として年間発電量が308,000kWh。売電額は年間1,230万円)。ただタービンとポンプのメンテナンスや交換に費用がかかる上、リース会社の金利・手数料は銀行借り入れの場合より高く、合同会社で運営していることからまつやさんが大儲けするというものではなさそうです。いずれにせよ40円/kWhという買取価格がなければ成り立たない事業です。



ここは確かに条件がいいので、まつやさんに続いて、既に2件ほど話が進んでいるとのことでした.少し規模の大きなものもできるようです。(青島矢一)

2014年5月25日日曜日

小型地熱・温泉発電の可能性(9):九重町菅原地区バイナリー発電

2014年5月23日




現在、わいた山の麓、九重町の菅原地区で5,000kWのバイナリー発電の建設が進んでいます。開発しているのは、九州電力の子会社の西日本環境エネルギーで、JOGMECの債務保証の対象案件となっています。現場を見学させてもらい、開発の経緯など簡単に説明していただきました。


九重町役場で待ち合わせをして、現地まで車でいきました。現地までの途中では牧歌的なすばらしい景色が広がっていました。九重のあたりは本当に美しいです。


仮事務所からの景色

開発場所はもともとNEDOが地熱調査をしていたところです、NEDOが掘削して、その後に九重町が譲り受けた生産井2本と還元井1本が今回の発電所向けに使用されます。H22年度頃から九重町から九電に話がもちこまれて、その後、噴出調査と周辺温泉への影響調査を経て、H251122日に、広瀬勝貞大分県知事立会のもと、西日本環境エネルギー、九州電力、九重町の3者で「菅原地区における地熱発電事業に関する基本協定」が結ばれ、具体的な開発が始まりました。


生産井の蒸気温度は2本とも160℃、井戸の深さは800mです。還元井の深さは600mです。


地熱井

5,000Wの発電所といえば、それなりの大きさで、現地の工事の様子からも、その規模がうかがえました。発電所の建設場所は、山の中をかなり奥に入ったところなので近くに集落はみえません。それでも、周辺には多くの温泉場があるので、開発に対する反対する意見もあったのではないかと質問しましたが、反対はほとんどなかったそうです。


工事の様子


開発主体に九重町が含まれており、住民には九重町の役場の人が直接説明に出向いたことがよかったのではという意見でした。たぶんそのとおりだと思います。地熱発電の開発では、自治体が開発を推進はするものの、住民との関係では中立の立場を保つため、住民への説明には積極的に関与せず、その結果、住民の人たちの同意が得られないことはあります。


九重町の資金負担はありません。町は発電所に熱供給をする立場であり、熱の代金が、九重町に支払われるという形になります。したがって、発電が成功すれば、九重町にもお金は落ちますし、住民も恩恵を受けることができます。


5,000kWの出力を予定していますが、ポンプなど所内にかかる電力に1,000kW分とられるということですので、売電できる量は最大でも4,000kWとなります。FITの設備認定も4,000kWにとなっています。これでたとえば稼働率が80%だとすると、年間の売電額は、40円/kW(税抜)の買取価格で11億円くらいになります。割引率を3%として15年で収入は約131億円です。開発費は機密事項とのことでしたので残念ながら採算性は計算できません(JOGMECの債務補償額は40億円ですが、これは開発費の一部と書かれていますので、全体額がわかりません)。


FITなしでも成り立つのかという点が最も知りたいところなのですが、それはわかりません。電柱の設置を含めて送電線を引っ張ってこなければならなかったことに加えて、系統連携にかかる負担の大きいようです。太陽光発電バブルで、電力会社が新たな系統連携に追加的な投資をしなければならなくなっています。その場合には、発電事業者にも負担が求められます。太陽光バブルが地熱開発にも影響している一面です。


経済性の詳細がわからないので何ともいえませんが、この規模ですと、環境アセスメントの必要もありませんし、住民の同意も得やすいと思います。30MWとか50MWといった大規模発電の開発を1015年かけて苦労して進めるよりは、数メガワット規模の発電所をたくさんつくる方が早いのではないかとは思います。実際、ここは、開発を始めて1年で稼働する予定となっています。



ただきちんとした経済性の評価が必要です。(青島矢一)

