2012年12月23日日曜日

【研究会報告】アジアからはじまるEV革命と日本ベンチャーの使命



CO2削減とイノベーション」研究会
  第18回研究会報告 2012.10.30

「アジアからはじまるEV革命と日本ベンチャーの使命」

 
徳重徹 氏

Terra Motors㈱ 代表取締役社長


昨年の東日本大震災は、下降していた二輪車の需要を一気に押し上げた。移動手段としての有効性、維持費の安さに再び注目が集まったためであるが、折からのガソリン高騰を承けて、特に需要を伸ばしたのが電動スクーターである。そこで、今回の研究会では、現在、電動スクーターで国内シェアトップを誇る、テラモーターズ㈱の徳重徹氏にご登場いただいた。ただし、本来、同社は、最初から海外市場獲得を狙って起業されたボーングローバル企業である。ベンチャーの役割とはいかなるものか、EV(電気自動車)やアジアの環境問題にビジネスチャンスをいかに見出したのか、本研究会でもそうした視座からじっくりとお話をうかがった。


★★ 講演録として、より詳しい内容を「リサーチ・ライブラリ」にて公開しています ★★      
    ↓ 「リサーチ・ライブラリ」へのリンクはこちら  (研究会・講義録項からダウンロードください
         http://pubs.iir.hit-u.ac.jp/ja/pdfs/portal?lid[]=13


【講演要旨】

EVスクーターで、現在、日本国内№1のシェアを持つテラモーターズは、2010年に設立されたばかりのベンチャー企業である。シリコンバレーのインキュベーション企業において、技術系のベンチャーのハンズオンを手掛けた経験をもとに起業した会社で、高いビジョンと日本再生の気概、戦略的思考とスピードを武器に、中国の協力工場に生産拠点を確保し、アジアでの市場獲得と量産体制構築を目指してフィリピン、ベトナム、台湾でEVスクーター事業を展開しつつある。


「日本のベンチャーで急成長する事例を作りたい」というのが起業の動機である。ベンチャーの重要性はシリコンバレーの例に見る通りで、ベンチャーの成功は雇用と税収を生んで国を引っ張っていくだけでなく、成功したベンチャーからスピンアウトした人が新たに起業することで、どんどん産業を作りだしていくことができる。そして、大企業の側でも常にベンチャーを注視し、提携や買収によってそれを取り込むといった役割分担がうまく機能すれば、産業を活性化していくこともできる。

EVベンチャーを選んだ理由については、産業構造の変化への着目がある。エンジン重視の垂直統合型から、電池を中心とした水平分業型へという変化は、コア技術を社内に保持しない形のビジネスモデルへの転換を促していて、世界でもEVベンチャーが次々と起業されている。また、EVのなかでも特にスクーターに絞ったのは、走行距離や安全性などの性能面で四輪よりもハードルが低いぶん、大手企業が強みを発揮できず競合が少ない、という状況があるからである。
らに、東南アジアをターゲットとした理由は、社会全体におけるガソリン二輪への依存度が高く、大気汚染や騒音といった環境面でも、ガソリン高騰といった経済面でも、EVへの切り替えが急務となっているからで、今後かなりの市場拡大を見込むことができる。目下注力している「フィリピンE-trikeプロジェクト」(アジア開発銀行支援)への参画も、その重要な足がかりになると考えている。また、従来ベトナムを席捲してきた中国製のEVスクーターは、その品質や体制に問題がある。したがって、低価格と日本ブランドの信頼感によって市場を獲得し、供給体制やメンテナンス網などの仕組をいち早く築くことができれば、やがては市場を寡占化に持ち込める可能性もある。そのためにベトナムに新たに自社工場を建設し、生産供給体制の強化を図っている。
 (文責:藤井由紀子)



 ↓ 「CO2とイノベーション」研究会についてはこちらをご参照ください
http://hitotsubashiblog01.blogspot.jp/2012/08/co2-magicc-co2-5-6-co2-co2-magicc-hp.html



2012年12月22日土曜日

《magicc ニュース 2》 国際シンポジウム開催予告(3/14-15)




magicc: 国際シンポジウムの開催予告

(事前ミーティングの様子)


