2012年5月18日金曜日

電力中央研究所での会合(青島矢一)

2012年5月18日

今日は電力中央研究所に呼ばれて、徳島大学の松嶋さんと一緒に、NEDOプロジェクトの研究に関するプレゼンをしてきました。電中研ではエネルギー政策の効果に対する関心から、われわれの研究に興味をもってくれたようです。


電中研で話をするのは2度目です。1度目は先月。一橋ビジネスレビューに書いた「環境、エネルギー、産業競争力の両立を考える──ミクロの視点の重要性」という論文の話をしました。


われわれの発表の後には、電中研の木村さんが「エネルギー技術開発プロジェクトの役割とその評価」というプレゼンをしてくれました。1974年から2002年までに国家プロジェクトとして投入された国の資金によって、どれだけの省エネ効果またはCO2削減効果があったのかという試算がありました。想像がつくことですが、ほとんどの効果は太陽熱温水器、ガスタービン、廃熱利用、地熱発電といった既存技術の改良から生じているというデータでした。


もちろん、こうしたデータは今後変わってくるでしょうし、太陽光や燃料電池などの新エネルギーや新技術の開発を促進することは重要だと思いますが。ただ既存技術の改良の積み重ねが大きな効果をもつこともきちんと認識しておくことが必要だと思います。


木村さんの発表とわれわれの発表で共通していたことは、政府支援の効果は、企業の本気度によって左右されるということです。考えれば当たり前のことです。


企業が見限った技術を、技術者の個人的な興味におつきあいして、開発資金を政府が肩代わりするようでは、さすがにうまくいきません。それでたとえ新しい技術がでてきても、社内で事業化に向けた資源動員が正当化されませんので、事業化できず、死蔵されてしまいます。


研究開発にかかる費用と量産・事業化にかかる費用は桁が違うわけです。事業化に向かうには企業の上層部のコミットメントが重要になります。政府支援を判断する段階でそれをきちんと見抜けるかどうかが重要だと思います。


本気でなければ、事業化にかかる大きな投資をするつもりがないのですから、政府支援で技術が開発されても、最後にはしごを外されることになりかねません。一方、企業が本気で新技術を事業化しようと考えており、開発に伴う一部の資金を国に支援してもらうという場合には、開発が加速されて、うまく事業化に結びついているようです。


もちろん基礎研究に対する支援はそれに限りません。ただし、日本型バイドール法の制定によって、開発技術の権利を企業側が専有できるようになったことで、基礎研究の成果の社会的波及を阻害しているか可能性はあります。日本型バイドール法によって企業が競争的技術に関しても政府支援を受けやすくなったことは確かですが、その弊害も考えられるということです。


経済的な問題が山積み状態では、長期的な経済への影響を考えずに純粋に科学技術の発展を目指した政府支援というのはなかなか難しくなっています。文科省の予算でさえ、基礎よりも応用に傾斜しているという話を聞きます。それはそれでゆゆしき問題ですが、長期的な経済への影響を考えた上での科学技術政策がこれまで欠けていたことも事実だと思います。


政策が、社会的な価値を生み出す技術開発を促進し、またその技術を武器に日本を拠点とする企業が付加価値を生み出し、国富として還元される。こうしたシナリオを描くことが重要で、それには技術の性質、技術開発の現場、競争の実態など、ミクロレベルでの詳細な女医右方を積み上げる必要があると思います。Magiccの目的がここにあります。

(青島矢一)




(青島矢一)