2014年5月23日金曜日

小型地熱・温泉発電の可能性(8):別府再訪

2014年5月22日

FIT設備認定の地熱発電の第一号であるバイナリー発電の様子を見ることと、新たな発電設備の導入があるということで、別府の瀬戸内自然エナジーを再訪問しました。





前回見学した神戸製鋼製のバイナリー発電機は今回も稼働していました。以前にブログで書きましたように、ここは、温泉の温度、泉質、冷却水、泉源までの距離、送電線などの条件がすべて整った条件のよい場所です。それでも問題がまったくないわけではないそうです。


バイナリー発電では、熱交換器のところで温泉水から析出したスケールが詰まってしまうという問題がよくあるのですが、ここでは温泉のスケールが問題になるというよりは、冷却水の成分が悪さをして、稼働率が落ちるようです。森川社長は、「(稼働は)だいたい8割くらいですかね」といわれていました。確かに前回に比べて8割弱の出力(40kW強)となっていました。これですと、買取価格40円/kWで、金利を考慮しなくても、回収には8年くらいはかかると思います。


この神戸製鋼の機械の隣に、今回は米国のアクセスエナジーの装置(Thermapower 125、第一実業が国内販売)が設置されていました。来月から稼働するそうです。こちらは、125kWの出力で、神戸製鋼製に比べて、熱交換器も3倍以上の大きさでした。神戸製鋼の装置と併設されており、泉源と温泉タンクは共有しています。それゆえ、配管工事にかかる費用はかなり節約できていると思います。

熱交換器


アクセスエナジー製タービン

投資額は16,000万円、その内、発電設備関連(配管工事含めて)にかかる費用が12,500万円とのことです。神戸製鋼の場合には72kW8000万円くらいということでしたので、kW単価では同じくらいです。神戸製鋼の場合には、所内電力を引いて、低圧接続を考えて、送電端を48kWにしていました。アクセスエナジーの方は将来的には高圧で接続するので、100kWくらいの出力になるのではと思います(現状は低圧の設備認定しか受けていないので、まずは低圧向けに出力を抑えて稼働し、その後、高圧で設備認定を受けた上で出力をあげるということです)。安定的に発電できれば、現状のFITの買取価格であれば、十分なリターンが得られるはずです。


アクセスエナジーを選択した理由は「現状では他に選択肢がない」ということ、また、今回は特に稼働率を重視したことだといわれていました。アクセスエナジーは世界で販売してきた実績があります。日本でも山梨の焼却炉で実証されており(こちらは焼却炉むけのXMT125)、稼働の信頼性が高いということです。Themapower にはギアがなく、タービンの回転部分は磁気軸受で保持されています。抵抗がなく回転することが、信頼性につながっているというのが売りです(http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1305/24/news037.html)。


いくつか日本メーカーも小型バイナリー機を発売していますが、安定的な稼働という点ではまだだという意見でした。このあたり日本企業にがんばって欲しいと思いました。


瀬戸内自然エナジーの会社のすぐ裏では、もう1つ別の工事が行われていました。こちらは、コスモテックによる発電所の開発です。アクセスエナジーのThermapower4基導入する予定で、合計500kWの発電所になります。瀬戸内自然エナジーは、ここに、熱(泉源)、冷却水、土地を提供します。泉源は、以前みせていただいたもので、湯量が多く、現状ではかなりお湯を捨てています。それを配管で運んでくることになります。


コスモテック発電所向け温泉タンク
コスモテックの発電所建設



神戸製鋼製装置の場合には、保守をすべて神戸製鋼にまかせているのであすが、アクセスエナジーは海外メーカーですので、保守は、日本の第一実業にお願いする他、コスモテックの人が直接米国にいって、研修を受けているということでした。

コスモテックの発電所の横には、大きな櫓が組まれており、新たな温泉の掘削も進んでいました。深さ600mの温泉井戸です。予備として掘っているとのことでした。これ以外にも、近辺では、最近2本の新たな温泉井戸を掘ったそうです。このあたりはまだまだポテンシャルがありそうです。工事では周りに配慮して、近隣住民に、温泉をただで配っているそうです。


今回再訪してみて、温泉地熱発電はやはり簡単ではないなと思いました。瀬戸内エナジーさんは様々な自然条件が整っている希有な例だと思います。また発電事業者が、温泉の配湯事業者であるということから、温泉がもたらす様々な問題を理解しているという点でも、有利な事例です。見学を案内してくれた方が、しきりに「40年以上も温泉で苦労してきたからこそできる」といわれていたのが印象に残っています。それでもまた課題があるということですから、温泉地熱の広がりには限界があるように思います。(青島矢一)