2013年3月14日-15日、magiccでは国際シンポジウムを開催することになりました。

現在、プログラムを作成中です。
出来上がり次第、magiccのHP、および、イノベーション研究センターHPに掲載し、参加希望者を募る予定です。

【一橋大学イノベーション研究センター主催シンポジウム】
 ―日本再生に向けたグリーンイノベーション:環境・エネルギー・経済発展の両立に向けて―

  日時: 2013年3月14日(木)・3月15日(金)
  場所: イイノホール&カンファレンスセンターでの開催予定
         (東京都千代田区内幸町2-1-1)
  内容: 基調講演
       セッションⅠ 日本再生に向けたグリーンイノベーション
         (モデレーター: 米倉誠一郎/一橋大学イノベーション研究センター教授)
       セッションⅡ 環境・エネルギー・経済発展の両立に向けて
         (モデレーター: 青島矢一/一橋大学イノベーション研究センター教授)


また、上記シンポジウムに向けた準備の一環として、昨年の12月22日にmagiccプロジェクトの報告会を行いました。
「新エネルギー・新産業の創出」分野からは、太陽光発電、地熱発電、水処理ビジネス、スマートグリッド(スマートシティ)、「既存産業の取り組み」分野からは、火力発電(タービン)、廃プラスティック処理、ものづくり、「政策・制度」分野からは、排出権取引、政府投資など、各テーマに沿って各自が報告を準備して議論を交わしました。その具体的な内容については、各報告者の協力を得て、今後、当HP上で順次公開していきたい、と考えています。













2012年12月3日月曜日

新東工業㈱ 豊川製作所見学記 (宮原諄二)


新東工業㈱は「エアレーション造型法の開発と実用化」で平成22年度(2010)大河内記念生産賞を受賞した。エアレーション造型法とは、鋳物砂を空気圧力により流動化させ鋳型を作る方法であり、関連する一連の技術をシステム化して「鋳造」分野に技術革新を起こすことになった。この技術開発の背景や経緯を知りたく、日本三大稲荷として名高い豊川稲荷のすぐそばにある豊川工場を2012年月2月に訪問し、専務取締役の川合悦蔵さんと開発リーダーであった平田 実さんのお二人にお話をうかがった。


★★ 新東工業㈱のケーススタディが「リサーチ・ライブラリ」からダウンロードできます ★★
      藤原雅俊「新東工業株式会社:エアレーション造型法の開発と実用化     
      ↓ 「リサーチ・ライブラリ」へのリンクはこちら  (ケーススタディの項目をご参照ください)
 中央: 平田実 氏 /新東工業㈱ 鋳造事業部 副事業部長
  画面右: 宮原諄二 /元・一橋大学イノベーション研究センター長(本記執筆者)
  画面左: 藤原雅俊/京都産業大学経営学部 准教授(ケーススタディ執筆者)


 いずれの企業であっても独自のパラダイムを持っている。そうであったからこそ、その企業が成長し発展して今日がある。しかし、成長発展の原動力であったそのパラダイムが、時を経るにつれて社内や社外の環境に適合しなくなる時期は必ず訪れるものである。何も手を打たなければ、その技術・その事業・その企業は確実に衰退の方向に向かう。イノベーションの芽は、しばしばそのような状況の中で生まれる。新東工業の「エアレーション造型法」のコンセプトも、1990年代の後半に主要の「鋳造」市場が急速に低迷し、革新技術によって「鋳造」市場を立て直すか、新たな事業分野進出を模索しようかとの状況の中で生まれた。新東工業は前者を選択した。

 「鋳造」という技術は実に長い歴史を持つ。ホモサピエンスが自然銅や自然金を偶然に発見し、それを叩いて整形し利用し始めるようになったのは今から数万年前である。しかし、それらを溶かすほどの高温にする技術を会得し、金属の成型物を大量に作る「鋳造」技術を人類が知るようになったのは、新石器時代の初めの頃、およそ6000年前になる *1 。鉱石から金属を取り出す「冶金」技術を知るのは、さらにそれ以降のことである。以来、人類は20万年にもわたる長い石器時代を抜け、青銅の時代を経て現在の鉄鋼の時代へと大きく躍進を遂げてきた。
新東工業㈱ 豊川製作所 (愛知県豊川市穂ノ原)
   
*1 参考:フォーブス著、平田寛・道家達将・大沼正則・栗原一郎・矢島文夫監訳:「古代の技術史 上 金属」朝倉書店(2003.10.1.初版第1刷)、B.W.スミス著、和田忠朝訳:「銅の6000年」アグネ(1966.12.25初版)、A.アシモフ著、小山慶太・輪湖 博訳:「科学と発見の年表」丸善(1995.10.5.第3刷)、その他




 鋳造技術の重要な領域は、高温に耐える鋳型を作るための鋳物砂、すなわち「粉体」の制御技術である。粉体を扱うと、不可避的に他の物体との「摩耗」という現象を伴うために、摩耗の制御技術もまた必要となる。「粉体」や「摩耗」に関する技術は、まだ解明されていないさまざまな物理的・化学的な現象から成り立っていて、またそれがさまざまな環境要因によって影響を受けるために、アカデミックな学問には馴染まない技術分野の典型である。

 新東工業は、空気を物理的な媒体として利用して、液体や粉体を搬送したり混合したり粉砕したりする、よく知られた“エアレーション”という技術を、同社の技術の系譜としてつちかってきたさまざまなノウハウと社外のさまざまな技術とを統合し編集して、「鋳造」分野の革新的な技術として創り上げた。現在では“エアレーション”との言葉は、当該分野では同社のブランド名になるほどに、“鋳物を作る設備”の世界のトップ企業として以前と変わらぬ地位を確保することができた。

 このように経験によるノウハウの寄与が高く、なおその技術領域に八百万の神がまだおわしますようなアナログ的技術は「機能統合性の高い技術」 *2 と言えよう。この性格を持つ技術は、模倣されにくく、技術の優位性を長く保つことができ、競合が少なくコスト競争になりにくく、結果として企業間・国家間での技術移転速度が遅いとの利点がある。しかし、その一方で、“閉じられた技術のループ”にはまり込み、自立的な発展性に限界が生じ、それを代替する技術が出現したときには壊滅的な影響を受ける技術でもある。電子デジタル技術の出現によって、ほとんど消滅してしまった銀塩写真やレコードなどはその典型例である。

*2 一方、ロジックの積み重ねの寄与の大きく、結果として一神教的な世界に生きているデジタル的な「機能拡張性が高い技術」がある。技術の汎用性が高く、多数の製品に適用でき、製品コストを安くできる一方で、模倣されやすいために競合がはげしくて優位性を保ちにくく、コモディティになり易い技術である。モデルチェンジの間隔も短く、企業間や国家間の技術移転速度も速い。企業や国家の技術戦略を考える上でその技術がどのような性格をもっているかとの視点は重要である。
 豊川製作所「商品体感センター」の様子

 企業における技術革新が成功するには、最初のコンセプトが重要であることは論を待たない。しかし、それと同等以上に重要な要因は、実際の開発プロセスに携わった人々である。テーマを成し遂げようとする「熱き思い」を持ち、組織や個人に豊富な「無意識知」が蓄積され、そしてさまざまな「偶然」に出会う自由の場が作られていて、それらすべてが焦点化されて共鳴することだ。川合さんは「エアレーション造型法」の基本アイディアを考え、当時ドイツ駐在員であった平田実さんにそのアイディア実現の想いを伝え説得した。平田さんを見込んだからである。お二人はパーソナリティ(“自由な子供”と“理性的な大人”)も異なり、蓄積されている暗黙的知識も立場も違っているのであるが、互いに信頼しあっている実に好ましい組み合わせであることがよくわかった。成功する開発事例の必須の条件である。

新型造型機「FDNX」
  現在、新東工業は「鋳造」分野だけではなく、「粉体」と「摩耗」の制御技術を『技術の核』として多方面に展開している。ショットブラストのような金属表面加工分野、それに用いる独特のセラミックや金属粉体などの消耗材料分野、大型精密加工アルミナ・セラミック製品分野、メカトロニクス分野や環境システム分野などへの展開である。さらには世界各地に導入された鋳造プラントを円滑に操業するために世界規模の遠隔保全ネットワークシステムも立ち上げた。いずれも他社が模倣しにくい「ノウハウの塊」技術に仕上げている。世界の荒波を生き抜いていく特異的な日本企業の代表例の一つとして期待したい。